破綻論理。

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空の記憶

第14話 臙脂色の友情First posted : 2016.04.08
Last update : 2022.10.22

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「ハリー達はロケットの破壊方法を知らないんだ」

 そのことに思い至ったのは、少し遅かった。ぼくとしたことが。
 しかし過ぎたことを悔やんでも仕方がない。思い至ったことを喜ぶことから始めよう。

「という訳で。あなたに頼みたい、フィニアス・ナイジェラス・ブラック」

 ホグワーツの校長室、ずらりと並んだ肖像画の中の一つ、フィニアス・ナイジェラス・ブラックの肖像画の前に立つと、ぼくは言った。
 彼はしばらく寝たフリでぼくを誤魔化していたが、ダンブルドアが自らの肖像画を抜け出てフィニアスを小突きに行ったことで、堪忍したらしい。

「仕方ない。貴様の命令を聞いてやろうじゃないかクソガキが」
「実年齢自体はもう三十過ぎたいいおっさんなんだけど」
「生者の概念なぞ知らん。寿命がない我ら肖像画にとって、生者などどいつもこいつもガキさ」
「そういうものなのかな」

 よく分からないけれど、まぁそう言うのならば言い分は認めよう。

「しかし私はあくまでも、あのクソガキ三人共から聞かれない限りは答えんぞ。いきなりそんなことを言い出したら、いくら頭の中がオガクズ詰まっている阿呆とて不審がるに決まっている」
「……それもそうだなぁ。んー……」

 顔を伏せ、額を中指で叩いた。何かいい案は出ないものか。

「……剣」

 ちらりと、ガラスケースに収まったゴドリック・グリフィンドールの剣を見遣る。この剣をどうにかして彼らに渡したい。
 あと、ハリー達がフィニアスに分霊箱の破壊方法を聞こうと思うに足るだけの理由が必要だ。

「…………」

 考えて、考えて、考えて。高かった日が沈み、部屋の中が薄暗くなるのにも気付かないくらいにずっと考えて。

 いきなり立ち上がったぼくに、フィニアス・ナイジェラスは驚いたような声を上げた。

「何か思いついたのかね?」
「あぁ!」

 言っている暇も惜しい。校長室から駆け下りると、廊下へ。
 ちょうど最終の授業が終わった頃合いだったため、廊下の人は混み合っていた。苦労して抜けながら、ジニーの姿を探す。

アキ! どうしたの、そんなに慌てて」

 声を掛けられ振り返ると、そこにいたのはネビルだった。穏やかな微笑みを浮かべている。
 そうだ、ネビル。

「ちょうどいいや、ついてきて! ジニーとルーナを探しているんだ」

 ぼくの言葉に、ネビルは目を白黒させた。

「一体どうして?」
「後でゆっくりと話す……君にも協力して欲しい、んっ!?」

 いきなり結んでいた髪を引っ張られ、ガクンと首が後ろに倒れた。
 勢いが良かったため首の筋を違えたようだ。首を押さえ、しばらく声も出ないほどの痛みに悶え苦しむ。

「あぁっ、ごめんよアキ! フードを掴もうと思ったんだけどちょっと目測誤ってさ。本当にごめんね」
「う……ん、い、いいけどさ……一体急に、何の用?」

 ぼくの首の筋を違えさせるほどの用件なのだろうな、という気持ちを込めネビルを見るも、ネビルにはあまり伝わっていないようだ。なんだか、その辺りのおっとりのんびりマイペースさは……彼のお母さん、アリス・ロングボトムさんに、似ている気がした。

「ジニーとルーナの時間割を知っているよ。この時間ならちょうど変身術が終わった頃合いのはずだ」





 レイブンクロー寮をこういう作戦会議の場として選んでしまうのは、きっとぼくがレイブンクロー生だということもあるが──カロー兄妹には決してレイブンクローのノッカーが出す問題が解けないだろうという自信の表れでもあった。
 レイブンクローの談話室に、ぼくとネビル、ルーナ、ジニー。
 ぼくらの周りには野次馬というか好奇心に駆られたレイブンクロー生ども。基本的に、好奇心で動いているレイブンクロー生は無害だ、放っておいて構わない。全ての腹を割って話したのだ。彼らがぼくを信頼してくれているのと同じように、ぼくも彼らを信じたい。

「校長室に、グリフィンドールの剣を盗みに入って欲しいんだ」

 ぼくの言葉に三人は驚いたようだったが、すぐさま真剣な表情になった。話の続きを静かに待つ。
 それを確認して、再びぼくは口を開いた。

「盗みは成功しなくて構わない──あのガラスケースの中の剣は偽物だ。本物はちゃんと保管してある。『盗みに入った』という事実と、その後『処罰された』という情報、ぼくが欲しいのはこれだ。処罰と言っても軽いものにする──ハグリッドと森の散歩、が妥当かな。ぼくらはそれを大々的に利用する。ハリーにそのニュースを届かせたい。だからこそ、ロンの妹でハリーの恋人であるジニーと、あの三人の友達であるネビルとルーナが必要なんだ。危険なことかもしれないけれど、やって欲しい。……勝手なことばかりで、ごめん」

 頭を下げた。
 と、頭に三回分の衝撃。驚いて顔を上げると、三人の笑顔と目が合った。

「目一杯、使ってよ。あたしたちは、アキを信じているんだから」

 叩かれたところを撫でながら、ぼくは僅かに頬を緩めた。



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