破綻論理。

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空の記憶

第14話 全てが始まる、些細な一日First posted : 2011.05.15
Last update : 2022.09.12

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 ごめんねごめんね、
 僕だって君を救いたかった
 僕らの道は、一体どこですれ違っちゃったんだろう?





 魔法薬学の教室である地下牢が休み時間に開放されている、という事実は、意外と生徒に知られていない。授業の枠を越えた学習をしたい者のためのものではあるが、しかし悲しいかな、魔法薬学が得意な者でもわざわざこんなところまで来て勉強しようとする者は稀である。理由は簡単、遠いし寒いし、何処となく陰気臭いからだ。

 セブルス・スネイプは、その稀な生徒の一人であった。図書館で借りた魔法薬関連の本を手に、無表情を貫きながらも、頭の中では魔法薬の公式やら何やらがぐるぐる回り回っている。補足だが、彼にとってはそれが楽しいのである。

 教室の中へ入る。勝手知ったるとばかりに手慣れた様子で材料棚から必要な分だけ材料を取ると、席に着いた。大鍋に不気味な色をした液体を丁寧に注ぎ込むと、杖を一振りして火に掛ける。ニガヨモギの粉末を加え二分三十秒、その間に薬草を刻んで──

 その時初めてセブルスは、この教室に自分以外の人間がいたことに気付いた。

 小柄な少年だった。セブルスも小柄だが、この少年に比べると大きい。青色のフードがついたローブを身に纏い、黒髪は少女のように長く、後ろで一つに括っている。

 その少年──幣原は、机に突っ伏して眠っていた。辺りには魔法薬の材料が無造作に散らばっており、大鍋は銀色がかった穏やかな湯気を上げている。大鍋の火が消されていないことを見ると、どうやら途中で眠ってしまったようだ。

「…………」

 セブルスは一瞬だけ躊躇ってから、ゆっくりと彼に近付いた。

「……おい、幣原、起きろ」

 しかし、呼んでも揺すっても、が目覚める気配はない。とことん熟睡してしまっている。あまりにも気持ち良さそうに眠っているので、起こすのが忍びなくなってくる程だ。思わずため息を吐く。その拍子に、の腕の隙間から覗いている一枚の紙が目に入った。

「……あぁ、これか」

 ひとつ前の授業で、これと同じ魔法薬を作成した。今回のレポートは、その魔法薬を使用して薬効を確かめる類のものだ。しかし普通やれば授業中に一通りは出来るもので、この少年はそう手際や要領が悪いようには思えないのだが。と、の傍らに英和辞典が置かれているのに気付き、納得した。そう言えば、彼にとっては英語は外国語なのだ。本人に能力があろうがなかろうが、問題文が読めなければお話にならない。よく見てみれば、薬の作り方を記している紙には細かく色々と文字が──おそらく日本語だろう──書き込まれていた。

 セブルスの時計が二分三十秒を指す。後ろ髪を引かれながらも、自分の大鍋の前に戻り作業を開始した。ヨモギの葉を器用に一ミリ単位で刻みながら、ふと何かに引っ掛かりを覚える。一体何だ? としばらく考えこんで、あ、と思い出した。

 幣原の作っていた魔法薬は、最後は鮮やかなブルーになるはずだ。だがしかし、の大鍋の中にあった液体は何色だった? そして、あの魔法薬は途中ではなかったか?

 セブルスは刻んだヨモギを加えながら、思考する。

(……誤読、か)

 やがて、一つの可能性に気がつき舌打ちした。頭をやれやれと振り、自身の大鍋の火を消すと立ち上がる。薬棚の前に立って必要なものを探すと、それを手に取っての大鍋に近付いた。退行薬──前の状態へと遡る薬を、中の薬の様子を注意深く観察しながら慎重に加え、丁寧に掻き混ぜる。誤読されたであろう場所まで遡ると、新たに材料を加えた。

(……贖罪のつもりか)

 作業を続けながら、思わず自嘲した。結局は、彼を救うために何も出来ない──リリーのように積極的に行動出来ない自分なりの。

「…………っ」

 心の痛みに、歯を食い縛る。
 所詮は気になる女の子の前で、ただ虚勢を張りたかっただけなのか。
 そんな自分に、酷く吐き気がした。

 の笑顔をもう一度見たいというこの気持ちも、ならば偽善なのかもしれない。幣原はもう、二ヶ月も前にコンパートメントで出会っただけの自分のことを、忘れてしまっているだろう。

 何で、もっと早くに気が付かなかったのだ。どうして、自分は何一つ行動を起こさなかったのだ。

 そうしていたのなら──もしかしたら、こいつは。
 こんな酷い嫌がらせなんて受けずに、今も誰かの横で──願わくば、自身と、そしてリリーの隣で。

 笑っていたかもしれないのに。

「…………ごめん」

 思わず、ぽつりと呟いた。
 この少年が傷つく原因を作ったのは自分だと思い知らされ、一人俯く。

「……ごめん、…………」

 大鍋の中の薬は、いつしか、澄んだブルーに変わっていた。





「…………ごめん」

 小さな声が聞こえた気がした。夢うつつのまま、ぼくは聞こえる声に耳を澄ます。

 ──どうしたの?
 頭の中で問い掛けた。
 誰に謝っているの?
 どうして、そんなに悲しそうなの?

「……ごめん、……  ……」

 そんなに泣きそうな声を出さないでよ。
 一体、何があったの?
 何か、辛いことがあったのかな……。
 ぼくなんかでよければ、力になりたいな。
 でも、ぼくなんかが近付いたら、あっという間に嫌がらせのターゲットにされちゃうから、だから、ぼくは君の力になることが、出来そうにないや……。

「ごめんね……」

 眠気でぼんやりした頭で、呟いた。

「……なんで、  が謝るんだっ……やめてくれっ、僕はっ……」

 微かな声が、耳に届く。何故だか、すごく懐かしい……そんな声。久しぶりに、ぼくは口元に笑顔を浮かべた。

 ……眠い。果てしなく眠い。

 波のように襲ってくる睡魔に身を委ねかけ──はっ!? と、作りかけの魔法薬の存在を思い出した。一瞬で意識が浮上する。椅子から飛び上がったぼくは、慌てて机に駆け寄り大鍋の中を覗き込んで──

「……あれ?」

 既に完成していた薬を見て、首を傾げた。おかしい。ぼくの記憶では、この薬はまだ作りかけだったはずだ。しかしどうだろう、材料の後片付けまで綺麗になされている。もしかして夢遊病者のように、眠りながらも作業を続けていたのだろうか。それは、果てしなく嫌過ぎる。

「……ま、いいか」

 ぼくは誰に聞かせるでもなく呟いた。
 なんか、久しぶりにいい夢を見たように気分がいい。
 晴れ晴れとした笑顔を浮かべて、ぼくはその魔法薬を瓶に詰めると、名前を書いて教授の机に提出した。


  ◇  ◆  ◇



アキっ! 会いたかった久しぶりだね最近どうご飯食べてるちゃんと眠れてる友達出来たいじめられたりしてないっ!? あとあと」
「ストップ、落ち着いて、ハリー」

 まるで詰め寄ってくるように矢継ぎ早に質問(?)を繰り出すハリーを諌める。質問したはいいものの、ぼくの答えを聞く気はあるのだろうか。……なさそうだ。ハリーはそういう奴だ。

「ああでもアキのことが心配なんだよ! ホントに大丈夫? 寮で孤立してない? 嫌な奴とかいない? 嫌がらせ受けてない? 言い寄られたりされてない? セクハラ受けてない? 僕はすごく心配だよアキが」
「はいストップ、今変な言葉聞こえたー。なんだよセクハラって。それと女の子に言い寄られたことなど今まで一度もないわ」
「大丈夫! 僕が想定してるのは男だから!」
「なお悪い!」

 想像したくもない。首筋を冷たい手で撫でられた気分だ。腕を触れば、鳥肌が立っていた。うわぁ。

「……と、そういえば、レイブンクローに不良が入ったって噂を聞いたんだけど、本当なの?」
「あー……うん、まぁ」

 アリス・フィスナーの顔を思い浮かべながら、ぼくは曖昧に返事をする。もう余所の寮まで広まってんのか。なんか……やだなぁ。

「上級生数百人を前に、切った張ったの大立ち回りをやらかしたっていう」
「すごいことになってる!」

 人の噂は、これだから。

「……ぼくは、悪い子じゃないと思うんだけどなぁ」
「そうなの?」

 多分ね、とぼくは呟いた。ふぅん、とハリーは軽く頷く。

「まぁ、何かあったら、僕にすぐ言うんだよ? アキは何でも自分の中に溜め込む癖があるからね」
「今の言葉、そっくりそのままハリーに返すよ」

 その時、予鈴のチャイムが鳴った。あっ、と慌てたように腕時計を確認するハリーに、ぼくは尋ねる。

「次の授業は何?」
「魔法薬学。最悪だよ、スネイプはきっと僕を毛嫌いしてるに違いないね」
「君だけじゃない、ぼくのことも嫌いだろうね」

 先日の出来事を思い返しながら、ぼくは苦い顔で呟いた。ふぅん? と少し興味があるように相槌を打つハリーだが、時間が押しているということを思い出したように「ヤバい!」と叫びダッシュで廊下を走って行った。

「……さて」

 図書館に寄るつもりだったのだが、ハリーと話しているとあっという間に時間がなくなってしまった。小さくため息をついてぼくは歩き出し、

「……ん?」

 四、五歩足を進めて立ち止まる。足元に転がる『それ』を拾い上げ、目の高さにまで掲げた。

 一冊の本──否、教科書だった。魔法薬学の教科書の表紙をペラリとめくってみれば、そこにはやっぱりというか──

「……ハリー……」

 ──ハリー・ポッターという見覚えのある名前の、これまた見覚えのある筆跡を左手でそっと撫で、ぼくは息を吐いた。パタンと音を立て教科書を閉じると、ハリーが走って行った方向をしっかと見つめる。

「……これが魔法薬学じゃなかったら、届けないんだけどなぁ……」

 呟いて小さく笑い、ぼくは駆け出した。
 ぼくにも次の授業があるのだということを、忘却の彼方に置き去りにして。





「…………っは、は……」

 荒い息を、背後に飛び下がりながら整える。額の汗を、右手で拭った。目の前には、こちらを睨み据える上級生が四人。

 ピリリとした敵意と殺気が、肌を灼く。戦いへの高揚感に、背筋が震える。

「ふ…………!」

 内側から湧き上がってくる『それ』は、空虚な身の内を満たしてくれる。素直な衝動に身を任せ──

 アリス・フィスナーは哄笑した。





 国際魔法使い連盟に登録されている、名門ホグワーツ魔法魔術学校。英国魔法界随一の尊厳を持つこの学校にも、やんちゃな行動をし、学校や社会に反抗する、所謂『不良』という奴らは存在する。薄暗くじめじめとした場所を好む彼らは、仲間を作り徒党を組む。初日から問題を起こした『はぐれ者』のアリス・フィスナーが声を掛けられるのは、それも当然なことであった。

 しかし──

「断る」

 申し出を切って捨てたことで、この喧嘩は始まった。一対四、しかも相手は入学したばかりの一年坊主。始めは集団リンチとにやにや笑いを浮かべていた彼らも、雲行きの怪しさに顔面から笑いを拭い去っている。その様子が、堪らなく──愉しい。

 自分の居場所は、きっとここなのだ。
 こうとしてしか、自分は生きられないのだ。

「────」

 父親の顔を思い出し、心が乱れた。チッと舌打ちをし、頭を振る。

 殴り掛かってきた一人を、身を翻して交わした。勢いのついた右手を掴むと、トンと軽く捻り上げる。それだけで、その上級生の身体はふわりと宙に浮いた。「え?」と目を瞬かせる上級生を、手加減も容赦もなく地面に叩き付ける。背中を強く打つと、しばらくは起き上がることは出来ないだろう。

「──さぁ、次はどいつだ?」

 凄絶に笑う。

 腐っても荒んでも、由緒正しい名門血筋の出。幼い頃から一流の教育を受けてきたし、それは体術とて例外ではない。護身術を超えた体術は、一通り獲得済みだ。いくつか歳上だからと言って、素人に対し引けは取らない。

 ──しかしそれは、正面から、一対一で、武器も無しに戦った場合のみである。

「……上級生を舐めんじゃねぇぞ、一年小僧が……!」

 一人が杖を取り出したのを見て、アリスは動きを止めた。血走った瞳でアリスを見据え、その切っ先をアリスの左胸──心臓に向ける。ざわり、周囲も飛び道具の出現に騒めく。

 そうか──失念していた。ここは魔法魔術学校。誰もが魔法使いであることに、変わりはない。

『まともに授業受けてない奴が強い魔法を使えるとは思えない』『でもそうは言っても何が起きるか分からない』『いい、構わず突っ込め』『下手したら命にも関わるぞ』、頭の中でめまぐるしく是か否の議論をしながら、相手の出方を注意深く伺う。

「どうした? 一年小僧。杖相手のケンカは初めてか? ビビってんぜ」
「テメェこそ」

 反射的に、アリスは言い返していた。

 マグル世界の銃にも匹敵する杖が自身に突き付けられていることも忘れ、何も考えずに言葉が飛び出す。

「杖握んのは初めてか? 震えてんぜ」

 あ、やべ、と言ってから後悔するが、時既に遅し。

「やんのかゴラァ、上等だ! ──」

 熱の籠った殺気と共に、杖が振り上げられた。光の速度で、呪いが襲い掛かってくる。避けることなど出来ない、ただただ来たるべき衝撃に備え身構えて──
 聞き覚えのある声が、耳に入る。

「まいったなぁ……」

 高い、まだ声変わりもしていない少年の声。風鈴の音のような、涼やかで澄んだ透明な声は、決して大きくはないのに不思議と聞き漏らすことはない。思わずアリスは、杖を向けられている状態だというのに振り返る。

Protego護れ

『彼』は、杖を持った左腕を上げ、一人前の魔法使いでも習得するには苦労するレベルの魔法を、さも何でもないことのように唱えた。青い閃光が、アリスの目の前三十センチのところで、まるで見えない壁にぶち当たったかのように火花を散らし、掻き消える。

 しかし、そんな光景も、不良たちが新たな登場人物に呆気にとられている間抜け面も、アリスの視界には入らない。

 小柄な体躯。
 一つに括られた艶やかな黒髪。
 レイブンクローのカラーが入ったローブをその身に纏った『彼』は。

「よっす、アリス・フィスナー」

 アキ・ポッターは、一点の曇りもない微笑みをアリスに向けた。

「で、フィスナーは何してんのさ」
「見て分からねぇか? 喧嘩だ喧嘩」
「ふぅん? さっきは大分ピンチな状況みたいだったけど?」
「馬鹿お前、あそこから俺の大立ち回りが始まるはずだったんだよ。出番取りやがって」
「やったね、ぼくヒーロー?」
「色で言ったらピンクだ」
「せめて赤! 赤でお願い!」
「テメェ、さりげなく譲歩の振りしてレッド奪ってんじゃねぇ! ……たく、責任取ってもらうぞ」
「え、何妊娠したの? えっと、まずそれってぼくの子? 覚えが……あぁあの時ね、君の親にも挨拶行かなきゃなあ痛っ」
「黙れ。気抜くな」

 軽口を叩くアキの頭を小突いて、注意を促す。辺りを見渡したアキは、いつの間にか自分達二人が不良たちに囲まれていることに気付いて苦笑いを浮かべた。見れば、全員が杖をこちらに向けている。打ち合わせをするでもなく、自然とお互い背中を合わせ、アリスは拳を、アキは杖を、それぞれ構えた。

「というか、どこでさっきの呪文習得したんだ、あれは六年のレベルだぞ」
「本に書いてあったの、やってみたら出来ちゃった」
「この呪文必死で練習した奴らに土下座しろ」

 後ろから、笑い声が聞こえる。上級生に囲まれ、杖を向けられているという、魔法使いにとってみれば絶体絶命の状況にも関わらず、アリスは何故だか、ちっとも緊張していなかった。

 簡単に言えば、安心したのだ。

「…………」

 アキの魔法の腕前に──ではない。
 アリスはこの、小さくて華奢な、少女のような風貌をした同寮の少年の存在に──ほっとした。空っぽだった胸の中に、この少年はするりと入り込んできた。

 今まで張っていた、他人との壁──そんなのは初めから意味が無かったのだと、静かに理解する。

 本当は、ただ。
 誰かに分かって欲しかった。

「おい、──」

 アリスが背後の少年に向かって声を掛けた瞬間──チャイムが鳴った。

「「────!!」」

 アリスは目を見開いて凍りつく。背後で、同じように息を呑む声が聞こえた。おそらく彼も、自分と同じ気持ちなのだろう。不良たちは、突然顔色を変えた二人を怪訝そうに見つめた。

 アリスは、淡々と呟く。

「チャイム──鳴ったな」

 後ろの少年も、同じく淡々と返した。

「……鳴ったね」

 そして、二人揃って大きなため息を吐き──

「とっとと終わらせるぞ」
「了解」

 そんな台詞を掛け合ってから──

 アリスは拳を握り、不良たち目掛けて突っ込んだ。同時に、アキが一人を失神呪文で気絶させる。それらを合図として、校舎裏は、てんやわんやの大騒ぎに包まれた。

 上級生と一年生──―文字面を見ればどちらに分があるかは一目瞭然だが、しかし最後に立っていたのは、圧倒的不利な筈の一年生二人組であった。

「授業、始まってるよな」
「当たり前じゃん、チャイム鳴ったんだし」

 汗を拭いながら、アリスは言う。呪文と拳が飛び交う先程の戦いの後だというのに、身体には小さな擦り傷くらいで、目立った外傷はない。

 アリスに皮肉げに言葉を返したアキは、一体どういう訳なのか汗の一つもかいていなかった。しかし、彼らの顔には疲労の色が濃く残っている。喧嘩の後の肉体的な疲れではなく、もっと別の、精神的な──

「どれもこれも、アリスのせいだ」
「否定はしない」
「お前だけ怒られろ」
「それは拒否する」

 彼らがチャイムに顔色を変えた理由。それは──

「「……まさかマクゴナガルの授業をブッチするなんて……!」」

 一体どんなペナルティーが待っているのか、想像しただけで寒気がする。

「というか、いつの間にファーストネームで呼んでんだよ。許可した覚えはねぇぞ」
「友達が名前で呼び合うのは普通でしょ? ということで、アリスもぼくのことアキって呼んでよね」

 アリスはちらりと隣の少年の顔を見て、そして大きなため息をついた。

「ちょっと何さそのため息! そんなに嫌かコノヤロウ! いいよ、何言われたってずっと名前で呼んでやるから! アリスアリスアリスアリス!」
「うるせぇ」

 アリスは肩を竦め、空を見上げる。
 この少年に、顔を見られないように。
『友達』という新鮮な響きに顔がにやけるのを、悟られないように。



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