破綻論理。

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空の記憶

第30話 薄氷の上に立つようなFirst posted : 2015.10.11
Last update : 2022.10.11

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「もう限界だわ」

 リリーはそう言うと、くるりとセブルスに向き直った。

「エイブリーやマルシベールらと手を切りなさい、セブ」

 四月。寒さがだんだんと和らぎ、草木が萌え出すこの頃。
 リリーは中庭で、セブルスに向き直った。リリーの表情は今まで見たことがないくらい真剣で、嫌悪感を表すように形のよい眉を顰めていた。

「……僕たちは友達じゃなかったのか? 親友だろう?」
「そうよ、セブ。でも、あなたが付き合っている人たちの何人かが嫌いなの! 悪いけど、エイブリーやマルシベール……マルシベール! 一体どこがいいの? あの人がこの前、メリー・マクドナルドに何しようとしたか、知ってる?」

 リリーは柱に寄りかかると、セブルスの顔を覗き込んだ。
 この一年で、ぐんとセブルスは背が伸びた。リリーはそれに悔しがっていたっけ……。

「あんなこと、何でもない。冗談、そう──」

 セブルスとリリーの会話に入れぬまま、ぼくは黙って空を見上げていたが、リリーの言った『闇の魔術』という言葉に目を向けた。

「あれがただの冗談? セブ、あなた本気で言ってるの?」
「じゃあポッターらがやっていることはどうなんだ? 夜にこっそり出歩いて、毎月満月の日に──」

 ぼくの視線に気付いたか、セブルスはそこで言葉を止めた。
 リリーが「あなたが何を考えているかは分かってるわ」と、静かな、ともすれば冷たい声で言い放つ。

「でも、あの人たちは闇の魔術を使わないわ。この前の晩に何があったか、聞いたわよ。ジェームズ・ポッターが、あなたを救ったと──」
「救った? 救った!? 君はあいつが英雄だと思っているのか? あいつは──僕は君に──許さない」
「私に何を許さないの?」

 リリーの瞳がきゅっと細くなる。
 セブルスは何を言ったらいいのかも分からず、でも言葉を止める訳にもいかずに、無理矢理言葉を紡いだ。

「そういうつもりじゃなくって……ただ僕は、君があいつに騙されるのを見たくなくって……ジェームズ・ポッターは君のことが好きなんだ!」

 なぁんだ、と言わんばかりに、リリーは鼻を鳴らした。

「私がポッターに騙される? 騙せるものなら騙してみなさいよ。ポッターが私に気があることなんて、今じゃ学校の半分が知ってるのよ。ねぇ?」

 どうしてそこでぼくに振るのだ、リリーは。
 曖昧に笑顔を浮かべると、にっこり笑顔が返ってきた。しかしすぐさまリリーは表情を引き締めると、セブルスを見上げる。

「ジェームズ・ポッターは傲慢で嫌な奴よ。でも、マルシベールやエイブリーが冗談のつもりでしていることは、邪悪そのものだわ。セブ、邪悪なことなのよ。どうしてあんな人たちと友達になれるのか、私には分からないわ」

 セブルスの友人を強く非難するリリーの言葉を、ぼくは少し遠くで聞いていた。
 セブルスの友人関係についてどうこう言う権利を、ぼくは持っていない──だってセブルスは、ぼくと仲良く『してくれている』んだもの。

 ……でも。だとしても。

「……でも、ヴォルデモートの意見に賛成している君は、ぼくも嫌いだ。『闇の魔術』だって。あんなもの、誰も幸せになんてしない。相手を傷つけるためだけの魔力なんて──」
「君には分かるまい!」

 セブルスに、叩きつけるように叫ばれた。はっとぼくは目を見開く。
 セブルスは頭を振って、ぼくを睨みつけた。心の中がぐちゃぐちゃで、どうしようもない、そんな眼差しだった。

「力を持っている君には、強い君らには、僕の気持ちなど分かるものか!」

 そんなことを叫ばれて、なおも心を落ち着かせて平常心でいることは、まだまだガキンチョのぼくには無理なことだった。
 カッと頭に血が昇る。

「あぁ分かるわけないだろうが! 分かりたくもないね、人殺し野郎を是として崇め奉るような意味不明な宗教団体にはね!」
「あの人のことを悪く言うな、何も知らない癖に!」
「盲目過ぎるのも困りものだな! 何も知らないのはそっちだろう!」

 セブルスに胸倉を掴まれた。背後の柱に押し付けられ、たまらずカバンを離す。
!」と、リリーの悲鳴のような叫び声が聞こえるのも構わず、ぼくとセブルスは睨み合った。

「……。君とは分かり合えると思っていたのだが」
「奇遇だね、ぼくもだよ。……いや、ぼくも『だった』よ」

 過去形で言えば、セブルスの眉が寄った。

「訂正しろ、幣原。そうすれば見逃してやる」
「もうやめて! も、セブも!!」

 リリーの声を無視して、ぼくは言葉を発した。

「いつの間にそんなに従順になったの? ……絶対認めてなるものか。あんな殺人鬼野郎に従うなんて」
「あの人の高尚な思想を、君なら理解出来ると思ったんだがな。見込み違いだったようだ」
「それはこっちのセリフだ、セブルス・スネイプ。ヴォルデモートは間違っている」
「あの方を否定するな!」

 強く揺さぶられた。
 右手でセブルスの左腕を掴むと、セブルスはハッとしたようにぼくから手を離した。その不自然な動きに、思わず目が止まる。
 柱にもたれかかったぼくは、そのまま座り込んだ。ケホケホとえずくぼくに、リリーは駆け寄ると「セブ!」と非難する眼差しをセブルスに向けた。

「……リリー、君はやっぱり、の味方をするんだな」
「馬鹿なこと言わないでよ!? セブ、、あなたたち二人とも今日はおかしいわ! 頭を冷やしなさい!」

 リリーがぼくの前に立ち塞がる。その言葉にぼくらは口を噤んだが、熱が冷めやらぬまま、憎々しい目つきで互いを見遣った。

「左腕、どうかしたの? 変に庇ってた」
「……君には関係ない」
「あぁ、そうかい」

 一瞬、セブルスは何か言おうと口を開きかけた。
 しかしぎゅっと唇を引き結ぶと、落とした自分のカバンを拾い上げ、黙ってぼくとリリーに背を向ける。

「ちょっと、セブ!」

 リリーの声にも耳を傾けることなく、足音荒く立ち去っていくセブルスに、ぼくはイライラと前髪を引っ張った。そしてカバンを肩に引っ掛けつつ立ち上がると、小さな声で「ごめん、ぼくもイラついてるみたいだ。……君の言う通り、頭冷やすよ」とリリーに呟き、セブルスが消えた方向とは全く逆の方へと足を向ける。

! ……後から、ちゃんと仲直りするんでしょうね!?」

 背後から掛けられた、そんなリリーの言葉に、ぼくは返事をしなかった。

 この時は思いもしなかった。
 これが、ぼくら三人の、最後の会話になるなんて。

 ──もし、時間が戻せたなら。
 ──もし、違う決断をしていたなら。


 結末は、変わったのだろうか。

 

  ◇  ◆  ◇

 

「えっ──ドビーが?」

 兄、ハリー・ポッターから思いも寄らぬ名前が飛び出してきたのに、ぼくは動揺した。

 第二の課題で、ハリーに鰓昆布を入れ知恵したのは一体誰なのか。それを尋ねると、ハリーはあっさりと、元マルフォイ家、現ホグワーツに仕える屋敷しもべ妖精、ドビーの名前を口にした。

「そんな……そんなはずはない」
「どうしてそう思うの?」

 ぼくの口から漏れた言葉に、ハリーは訝しげに眉を寄せた。

「ドビーはいい奴だよ、君も知っているだろう? いつでもぼくを助けようとしてくれる。まぁ、少々その手段がいつも手荒なのは否めないけど……」

 二年生の時、クィディッチの試合でブラッジャーに魔法を掛けたときのことを言っているのか。

 ハリーに何と言えばいいだろう。ぼくは考え考え、口を開いた。

「……ドビーはそのことをどこから聞いたんだろう? つまりだ、課題の内容なんて、代表選手ならばともかく、普通の生徒は知るはずがない、そうだろう? なのにドビーが課題の内容を知っていて、しかもその対策までも持ってきてくれた。一体どうして?」
「うーん……そう言われちゃ、僕も分かんないよ。あの時は無我夢中で、ドビーの助けが天からの救いに見えたんだ。アキは全く力を貸してくんないしさ」

 ハリーは半眼でぼくを見ながら最後の一言を呟いた。
 はは、とぼくは力無い笑い声を上げると「ごめんね」と息をついた。

「なにか理由があるの? 僕を手伝ってくれないことについて」
「…………」

 そう尋ねられ、ぼくは黙った。ハリーはそんなぼくの様子をじっと見つめていたが、やがて「……なるほどね。答えられない事情があるんだ」と肩を竦める。

「……ごめん」

 何を言っていいのか、何を言ってはいけないのか、だんだんとよく分からなくなってくる。
 ハリーに嘘や隠し事をするのは、他の人に対するものとは訳が違う。心が圧迫され、何もかもを喋ってしまいたい衝動に駆られるのだ。

「でも、これだけは……これだけは知っていて欲しい。ぼくは絶対に、君を裏切るような真似はしない。ぼくは絶対に君の味方だ。『破れぬ誓い』を結んだっていい──」

 ぼくの言葉を、ハリーは笑顔で止めた。

「知ってるよ、アキ。僕は君のことを、世界で一番よく知ってる。僕らの間に、たくさんの言葉は必要ない。そうだろう?」

 ハリーはぼくの両手をぎゅっと握った。ハリーの袖元から、銀のブレスレットが見える。

「僕は君のことを信じ続ける。何があっても、どんなときでも。絶対的な信頼を僕は君に置いているし、君も僕に同じ気持ちを抱いていることくらい知っている。……分かってるよ、アキ

 トン、と背中を優しく叩かれた。

「君が、僕を守ってくれるんだろう?」





「ドビー!」

 勢いよく厨房に現れたぼくに驚いたように、しもべ妖精たちの目が一斉に集まった。ぐるりと見回しドビーの姿を発見すると、ドビーに駆け寄る。
 ドビーはいきなり現れたぼくに度肝を抜かれたようで、その場に硬直していた。悪いことをしたな、と反省し、ドビーのフリーズが溶けるまで待つことにする。

「な……なんでございましょう、アキ・ポッター様? ドビーめはあなた様に何かなさいましたでしょうか……」

 オドオドとぼくの目を見返すドビーの目線に合わせると、ぼくは出来るだけ優しく言葉を掛けるよう心がけた。

「ううん、ドビーが何かをした訳じゃあないんだ。今日は君に、一つ聞きたいことがあって。この前の対抗試合の課題を──」

 ぼくが言い終わる前に、ドビーはすぐ横のキャビネットに頭を打ち付けていた。
 慌てて「責めてるわけじゃないんだ!」とドビーの手を掴んでキャビネットから遠ざける。

「ハリーを助けてくれたんだろう? それについて、今日はお礼を言いに来たんだ」
「お礼……?」

 ドビーは大きな瞳にぼくを映して、訊き返した。そう、とぼくは大きく頷いてみせる。

「ハリーを助けてくれて本当にありがとう……君がいなかったら、ハリーは課題をこなせなかった。心から感謝の意を君に示すよ」

 そう言って深々と黙礼したぼくに慌てたように、ドビーはぼくの肩を揺さぶった。

アキ様、アキ・ポッター様。どうか顔をお上げになってください、ドビーめには過ぎた礼です……」
「ドビー」

 顔を上げた。
 ドビーの両手を掴むと、ぼくはまっすぐにドビーを見つめる。

「ハリーを助けるためなんだ。教えてくれ。君は一体《《誰から課題の内容を聞いた》》?」

 ドビーはぼくの言葉にぶるりと身震いした。

「ドビーめは言えません……ドビーめはたまたま聞いたのです……」

 ドビーの目線が、ぼくから逃げるように彷徨った。キャビネットに、テーブルに、積まれた皿に、椅子に、せわしなく目を移すドビーの両手を、ぎゅっと掴む。

「たまたま、誰が君にこのことを聞かせたの? 君に課題の内容を聞かせ、鰓昆布のことを教えた人物は一体誰?」
「ドビーめは言ってはなりません……言ってはならないのです……」
「教えてくれ、ドビー。君しかいないんだ」
「ドビーめは喋ってはなりません!」

 そう言った瞬間、ドビーの目がふと虚ろになった。その様子に、ぼくは目を瞠る。
 その場に膝から崩折れるドビーを、支えた。止まっていた息を、意識して吐き出す。

 これは──。

「……ん? はれ? アキ・ポッター様ですか?」

 ドビーはぱっと目を開けると、ぼくを見てそう尋ねた。そしてぼくに抱えられている現状に気付くと、「も、申し訳ございません! アキ・ポッター様!」と言ってぼくの腕からぴょんと飛び跳ねると、地に頭がつくくらいのお辞儀をした。
 ぼくは呆然とドビーを見つめていたが、ゆっくりと口を開いた。

「……ドビー。ハリーを助けてくれてありがとう」

 ぼくの言葉に、ドビーはきょとんと目を瞬かせた。
 ぼくが何を言っているのか心底不思議に思っている、といった表情だった。

「何のことをおっしゃられているのですか、アキ・ポッター様?」
「…………」

 ぞわりとした寒気が、身体中を襲う。
 ぼくは自らをぎゅっと抱いた。

「寒いのですか? アキ・ポッター様。少々お待ちを、ドビーめが今毛布を持って参りましょう」

 ドビーは楽しそうに、ぼくの前から駆け出していった。すぐさま、毛布を持って戻ってくるだろう。

「…………」

 おそらくは、錯乱の呪文と忘却術の合わせ技だ。誰かが、ドビーに入れ知恵をした者について尋ねたとき、この呪文が発動するようになっていたのだ。

 ドビーが第二の課題でハリーを助けた記憶は、ドビーの中から永遠に失われてしまった。

 ぼくはそっと目を伏せると、指を組み合わせた。

 得体の知れぬ敵は、想像以上に強敵のようだった。





 第三の課題は、六月二十四日。第二の課題で犯人を取り逃がしたからには、第三の課題で蹴りをつけるしかない。

 ハリーの名前をゴブレットに入れた犯人は、ハリーが課題に成功して欲しいようだった。しかし、第三の課題は、これをクリアしたから次の課題に進める、といったものではない。第三の課題がゴールなのだ。──仕掛けるのなら、ここしかない。

 しかし、第三の課題における事前のヒントは、今回ばかりは何もないようだった。第一の課題、ドラゴンと同じように、今回は初見でプレイするタイプの課題のようだ。これじゃあ、犯人の入れ知恵には期待出来ない。

 ──じゃあ、どうすればいい? 

 奥歯を噛み締める。

 考えろ、考えろ、考えるんだ。

 何かを見逃しているんじゃないか? 本当にもう手詰まりなのか? ぼくがやれることは、本当に何一つ残っていないのか? 

「……アキっ!」

 声に顔を上げると、アクアがこちらに走ってきていた。ぼくの前で立ち止まると、苦しげに息をつく。

「一体どうしたの? そんなに慌てて」

 そう首を傾げて尋ねると、アクアはぼくの袖をぐいっと引っ張り「こっち!」と廊下を曲がった。おっとっと、とアクアの後に続く。
 廊下に溢れる人々の波を掻き分け、出来るだけ人が少ない方へとアクアは歩いていく。その周囲の何割かが、ぼくに奇異な視線を向けていることに、ぼくはやっと気がついた。考え事をして歩いていたから、周囲の目なんて気にしてなかった。

「……あなたがこの前怒らせた、スキーターからの仕返し。それが載ってるわ」

 空き教室を探し当て、滑り込む。アクアから手渡された『週刊魔女』を開いて、目を走らせた。新聞や本は読むが、こう言った女性向けの週刊誌は初めてだ。
 中程のページに、ハリーのカラー写真と記事が載っている。ハーマイオニーを中傷する目的の記事に、思わず眉が寄った。

「……そこじゃないわ。いえ、そこも酷いけど……もうちょっと先よ」

 アクアがページを繰る。そんな場合じゃないのにも関わらず、白く細い指に目が行った。ぶんぶんと首を振る。何を考えているんだ、ぼくは。

 やがて、お目当てのページを探し当てたのだろう、アクアの手が止まった。ぼくはそれに目を通す。

 それは、普段文学的な表現を好んで使用するリータ・スキーターらしくなく、かっちりとした英文で書かれている記事だった。


『ハリー・ポッターの双子の弟、果たしてその実態は』

『かの有名なハリー・ポッターに双子の弟がいるという事実は、世間にはあまり知られていない。『名前を言ってはいけないあの人』の魔手から生き延びた、たった一人の子供、ハリー・ポッター。その双子の弟だと名乗るアキ・ポッターは、本当に血縁関係があるのかと疑いの目を向けざるを得ないほど、顔形が全く似ていない。

 本当に彼は、ハリー・ポッターの双子の弟なのだろうか。記者、リータ・スキーターは気になる情報を入手した。なんと彼は、一世代前にホグワーツに在籍し、魔法省所属の闇祓いであった幣原という人物と、まるで親子とも違わんばかりに瓜二つなのだという。

 記者の調べに対し、ホグワーツ魔法魔術学校校長アルバス・ダンブルドアは明言を避けた。ふくろう便の返事はまだ来ないが、しかし何の返答もないことこそが、大きな答えなのではないか。

 幣原という人物は、十一年前に自殺したことが報じられている。幣原の子供だとするならば、年齢も合う。幣原アキ・ポッター、彼らは果たして『他人の空似』なのだろうか。まだまだ深い謎は残っている』


 ぼくは記事から顔を上げた。

「見直したよ。目の付け所も悪くない。一体よくこんな情報をもらってきたね、どこからだろう?」
「『どこからだろう』、じゃないわよ」

 アクアはむっと顔をしかめた。軽口を叩いていい雰囲気ではなさそうだ。

「でも、幣原の顔写真はそう出回ってないんだぜ。昔の新聞ざっとさらったけど、写真は載ってなかったもん。幣原の写真とぼくを見比べて、なるほどそっくりだ、というなら分かるけど、なかなかそうはいかないでしょ。一体誰が、この情報を流したんだろう」
「……それは知らないけれど、幣原の顔写真は今もまだ実在するわよ。私の家にもね」
「え」

 目を瞬かせてアクアを見ると、アクアは軽く肩を竦めた。

「死喰い人らにとって、幣原は強大な敵だったのよ。顔写真が出回るのは当然じゃないかしら。自衛のため、先制攻撃のため、今もまだ幣原の写真を持っている死喰い人──元死喰い人も、多いはずよ。私の両親のようにね」
「…………」

 なるほどなぁ、とぼくは息をついた。

 それにね、と前置いて、ふとアクアは教室のドアを振り返った。誰も辺りにはいない、ということを確認して、ぼくに囁く。

「……この前の魔法薬の授業でね、カルカロフがスネイプ教授に、左腕を見せてたの──『こんなにはっきりしたのは初めてだ』とか『君も気付いているはずだ』とかよ──何のことか、あなたは知っているかしら?」

 左腕を見せる? なんでカルカロフは、スネイプ教授にそんなことをしたのだろう。
「知らない」と、ぼくはかぶりを振った。

「……そうよね。幣原ならともかく、普通は、あなたは知らないわよね」

 そう言って、アクアはぐ、と息を呑み──

「『闇の帝王』の仲間、死喰い人の左腕にはね──『闇の印』と同じマークが刻まれているの。そのマークがはっきりしてきているというのはね──」


「闇の帝王が力を取り戻している、ということよ」



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