「もう限界だわ」
リリーはそう言うと、くるりとセブルスに向き直った。
「エイブリーやマルシベールらと手を切りなさい、セブ」
四月。寒さがだんだんと和らぎ、草木が萌え出すこの頃。
リリーは中庭で、セブルスに向き直った。リリーの表情は今まで見たことがないくらい真剣で、嫌悪感を表すように形のよい眉を顰めていた。
「……僕たちは友達じゃなかったのか? 親友だろう?」
「そうよ、セブ。でも、あなたが付き合っている人たちの何人かが嫌いなの! 悪いけど、エイブリーやマルシベール……マルシベール! 一体どこがいいの? あの人がこの前、メリー・マクドナルドに何しようとしたか、知ってる?」
リリーは柱に寄りかかると、セブルスの顔を覗き込んだ。
この一年で、ぐんとセブルスは背が伸びた。リリーはそれに悔しがっていたっけ……。
「あんなこと、何でもない。冗談、そう──」
セブルスとリリーの会話に入れぬまま、ぼくは黙って空を見上げていたが、リリーの言った『闇の魔術』という言葉に目を向けた。
「あれがただの冗談? セブ、あなた本気で言ってるの?」
「じゃあポッターらがやっていることはどうなんだ? 夜にこっそり出歩いて、毎月満月の日に──」
ぼくの視線に気付いたか、セブルスはそこで言葉を止めた。
リリーが「あなたが何を考えているかは分かってるわ」と、静かな、ともすれば冷たい声で言い放つ。
「でも、あの人たちは闇の魔術を使わないわ。この前の晩に何があったか、聞いたわよ。ジェームズ・ポッターが、あなたを救ったと──」
「救った? 救った!? 君はあいつが英雄だと思っているのか? あいつは──僕は君に──許さない」
「私に何を許さないの?」
リリーの瞳がきゅっと細くなる。
セブルスは何を言ったらいいのかも分からず、でも言葉を止める訳にもいかずに、無理矢理言葉を紡いだ。
「そういうつもりじゃなくって……ただ僕は、君があいつに騙されるのを見たくなくって……ジェームズ・ポッターは君のことが好きなんだ!」
なぁんだ、と言わんばかりに、リリーは鼻を鳴らした。
「私がポッターに騙される? 騙せるものなら騙してみなさいよ。ポッターが私に気があることなんて、今じゃ学校の半分が知ってるのよ。ねぇ秋?」
どうしてそこでぼくに振るのだ、リリーは。
曖昧に笑顔を浮かべると、にっこり笑顔が返ってきた。しかしすぐさまリリーは表情を引き締めると、セブルスを見上げる。
「ジェームズ・ポッターは傲慢で嫌な奴よ。でも、マルシベールやエイブリーが冗談のつもりでしていることは、邪悪そのものだわ。セブ、邪悪なことなのよ。どうしてあんな人たちと友達になれるのか、私には分からないわ」
セブルスの友人を強く非難するリリーの言葉を、ぼくは少し遠くで聞いていた。
セブルスの友人関係についてどうこう言う権利を、ぼくは持っていない──だってセブルスは、ぼくと仲良く『してくれている』んだもの。
……でも。だとしても。
「……でも、ヴォルデモートの意見に賛成している君は、ぼくも嫌いだ。『闇の魔術』だって。あんなもの、誰も幸せになんてしない。相手を傷つけるためだけの魔力なんて──」
「君には分かるまい!」
セブルスに、叩きつけるように叫ばれた。はっとぼくは目を見開く。
セブルスは頭を振って、ぼくを睨みつけた。心の中がぐちゃぐちゃで、どうしようもない、そんな眼差しだった。
「力を持っている君には、強い君らには、僕の気持ちなど分かるものか!」
そんなことを叫ばれて、なおも心を落ち着かせて平常心でいることは、まだまだガキンチョのぼくには無理なことだった。
カッと頭に血が昇る。
「あぁ分かるわけないだろうが! 分かりたくもないね、人殺し野郎を是として崇め奉るような意味不明な宗教団体にはね!」
「あの人のことを悪く言うな、何も知らない癖に!」
「盲目過ぎるのも困りものだな! 何も知らないのはそっちだろう!」
セブルスに胸倉を掴まれた。背後の柱に押し付けられ、たまらずカバンを離す。
「秋!」と、リリーの悲鳴のような叫び声が聞こえるのも構わず、ぼくとセブルスは睨み合った。
「……秋。君とは分かり合えると思っていたのだが」
「奇遇だね、ぼくもだよ。……いや、ぼくも『だった』よ」
過去形で言えば、セブルスの眉が寄った。
「訂正しろ、幣原秋。そうすれば見逃してやる」
「もうやめて! 秋も、セブも!!」
リリーの声を無視して、ぼくは言葉を発した。
「いつの間にそんなに従順になったの? ……絶対認めてなるものか。あんな殺人鬼野郎に従うなんて」
「あの人の高尚な思想を、君なら理解出来ると思ったんだがな。見込み違いだったようだ」
「それはこっちのセリフだ、セブルス・スネイプ。ヴォルデモートは間違っている」
「あの方を否定するな!」
強く揺さぶられた。
右手でセブルスの左腕を掴むと、セブルスはハッとしたようにぼくから手を離した。その不自然な動きに、思わず目が止まる。
柱にもたれかかったぼくは、そのまま座り込んだ。ケホケホとえずくぼくに、リリーは駆け寄ると「セブ!」と非難する眼差しをセブルスに向けた。
「……リリー、君はやっぱり、秋の味方をするんだな」
「馬鹿なこと言わないでよ!? セブ、秋、あなたたち二人とも今日はおかしいわ! 頭を冷やしなさい!」
リリーがぼくの前に立ち塞がる。その言葉にぼくらは口を噤んだが、熱が冷めやらぬまま、憎々しい目つきで互いを見遣った。
「左腕、どうかしたの? 変に庇ってた」
「……君には関係ない」
「あぁ、そうかい」
一瞬、セブルスは何か言おうと口を開きかけた。
しかしぎゅっと唇を引き結ぶと、落とした自分のカバンを拾い上げ、黙ってぼくとリリーに背を向ける。
「ちょっと、セブ!」
リリーの声にも耳を傾けることなく、足音荒く立ち去っていくセブルスに、ぼくはイライラと前髪を引っ張った。そしてカバンを肩に引っ掛けつつ立ち上がると、小さな声で「ごめん、ぼくもイラついてるみたいだ。……君の言う通り、頭冷やすよ」とリリーに呟き、セブルスが消えた方向とは全く逆の方へと足を向ける。
「秋! ……後から、ちゃんと仲直りするんでしょうね!?」
背後から掛けられた、そんなリリーの言葉に、ぼくは返事をしなかった。
この時は思いもしなかった。
これが、ぼくら三人の、最後の会話になるなんて。
──もし、時間が戻せたなら。
──もし、違う決断をしていたなら。
結末は、変わったのだろうか。
◇ ◆ ◇
「えっ──ドビーが?」
兄、ハリー・ポッターから思いも寄らぬ名前が飛び出してきたのに、ぼくは動揺した。
第二の課題で、ハリーに鰓昆布を入れ知恵したのは一体誰なのか。それを尋ねると、ハリーはあっさりと、元マルフォイ家、現ホグワーツに仕える屋敷しもべ妖精、ドビーの名前を口にした。
「そんな……そんなはずはない」
「どうしてそう思うの?」
ぼくの口から漏れた言葉に、ハリーは訝しげに眉を寄せた。
「ドビーはいい奴だよ、君も知っているだろう? いつでもぼくを助けようとしてくれる。まぁ、少々その手段がいつも手荒なのは否めないけど……」
二年生の時、クィディッチの試合でブラッジャーに魔法を掛けたときのことを言っているのか。
ハリーに何と言えばいいだろう。ぼくは考え考え、口を開いた。
「……ドビーはそのことをどこから聞いたんだろう? つまりだ、課題の内容なんて、代表選手ならばともかく、普通の生徒は知るはずがない、そうだろう? なのにドビーが課題の内容を知っていて、しかもその対策までも持ってきてくれた。一体どうして?」
「うーん……そう言われちゃ、僕も分かんないよ。あの時は無我夢中で、ドビーの助けが天からの救いに見えたんだ。アキは全く力を貸してくんないしさ」
ハリーは半眼でぼくを見ながら最後の一言を呟いた。
はは、とぼくは力無い笑い声を上げると「ごめんね」と息をついた。
「なにか理由があるの? 僕を手伝ってくれないことについて」
「…………」
そう尋ねられ、ぼくは黙った。ハリーはそんなぼくの様子をじっと見つめていたが、やがて「……なるほどね。答えられない事情があるんだ」と肩を竦める。
「……ごめん」
何を言っていいのか、何を言ってはいけないのか、だんだんとよく分からなくなってくる。
ハリーに嘘や隠し事をするのは、他の人に対するものとは訳が違う。心が圧迫され、何もかもを喋ってしまいたい衝動に駆られるのだ。
「でも、これだけは……これだけは知っていて欲しい。ぼくは絶対に、君を裏切るような真似はしない。ぼくは絶対に君の味方だ。『破れぬ誓い』を結んだっていい──」
ぼくの言葉を、ハリーは笑顔で止めた。
「知ってるよ、アキ。僕は君のことを、世界で一番よく知ってる。僕らの間に、たくさんの言葉は必要ない。そうだろう?」
ハリーはぼくの両手をぎゅっと握った。ハリーの袖元から、銀のブレスレットが見える。
「僕は君のことを信じ続ける。何があっても、どんなときでも。絶対的な信頼を僕は君に置いているし、君も僕に同じ気持ちを抱いていることくらい知っている。……分かってるよ、アキ」
トン、と背中を優しく叩かれた。
「君が、僕を守ってくれるんだろう?」
「ドビー!」
勢いよく厨房に現れたぼくに驚いたように、しもべ妖精たちの目が一斉に集まった。ぐるりと見回しドビーの姿を発見すると、ドビーに駆け寄る。
ドビーはいきなり現れたぼくに度肝を抜かれたようで、その場に硬直していた。悪いことをしたな、と反省し、ドビーのフリーズが溶けるまで待つことにする。
「な……なんでございましょう、アキ・ポッター様? ドビーめはあなた様に何かなさいましたでしょうか……」
オドオドとぼくの目を見返すドビーの目線に合わせると、ぼくは出来るだけ優しく言葉を掛けるよう心がけた。
「ううん、ドビーが何かをした訳じゃあないんだ。今日は君に、一つ聞きたいことがあって。この前の対抗試合の課題を──」
ぼくが言い終わる前に、ドビーはすぐ横のキャビネットに頭を打ち付けていた。
慌てて「責めてるわけじゃないんだ!」とドビーの手を掴んでキャビネットから遠ざける。
「ハリーを助けてくれたんだろう? それについて、今日はお礼を言いに来たんだ」
「お礼……?」
ドビーは大きな瞳にぼくを映して、訊き返した。そう、とぼくは大きく頷いてみせる。
「ハリーを助けてくれて本当にありがとう……君がいなかったら、ハリーは課題をこなせなかった。心から感謝の意を君に示すよ」
そう言って深々と黙礼したぼくに慌てたように、ドビーはぼくの肩を揺さぶった。
「アキ様、アキ・ポッター様。どうか顔をお上げになってください、ドビーめには過ぎた礼です……」
「ドビー」
顔を上げた。
ドビーの両手を掴むと、ぼくはまっすぐにドビーを見つめる。
「ハリーを助けるためなんだ。教えてくれ。君は一体《《誰から課題の内容を聞いた》》?」
ドビーはぼくの言葉にぶるりと身震いした。
「ドビーめは言えません……ドビーめはたまたま聞いたのです……」
ドビーの目線が、ぼくから逃げるように彷徨った。キャビネットに、テーブルに、積まれた皿に、椅子に、せわしなく目を移すドビーの両手を、ぎゅっと掴む。
「たまたま、誰が君にこのことを聞かせたの? 君に課題の内容を聞かせ、鰓昆布のことを教えた人物は一体誰?」
「ドビーめは言ってはなりません……言ってはならないのです……」
「教えてくれ、ドビー。君しかいないんだ」
「ドビーめは喋ってはなりません!」
そう言った瞬間、ドビーの目がふと虚ろになった。その様子に、ぼくは目を瞠る。
その場に膝から崩折れるドビーを、支えた。止まっていた息を、意識して吐き出す。
これは──。
「……ん? はれ? アキ・ポッター様ですか?」
ドビーはぱっと目を開けると、ぼくを見てそう尋ねた。そしてぼくに抱えられている現状に気付くと、「も、申し訳ございません! アキ・ポッター様!」と言ってぼくの腕からぴょんと飛び跳ねると、地に頭がつくくらいのお辞儀をした。
ぼくは呆然とドビーを見つめていたが、ゆっくりと口を開いた。
「……ドビー。ハリーを助けてくれてありがとう」
ぼくの言葉に、ドビーはきょとんと目を瞬かせた。
ぼくが何を言っているのか心底不思議に思っている、といった表情だった。
「何のことをおっしゃられているのですか、アキ・ポッター様?」
「…………」
ぞわりとした寒気が、身体中を襲う。
ぼくは自らをぎゅっと抱いた。
「寒いのですか? アキ・ポッター様。少々お待ちを、ドビーめが今毛布を持って参りましょう」
ドビーは楽しそうに、ぼくの前から駆け出していった。すぐさま、毛布を持って戻ってくるだろう。
「…………」
おそらくは、錯乱の呪文と忘却術の合わせ技だ。誰かが、ドビーに入れ知恵をした者について尋ねたとき、この呪文が発動するようになっていたのだ。
ドビーが第二の課題でハリーを助けた記憶は、ドビーの中から永遠に失われてしまった。
ぼくはそっと目を伏せると、指を組み合わせた。
得体の知れぬ敵は、想像以上に強敵のようだった。
第三の課題は、六月二十四日。第二の課題で犯人を取り逃がしたからには、第三の課題で蹴りをつけるしかない。
ハリーの名前をゴブレットに入れた犯人は、ハリーが課題に成功して欲しいようだった。しかし、第三の課題は、これをクリアしたから次の課題に進める、といったものではない。第三の課題がゴールなのだ。──仕掛けるのなら、ここしかない。
しかし、第三の課題における事前のヒントは、今回ばかりは何もないようだった。第一の課題、ドラゴンと同じように、今回は初見でプレイするタイプの課題のようだ。これじゃあ、犯人の入れ知恵には期待出来ない。
──じゃあ、どうすればいい?
奥歯を噛み締める。
考えろ、考えろ、考えるんだ。
何かを見逃しているんじゃないか? 本当にもう手詰まりなのか? ぼくがやれることは、本当に何一つ残っていないのか?
「……アキっ!」
声に顔を上げると、アクアがこちらに走ってきていた。ぼくの前で立ち止まると、苦しげに息をつく。
「一体どうしたの? そんなに慌てて」
そう首を傾げて尋ねると、アクアはぼくの袖をぐいっと引っ張り「こっち!」と廊下を曲がった。おっとっと、とアクアの後に続く。
廊下に溢れる人々の波を掻き分け、出来るだけ人が少ない方へとアクアは歩いていく。その周囲の何割かが、ぼくに奇異な視線を向けていることに、ぼくはやっと気がついた。考え事をして歩いていたから、周囲の目なんて気にしてなかった。
「……あなたがこの前怒らせた、スキーターからの仕返し。それが載ってるわ」
空き教室を探し当て、滑り込む。アクアから手渡された『週刊魔女』を開いて、目を走らせた。新聞や本は読むが、こう言った女性向けの週刊誌は初めてだ。
中程のページに、ハリーのカラー写真と記事が載っている。ハーマイオニーを中傷する目的の記事に、思わず眉が寄った。
「……そこじゃないわ。いえ、そこも酷いけど……もうちょっと先よ」
アクアがページを繰る。そんな場合じゃないのにも関わらず、白く細い指に目が行った。ぶんぶんと首を振る。何を考えているんだ、ぼくは。
やがて、お目当てのページを探し当てたのだろう、アクアの手が止まった。ぼくはそれに目を通す。
それは、普段文学的な表現を好んで使用するリータ・スキーターらしくなく、かっちりとした英文で書かれている記事だった。
『ハリー・ポッターの双子の弟、果たしてその実態は』
『かの有名なハリー・ポッターに双子の弟がいるという事実は、世間にはあまり知られていない。『名前を言ってはいけないあの人』の魔手から生き延びた、たった一人の子供、ハリー・ポッター。その双子の弟だと名乗るアキ・ポッターは、本当に血縁関係があるのかと疑いの目を向けざるを得ないほど、顔形が全く似ていない。
本当に彼は、ハリー・ポッターの双子の弟なのだろうか。記者、リータ・スキーターは気になる情報を入手した。なんと彼は、一世代前にホグワーツに在籍し、魔法省所属の闇祓いであった幣原秋という人物と、まるで親子とも違わんばかりに瓜二つなのだという。
記者の調べに対し、ホグワーツ魔法魔術学校校長アルバス・ダンブルドアは明言を避けた。ふくろう便の返事はまだ来ないが、しかし何の返答もないことこそが、大きな答えなのではないか。
幣原秋という人物は、十一年前に自殺したことが報じられている。幣原秋の子供だとするならば、年齢も合う。幣原秋とアキ・ポッター、彼らは果たして『他人の空似』なのだろうか。まだまだ深い謎は残っている』
ぼくは記事から顔を上げた。
「見直したよ。目の付け所も悪くない。一体よくこんな情報をもらってきたね、どこからだろう?」
「『どこからだろう』、じゃないわよ」
アクアはむっと顔をしかめた。軽口を叩いていい雰囲気ではなさそうだ。
「でも、幣原秋の顔写真はそう出回ってないんだぜ。昔の新聞ざっとさらったけど、写真は載ってなかったもん。幣原の写真とぼくを見比べて、なるほどそっくりだ、というなら分かるけど、なかなかそうはいかないでしょ。一体誰が、この情報を流したんだろう」
「……それは知らないけれど、幣原秋の顔写真は今もまだ実在するわよ。私の家にもね」
「え」
目を瞬かせてアクアを見ると、アクアは軽く肩を竦めた。
「死喰い人らにとって、幣原は強大な敵だったのよ。顔写真が出回るのは当然じゃないかしら。自衛のため、先制攻撃のため、今もまだ幣原の写真を持っている死喰い人──元死喰い人も、多いはずよ。私の両親のようにね」
「…………」
なるほどなぁ、とぼくは息をついた。
それにね、と前置いて、ふとアクアは教室のドアを振り返った。誰も辺りにはいない、ということを確認して、ぼくに囁く。
「……この前の魔法薬の授業でね、カルカロフがスネイプ教授に、左腕を見せてたの──『こんなにはっきりしたのは初めてだ』とか『君も気付いているはずだ』とかよ──何のことか、あなたは知っているかしら?」
左腕を見せる? なんでカルカロフは、スネイプ教授にそんなことをしたのだろう。
「知らない」と、ぼくはかぶりを振った。
「……そうよね。幣原ならともかく、普通は、あなたは知らないわよね」
そう言って、アクアはぐ、と息を呑み──
「『闇の帝王』の仲間、死喰い人の左腕にはね──『闇の印』と同じマークが刻まれているの。そのマークがはっきりしてきているというのはね──」
「闇の帝王が力を取り戻している、ということよ」
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