破綻論理。

非公式二次創作名前変換小説サイト

TOP > 空の記憶 > 謎のプリンス編

空の記憶

第30話 黒衣の天才の殺し方First posted : 2016.03.06
Last update : 2022.10.20

BACK | MAIN | NEXT

 ジェームズとリリー、それにピーター。彼らが死んで、もう何年も経った気分でいる。実際は、まだほんの数ヶ月しか経っていないのに。

 右耳にずっとあったトランシーバーは、もう回収された。元が実験品だったからか。
 ひとまず緊急の事態はそうそうないと判断されたのだろう。もう、緊急の事態は起こらないのだと。

 季節は、冬になっていた。
 ヴォルデモートの台頭で長年暗くどんよりとしていた魔法界も、悪夢から解放されたとばかりに色とりどりに飾り付けられていた。元よりマグル界などはヴォルデモートなど知らないから、いつも通り大きなクリスマスツリーに電飾が飾られ、見た目にも華やかなものだ。街行く人も、どこか生き生きとして見える。

 テムズ川を横切る、ロンドン橋。
 自動車を通すための橋は、しかし今は端から端を見回してもぼくしかいない。人払いの魔法を張り巡らせてある。
 こうして悪用することも簡単なのだから、全く、魔法なんてものは。

「London Bridge is broken down, ……」

 よく聴き馴染んだ童謡を口ずさみ、すぐさま止めた。
 自分が音痴なのは自覚している。芸術方面には一切才能がないのは、よく分かっていた。
 辺りに誰もいなくとも、第一の聴衆であるぼく自身が、自分の歌声を聴くことを苦痛だと感じるのだ。それでも歌い続けるなんて、とんだ被虐趣味者だろう。生憎と、ぼくにそんな趣味はない。

 橋の欄干に両腕を置いた。
 正面から風を受け、目を閉じる。

 ジェームズとリリーの息子、ハリー・ポッターは、彼にとっての叔母夫婦に預けられることとなったらしい。つまりは、リリーの姉、ペチュニア・エバンズの家庭に。
 いや──エバンズ、じゃあない、のか、もう。いつもいつも、旧姓で呼んでしまうのは、ぼくの悪い癖だ。

 ここしばらくずっと、イギリス魔法界の話題を独占していたハリー・ポッター、そしてそれに関連するお祭り騒ぎも、一時期に比べれば随分とマシになった。
 もっとも、それも少し薄れてきたくらいのもので、時期的にそろそろハリー・ポッター関連の書物が発売される。そうすれば、また爆発的な騒ぎが巻き起こるのだろう。

 急に頭がいなくなって右往左往していた死喰い人の残党も、あらかた捕らえ終わった。かつては独断でショートカットされていた裁判も、時間と余裕が出来た今ならほとんどが行われているようだ。
 もっとも、イギリスの魔法界でまともな裁判はそうそう期待出来ないが。評議会の人物をどれだけ味方につけたか、ただそれだけ。
 状況証拠より自供を重んじるし、より強力な後ろ盾があれば、どんな逆境であっても跳ね返せてしまう。もう少し公平には出来ないものか、そうは思うものの、司法にはまるで興味が持てないぼくにとっては本当にただ「思うだけ」だった。

 十三人のマグルと、可哀想なピーター・ペティグリューを巻き込んだ、シリウス・ブラックのあの凶悪な事件は、マグル界のガス会社の不始末と『改竄』されていた。
 何ともまぁ、魔法界は不祥事を他所に押し付けるのが上手い。謂れなきことで罰を受けるガス会社の人たちも、たまったものではないだろうに。
 常々どうして『忘却術』やらが規制されないのか、不思議でならない。『忘却術』に『ポリジュース薬』『愛の妙薬』『真実薬』あたりをどうかしないことには、魔法使いは犯罪について好き勝手に改竄し放題なのだから。

 魔法とは恐ろしい。
 眼下の大通りをひっきりなしに行き交う車、その大勢の中の、運転席に座るたった一人を『失神』させただけで、一瞬で朝のストリートは大惨事に変わるというのに。

 魔法使いなんて、この世にいない方がいいのかもしれない。少なくとも、魔法使いは隔離されるべきなのかもしれない。非魔法族と共存なんて出来るものか。むしろ、非魔法族の側がごめんだろう。
 こんな厄介なものに構っていられるか、という気持ちか。その気持ちは、とてもよく分かる。

 そうだ──これを忘れていた。

 一月前、ぼくのかつての訓練生時の同僚であった、パトリック・リオンとマーク・ヴィッガーの二人が死んだ。殉職として、闇祓いのしきたりに則り、葬儀はしめやかに、そして淡々と執り行われた。

 この二人だけではない。ここ数ヶ月、続々と人が死んでいる。
 確かに、つい先日死喰い人の大集団と、ほぼ全面戦争のような形相を呈したことは確かだ。しかし、それでもあまりに異様な量だった。

幣原

 気配には感づいていたものの、名前を呼ばれてようやくぼくは振り返った。

 エリス・レインウォーター先輩が、人好きのする笑顔を浮かべて立っていた。頬には未だ、真っ白のガーゼが貼られている。

「一体どうしたんだい? 急に呼び出したりして」
「覚えてますか? エリス先輩。少し前、闇祓いの中でもスパイが紛れているってごたついたこと」

 あぁ、とエリス先輩は、思い出すかのように目を細めた。

「そんなこともあったね」
「結局あれ、デマだったらしいですけど、そもそもあの話の発端は、あまりにも最近の闇祓いの死亡率が高すぎるから、なんですって。腐ってもエリート、というべきなのか、案外しぶとい人が多いんですよね、さすが闇祓い」
「……君の同期の子も二人、死んだのだっけ」
「はい、死にました。リオンもヴィッガーも。でもまぁ、仕方がないことです。闇祓いにいる以上、死は親友よりも近しくて、恋人より離れがたい存在なのですから」

 いつか必ず、別れは訪れる。
 それは、仕方がないことだった。

 ポケットの中にいつも入れていた『生ける屍の水薬』の希釈液。それを布越しに撫でようとした指が止まる。
 そうだ、もう、あれはないのだった。

 それを思うと、僅かに残念に感じた。

「なんだかんだで、ぼくはあの二人のことを信用していたんです。結局、ぼくら三人はお互いのことを何一つ知らないまま──家族構成も、恋人や親友の有無も、好きな作家も、感銘を受けた言葉も、闇祓いになろうと決意した理由も知らないまま、こうして死別した訳ですけれど。信用に、多くの情報はいらないんです。ただ、そいつを信用出来るか。背中を預けうるか。そういう感覚を、一年の訓練期間を通して、ぼくらは育んだんだと思います」

 エリス先輩は、ぼくが何を言いたいのかいまいち要領が掴めていないようだ。曖昧な笑みを浮かべている。

「そうか。幣原、君がそういう感覚を育むことが出来たのなら、きっと君はいい仲間に恵まれたんだね」
「恵まれました、本当に。そのお陰で、色々知ることが出来たんですから」

 ピンと弾いた指の上に、空っぽの小さな小瓶が出現した。『生ける屍の水薬』の希釈液が入っていた、小さな瓶。

「ぼくが初めて人を殺した日を、覚えていますか?」
「……覚えているよ。確か私が、君が眠れていないだろうと思って、この薬を煎じて贈ってもらうようにしたのだったね、君の同僚の二人に」
「えぇ。ぼくもしばらく前まで、その話を信じていました」

 もう一度空中の小瓶を弾くと、今度は空気に溶けるように、小瓶は姿を消してしまった。

「……信じていた、とは」
「ところで、エリス先輩。ぼくの不得意科目をご存知ですか?」

 今度こそ、エリス先輩は黙り込んだ。
 なんとなく、自分の不手際を悟ったのかもしれない。案外、引き際はいいのか。

「……さぁ、知らないね。君に不得意な科目があること自体、驚きだ」
「先輩にそんなことを言われるのは恐悦至極ではありますがね。何はともあれ、ぼくは魔法薬学だけが、こればっかりはどうしようもなく苦手なんですよ。人並みまでならなんとかなるけど、それを外れようと思ったらどうにもならない。人にはやれ『君は作業の途中で思考が次の手順に飛んでいくから手元が疎かになる』だの何だの言われましたがね、こればっかりはもう性格だ。几帳面な癖に興味のないものには大雑把。だからぼくも魔法薬学には造形が深くなくって。その点、リオンは魔法薬学に対して優れた適性を持っていました。無言呪文やらそっち系は、中々苦手だったんですけどね」

 補い合って丁度いいのでは、とヴィッガーがよく呆れていた。ヴィッガーはぼくらみたいに偏らず、優等生的になんでも出来たから。

「リオンはですね……結構あいつ、張り合いたがりなんです。自分が出来ないのに人が出来るってことがすこぶる嫌なようで。全く他人に興味がないヴィッガーとは正反対。意地っ張りというか、負けず嫌いというか……そして、凄く人を見ている。ぼくなんかをね、気に掛けてくれるんです。ぼくが訓練生から一足先に引き抜かれて、前線に連れ出されても、それでもずっと気に掛けてくれたんです。ぼくの家までわざわざ足を運んで、眠れないぼくに対して『エリス先輩からだから』なんて言い張って、眠り薬を押し付けて。エリス先輩も、口裏を合わせてくれたんでしょう? ……それとも、ご存知ありませんか、そのあたりのことは」

 エリス先輩の表情から、とうとう笑みが消えた。

「ねぇ、先輩。ぼくはですね、記憶力には滅法自信があるんです。だから、訓練生時代、魔法薬作成の時に隣でリオンがどんな瓶を使っていたかとか……案外ね、そんな細かいことも、覚えていたりするんですよ。だから、あの瓶を見た瞬間、すぐに分かりました。あぁ、これはよくあるリオンなりの照れ隠しなんだって。自分の好意を上手く押し付けられなくて、人の名前を借りてやっとぼくに押し付けられたのだと」

 変な奴、とヴィッガーも思っていたことだろう。
 ぼくだって、変な奴だ、と思う。

「リオンにね、後日『君だけが頼りなんだよ、お願い、エリス先輩が煎じてくれた眠り薬と同じものを用意して?』と頼むと、物凄い憎まれ口を叩きながらもね、やってくれましたよ。エリス先輩が作ってくれた、と言ってぼくが受け取った薬と同じ大鍋、全く同じ割合の希釈液で。それが……ぼくとリオンの、コミュニケーション。端からみたら、ただの薬のやり取りだけど……ぼくらにとっては、違うんです。……エリス先輩」

 息を吸い込んだ。

「エリス先輩なら知っているはずの情報を知らない、そんなあなたは、一体誰ですか」

 しばらく、エリス先輩は黙ってぼくを見つめていたが、やがてにっこりと微笑んだ。

「私は私だよ。エリス・レインウォーター、その人だ。──しかし」

 エリス先輩は──『彼』は、笑みを深くした。

「『エリス・レインウォーターの身体』を操っているのは、|私《エリス》じゃない」

「……まさか」
「さぁ、君の頭の中で組み立った推理を聞こうじゃないか」

 芝居がかった大仰な仕草で、彼は両手を広げた。
 本能的な恐怖を感じて後ずさりかけ、背後は逃げ場がない欄干だということに遅れて思い至る。

「『服従の呪文』じゃ、ないですよね……」
「そうだね、あの呪文じゃない」
「……ならば」

 思い起こすのは、レギュラスを追って入った湖。

「──『生ける屍』……『亡者』」
「なに、言葉遊びさ」
「……なんと悪趣味な」
「お気に召さなかった?」
「常飲していたあの薬が飲めなくなるかと思うとね」
「君は案外、妙なところで繊細だ」

 杖を抜き、目の前の彼に向けた。彼は逃げも隠れも怖気付きもせず、ただ普段通りの人の好い笑みを浮かべている。

 なら、随分と治りが遅いなと思っていたその頬の傷も、道理。右手の傷も、癒えてはいないのだろう。

 屍に治癒能力は、望めないから。

「闇祓いの、内部調査──か? その割には──」

 エリス先輩の肩書きは、闇祓い局第一班の班長だ。かなり大きな権限を持っているし、集まる情報も多い。
 しかし、それならばもう少し上手く出来ただろう──情報を読まれていたにしては、お粗末だ。

 では、一体何が目的だったんだ?

「分からない? 幣原

 エリス先輩と全く同じ口調で──嫌になるくらいそっくりの口調だった。

「……分かりたくもない。どうせお前達の考えることだ、ロクでもないことに決まっている」
「つれないな。心の乱れは口調と声に現れると言うよ?」
「うるさい。早く言って。最近のぼくは、そう気が長くない」

 軽く杖を振ると、杖先から赤い火花が零れた。「おぉ怖い怖い」と戯けて彼は言う。全くそう思っていないだろうに。

「ぼくにそこまで言ったってことは、もう誤魔化す気もないんだろ?」
「そうだね、目論見も中途半端に終わってしまったし、我らの主人もいなくなってしまったからね。最後に自棄っぱちではあるけれど、事件を起こすことも悪くない」
「……何をする気」
「さて、考えつかない? 諜報活動でもなく、こうして我らがこの身体を使って、何をしていたか、本当に予測はつかないかい?」

『我ら』ということは、エリス先輩の身体を使って悪さをしていたのは複数なのだろう。

「どうしてエリス・レインウォーターがこんな可哀想なことになったのか、本当に分からないの?」

 耳を貸すな。どうせ戯言だ。
 杖を振り、魔法式を構築しかけ──


「エリスは君のせいで死んだのに」


 ──式を発動させることは、出来なかった。
 中途半端な魔法式は、呆気なく空中に離散する。

「なるほど、君のウィークポイントはそこだったか。君のせいで、誰かが傷ついたり死んだりすることは耐えられないってことかな。随分と不可思議なメンタルだ。犯した罪の重さには耐えられても、自分のせいで仲間が命を落としたと聞くと動揺するとは」
「……どういうことだ」
「どうもこうもないよ。エリス・レインウォーターは君の動向を探るためだけの贄だった。幣原が闇祓いとして彼の下に就くことになったから、都合が良かったエリスを殺した。──慕っていた先輩が、本当は随分と前に、君のせいで命を落としていたと知って、今どんな気分かい? ──エリスの死は、君のせいだ」
「……違う」
「違わない。君のせいで死んだんだ」
「…………っ」

 頭の中で、沢山の恨み言が聞こえる。
 ぼくが今まで殺した人の声。
 ぼくのせいで、死んでいった人の声。

 ──気のせいだ。幻聴だ。

 それでも、空いている右手で片耳を塞いだ。
 塞いでも、頭の中の声が小さくなることはなく、むしろ外界からの聴覚をシャットダウンされたため、ボリュームが上がって聞き取れるようになる。

『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』
『許さない』

「現実から逃げないでよ、幣原。全部全部君の罪なのに。目を逸らさないでよ、自分自身から」

 掲げる杖は、目で見て分かるほどに震えていた。照準が定まらない杖先は、一応は彼を向いているものの、当たるとは思えない。

「君を倒せる人材なんてそうそういない。君以上に魔力を持ち、君以上に魔法の扱いが上手い人なんて、闇の帝王くらいのものだ。となると、後我らが積極的に出来ることは、君の心を折ることだ──君の精神を殺すことだ。せっかく魔法省も『黒衣の天才』として持ち上げるつもりのようだし、こちらとしても申し分ない。どうぞどうぞ、殺してくれたまえ。幣原、君が殺した中で、一体どのくらいが本物の死喰い人だったと思う? 一体どのくらいが『服従の呪文』を掛けられた一般人だったと思う? さぁ幣原、考えろ。考えるのは得意だろう? レイブンクロー生」

 やめてくれ。

 それでも、脳は言われた通りに思考を始める。答えが提示されることのない問いかけを、思考する。

 自分の首を絞めるだけと、分かっていながら。

「君のやってきたことに、意味はなかったんだよ。君はただ、罪のない人を大量に殺しただけだ。あぁ勿論、罪のある人間もそこそこに殺していた訳だけど。我らはずっと見ていたよ。……こちらだって犠牲は多く出たけれど、それで幣原が排除出来たのならば、その犠牲には意味がある。君の精神はいつまで保つのだろう。いつ君は罪の重さに耐え切れず膝をつくのだろう、立ち止まってしまうのだろう──そう、ワクワクしていたんだがね」

 そこで彼は舌打ちをした。

「意外としぶといんだから。あの方は消えてしまった。戦争は終わってしまった。私たちは、あの方に幣原の首を持って行くことが出来なかった──だが、あの方は必ず復活なされる」

 狂気を孕む瞳で、彼はぼくの目をじっと見つめた。
 縫い付けられたように、動けない。吐き気と頭痛が、波のように押し寄せる。

「あの方は必ず、我らのもとに戻ってきてくださる。ならば我らはそれを信じて、未来に向けて布石を打ち、脅威となる存在を挫いておかなければならない──時に幣原、君はフランク・ロングボトムとアリス・ロングボトムを知っているね?」

 ぱっと二人の顔が、脳裏に浮かんだ。知らない訳がない。ぼくが知らない訳がないことを、エリス先輩を通して彼もまた、知らない訳がない。

 彼の唇が、歪な弧を描く。笑ったのだ、と遅れて気がついた。

「……あの二人に、何を」

 血の気が引く。彼らもまた『闇の帝王を倒し得る』と予言された『七月末に生まれた男の子』の子供を持つ親だった。

 ジェームズとリリー、この二人と同様に。

「早く行かないと、手遅れになるよ? 特にベラは──ベラトリクス・レストレンジは凶悪だからねぇ。磔の呪文の連続で頭がイカレるが早いか、君が間に合う方が早いか。まぁどっちにせよ、君が見るものは地獄だけど」

 ぼくの左手首を、彼は自然な振る舞いで掴んだ。怯んで力を込めるものの、それより強い力で引き寄せられ、杖先が彼の左胸へと押し付けられる。

「『死の呪文』以外に、エリスの身体を自由にしてやる術は存在しない。そういう風に、仕掛けてある。この身体の生体反応はない、心臓も動いていなければ血も吹き出ない、この身体に痛覚はない。だからたとえ骨を全て折られたところで、損傷するのはエリス・レインウォーターの身体のみ。我らには傷一つ付けることが出来ない」

 簡単なことだよ。
 黒衣の天才、幣原

「生かしたままだと、我らは全力で君がロングボトム夫妻に辿り着けないよう邪魔をする。あぁ、失神呪文も、この身体には効果がないよ。さて、賢い賢いレイブンクロー生。君なら今とるべき最良を選べるはずさ」

 右耳のトランシーバーに手を伸ばしかけ、しまった、今はないのだと小さく眉を寄せた。重要な時に使える機器が手元にないのはお約束だ。

「敬愛する先輩方を、我らの手から助けたければ。何、手慣れたものだろう? 今すぐ動けば、もしかすると我らも捕らえることが出来るかもしれない」

 息が、上手く出来ない。
 自分が一体、どんな表情をしているのか。ロクな表情でないことだけは、目の前の彼が心からの笑みを浮かべたことで、何となく察することが出来た。

「その絶望し切った表情、本当に──素晴らしいねぇ」



BACK | MAIN | NEXT

いいねを押すと一言あとがきが読めます



settings
Page Top