『ハリー・ポッターらが魔法省に侵入した』との知らせを受け、他の死喰い人らの頭を押さえてすぐさま魔法省に向かった。
ハリーたちは、魔法省の役人三人に『ポリジュース薬』を使い化け、忍び込んだのだと言う。
アルバート・ランコーン、レッジ・カターモール、それにマファルダ・ホップカーク。ハリーたちが化けた三人と、上首尾に接触することが出来た。
『黒衣の天才』が目の前にいることに色を失い怯える三人、彼らの前に杖を置くと、手を離す。これで彼らから見てぼくは丸腰だ。
「手首を縛って貰っても構わないよ。ぼくはあなた方を処罰したり害を与えたりする意図はない」
もちろん、杖なしでもぼくは魔法を使えるということは黙っていた。余計なことは言わないでおくに限る。
三人は杖を自ら手放したぼくに対し疑いの眼差しを向けていたが、それでも怯えの色は拭われたようだ。見た目は無害そうなただの少年だからだろう。……アリスあたりが今のぼくの自己分析を聞いたら爆笑するな。
「どうか教えてください。彼ら三人は……無事でしたか? 元気そうでしたか?」
予想もしていなかったぼくの言葉に、三人は目を瞬かせた。
慎重に三人の記憶を弄って改竄した後は、次の関係者に会う手筈となっている……のは、いいのだが。
物凄く気が重い。理由は分かり切っている。
「人に任せりゃよかった……」
そう悔やんでも、今更引き返せない。
人柄はともあれ、立場と役職は目を瞠るものを持っているのだ。生かさない手はない。こちらにはちょうど取引出来る手札が揃っているのだ。私情は無価値だ。
「──そうでしょう」
ドローレス・ジェーン・アンブリッジ先生?
ホグワーツでの彼女の部屋と、そっくりだ。ピンクと子猫の洪水。違うのは、ホグワーツではいつも苛つく笑みを浮かべていたのに、今は物凄く怯えた表情でこちらを見ていること。それで溜飲が下がるほど、ぼくは性格が悪くないつもりだ。
「……ミスター・アキ・ポッター……?」
「幣原秋でも、どちらでも構いませんよ。どうせ大した違いじゃない」
「わ……私のことを殺すおつもりですの? 恨まれている自覚はありましたのよ」
「へぇ、あったんですね。じゃあこれ、覚えていますか? 『ぼくは嘘をついてはいけない』、アンタがかつて刻ませた文字なんですけど」
普段は目くらまし呪文を掛けて側からでは見えないようにしている、左の甲の傷を晒した。アンブリッジは顔を背けようとするが、そうは問屋が卸さない。指を鳴らし、目を逸らせぬようにする。白く残った傷跡に、アンブリッジは顔を歪めた。
「アンタがぼくにやったこと、ハリーにやったこと、ぼくは何一つ忘れてないからな。……だけど、私情と公務は交えない。ぼくの本音としちゃあ全力でアンタをガマガエルに変えて蛇に丸呑みさせてアンタが蛇の腹のなかで胃酸に溶けていく様を見ながら面白おかしく観察日記でも付けてやりたいよ。それだけのことをアンタはしたんだ」
淡々と言葉を叩きつける。アンブリッジは青ざめ切った顔でブルブルと震えていた。少し言い過ぎたかもしれないが、ともかく脅しとしては十分だろう。
「……そうされたくなかったら、ぼくに従って」
ぼくの言葉に、アンブリッジは小さな目を数度瞬かせた。
「……どういう、ことですの?」
「法整備をする。アンタは殺さない。役職そのままに生かしてあげる。一切処分を下さない。その代わりぼくの言うことに全て従って。アンタはクズの中でも生粋のクズだけど、事務能力だけはあるからね」
口元を吊り上げると、吐き捨てた。
「……何がマグル生まれ登録だ」
いいねを押すと一言あとがきが読めます