「へぇ、ハリーは今、そこにいるんだ」
校長室のふかふかな肘掛け椅子に身を沈めたまま、ぼくは肖像画のフィニアス・ナイジェラス・ブラックの報告を聞いていた。校長の席にはこれまたセブルス・スネイプが腰掛け、顰めっ面のまま報告に耳を傾けている。
フィニアス・ブラックはそのまま報告を続けていった。グリモールド・プレイスにハリーら三人が訪れ、現在の仮の住処としていること。そして RAB がレギュラス・アークタルス・ブラックであると突き止めたこと。本物のロケットを探していること──
「……ちょっと待って。どうしてハリー達は RAB なんて探しているの?」
言葉を無礼にも遮ったぼくに対し、フィニアス・ナイジェラスは虫ケラでも見るかのような目を向けたが、それでも渋々口を開いた。
『高尚なダンブルドア校長──否『前』校長の遺言みたいなもののようだな(ここで心地よい寝息を立てていたダンブルドアの右目が持ち上がった)。破壊し損ねた、すり替えられた『分霊箱』に、ポッター共の手に渡った偽物のロケット。そのロケットの持ち主が、我が曾々孫であったと突き止めたようだ』
情報の断片が繋がる。
そしてそこで死んだのだ。自分の死を彼は予期していた。だから最期、幣原に対し、あんなことを……。
「なるほどね……レギュラス、そういう訳か……」
静かに目を瞑る。そんなぼくに対し『闇の帝王に言わんのか?』とフィニアスは尋ねた。
「言う必要はないよ。ぼくと教授、二人だけが知っていれば問題はない。そうでしょう?」
確固たる意志で、フィニアスの言葉を取り下げる。そんなぼくにフィニアスは物言いたげな視線を投げ掛けたが、咎める言葉は口にしなかった。ぼくのせいで途切れた報告の続きをする。
屋敷にリーマスが訪れたこと。ハリーたちと共に行きたいと願ったこと。トンクスとの間に子供が出来たことをハリーが聞き、リーマスを激しい口調で罵ったこと。ハリーを伸したリーマスが、彼らの前から立ち去ったこと。
『リーマス・ルーピンは物凄く不安定だ』
最後に、フィニアス・ナイジェラスはそう付け加えた。
ぼくは肩を伸ばすと、更に深く肘掛け椅子に座り込む。両手の指を組むと、額を付けた。
「……知っているよ。……そうしたのはぼくだ」
静かな声で、呟いた。
「狂気の淵に立つリーマスを、狂気から手を引っ張り引きずり込んだのは、紛れもないぼくなんだから」
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