破綻論理。

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空の記憶

第25話 茜色の夕暮れFirst posted : 2016.04.15
Last update : 2022.10.23

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 数十キロ単位で大量購入した(正確にはフリットウィック先生に頼んで『購入してもらった』)水晶の欠片。それを全校生徒一人一人に手渡し、守護呪文を掛ける。
 幣原秋が、以前ポッター家三人に対してやったように。ハリーの銀のブレスレットと同じように、持ち主を一度だけ命の危険から守ってくれる存在を作り出す。
 莫大なまでの魔力、常人の何倍もの魔力を一身に手にしているぼくですら、流石に千人を超える全校生徒を相手取って魔法を掛けるのは辛かった。へたり込みそうになるぼくを、そっと華奢な腕が支えた。アクアだった。

「あ……ありがとう」
「いいの。こちらこそ、ありがとう」

 アクアの大きな灰色の瞳が、柔らかく細められる。お疲れ様、とばかりに背を撫でられた。なんだかくすぐったい。

「……これからも、一緒にいてね」

 咄嗟に返事は、出来なかった。

「……あの、さ。アクア……」

 ん? とアクアは首を傾げる。その瞳は無邪気に澄んでいて、思わず口を噤んだ。

「……何でもな、っう……」
「アキっ!?」

 いきなり左腕が痛んだ。思わず膝を突いたぼくに、慌ててアクアが屈み込む。
 この痛み方は知っている、ヴォルデモートがぼくを呼んでいるのだ。今闇の印を見れば、ぼくが行くべき場所の名が共に刻み込まれているはずだった。しかしアクアの前で、この印は晒せない。

「ごめん、ちょっと……トイレ」

 アクアを振り切って、物影で確認した。指定場所は予想通り、禁じられた森側の校庭。
 駆け出した外は、宵の仄暗い薄紫色に染まっていた。もうじき、夜が訪れる。

「――来たか、アキ」

 思わず、近付くのを躊躇った。それほどの殺気が、辺りに充満していた。こちらを向いた真紅の瞳は、激情を隠しもしていない。
 ビシバシと突き刺さる殺気に反応してか、魔力も漏れ出しているようだ。ぞわぞわとした何かが這い上がる感覚を皮膚が覚える。

「……血の匂いつけたまま、ホグワーツに来ないでよ」

 ――誰か殺してきたか。誰が犠牲になったのだろう。そして、ヴォルデモートがここまで怒り狂っている原因は何なのだろう。
 確かめる目的で、少し挑発気味に言葉を吐く。ヴォルデモートは僅かに眉を寄せたが、杖には手を伸ばさなかった。脈絡もなく、言葉を吐き出す。

「分霊箱。知識くらいはあるだろう……俺様の高貴なる分霊箱だ」
「……へぇ、ま、作ってないとは思っていなかったけど。それがどうしたの?」

 ヴォルデモートの分霊箱は、確かスリザリンのロケット。レギュラスがすり替えたアレだ。今は確か、ハリーたちが持っているはず。
 剣も上手いように彼らの手に渡ったようだし、既に破壊済みだろう。それが、一体どうしたのか。

「分霊箱が一つだと、一体誰が言った?」

 その言葉に、息を呑んだ。意味は分かったが、理解は出来なかった。

「……はぁ? まさか、え――」

 ――ありえない、が、真っ先に来た。
 そのことがすぐさま理解出来るくらいには、ぼくも闇の魔術に関して造詣が深かった。

「――いくつ」
「七つだ、愚か者が」

 絶句したぼくに、ヴォルデモートは一瞬だけ得意げな表情を浮かべたが、それもすぐさま拭われた。
 不機嫌極まりない表情のまま、こちらに近寄るとぼくの手首を掴んだ。

「全ての分霊箱が無事か確かめに行く。着いて来い、アキ」

 ここでぼくを連れて行く、ということは、ぼくが分霊箱に手出し出来なくするだけの何か・・があるのだろう。
 一瞬、躊躇に足が竦んだ。立ち止まったぼくを、ヴォルデモートは振り返る。
 訝しげにぼくを見て、やがて――更に遠くに目を向けた。

「なぁ、闇の帝王様よ」

 ――聞こえた声に、息が止まった。思考も止まる。
 ただただぼくは、ゆっくりと振り返った。

 緩められたレイブンクローのネクタイ。黒のインナーが覗くほどボタンが開いたシャツ。捲られた袖。左耳に、雪印と群青のピアス。

「アキの身代わりに、俺を連れて行ってくれないか?」

 碧の瞳が、夕暮れの光を受けて煌めく。
 アリス・フィスナーが、立っていた。

「……はっ。フィスナー家の濁った血か」
「お揃い、だろ? 俺とアンタ」
「はっ……なっ、お前何考えてんだよ!!」

 腹の底から声を荒げた。思いっきり睨みつける。

「ふざ……っ、ふざけんなよ誰がそんなこと頼んだよ!! おいっ、おい聞けよっ、こっち見ろよアリスッッッッ!!」

 ぼくの手を掴む腕の力は、緩んでいた。振り解くとアリスの元に駆け寄り、アリスの襟首を掴んだ。力の限り揺さぶる。微動だにしなかったアリスは、そこでやっとぼくを見た。
 碧の瞳が何かを訴えかけるように揺らぐ。何だ? と思わず目を瞠った。

「お前はホグワーツにいろ、アキ」

 トン、と胸を強く押され、よろめいた。その瞬間、アリスが何かをぼくの胸ポケットに入れたのが見えた。
 踏み止まると、思わずポケットに触れる。これは、紙か? 

「頼んだぞ」

 ヴォルデモートに歩み寄ったアリスは、そこでぼくを振り返るとニカッと笑った。
 その笑顔は、酷く純粋で、こちらに寒気までも呼び起こす類のものだった。

 ヴォルデモートはアリスをじっと見下ろした。アリスも目を逸らさずに対峙する。閉心術くらいは貼っているんだろうなぁ、と、こちらとしては気が気じゃない。
 フィスナー家の唯一の直系嫡子だから、殺されはしない、と、思いたいが……しかしヴォルデモートは、熱くなると後先を一切考えることなくやらかす・・・・ことがあるのが懸念事項だ。リィフ・フィスナーが生きているから、息子一人がどうなっても構わないと考えているかもしれない。
 アリスは母親がマグルの半純血だし、リィフと他の純血の誰かを掛け合わせ・・・・・るとか……嫌な想像ばかりが頭を一気に駆け巡る。

「……ふ。いいだろう……アキ・ポッターを連れていくのは止めてやろう」

 ヴォルデモートのその言葉に、アリスは僅かに頭を揺らせた。
 しかしその後続いた言葉に、ぼくは呼吸を忘れた。凍りつく。

 ヴォルデモートは、真紅の瞳をぼくに向け言ったのだ。

「しかし、連れて行くのはアリス・フィスナー、貴様ではない。……アクアマリン・ベルフェゴール。ベルフェゴール家の長女を、ここに連れて来い」



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