「立ち上がれる、アキ?」
「……当然!」
ハリーの手を借りて、ぼくは立ち上がった。
身体は軋んで、もう魔力も枯渇し切っている。それでも心は暖かかった。
「私の娘に何をする!」
ジニーを傷つけられそうになったモリーおばさんが、憤怒の表情でベラトリクスに突進した。ベラトリクスはモリーおばさんを挑発するように指を立てたが、横から割り入った闖入者に目を剥いた。
「シリウス!!」
隣でハリーが叫ぶ。その声にシリウスは振り返ると、ニカッと若々しい笑みを浮かべた。
「なんだ、その墓の下から這い出した死人を見たような面は。私がハリーを置いて逝く訳がないだろう!」
「逝きかけた君が、何を言う」
そう嘆息したのはリーマスだ。隣には頬を腫らしたピーターの姿。
三人の登場にポカンと口を開けていたハリーだったが、突っ込まざるを得なかったのだろう、「ワームテールも……って何その顔緊張感ないから止めてくれよ!」と叫ぶ。ピーターはあわあわと頬に手を当てたが、諦めたように情けない顔をした。
「もっ、文句ならシリウスとリーマスに言ってよね! とんでもない力でぶん殴られたんだから!」
「満月近かったからかな?」
リーマスが笑顔でとんでもないことを言う。脱力し、思わず笑った。
三人はそれぞれ協力すると、ベラトリクスを沈めた。ホッとするも、飛んできた呪文に身を強張らせる。
しかし呪文はどこからともなく貼られた『盾の呪文』にあえなく離散した。
「大丈夫か、おい」
「アリス!」
「「俺らもいるぜ。さぁてどっちがどっちでしょ?」」
青のローブが一枚、赤のローブが三枚。アリスと双子と、あともう一人はリー・ジョーダンの姿だった。ぼくを庇うように立ち塞がり、油断なく杖を構える。
「アキ、本当に見分けが付かないの?」
リーが呆れたように声を発した。し、仕方ないじゃないか、実際分からないんだから……と思わず頬を引き攣らせる。
顔も体型も、この二人はわざわざ似させている節があるのだ。むしろ皆よく見分けがつくもんだと問いたい。
「そういやーアキ、いやハリーか? ブレスレットありがとな! おかげで死に損なった!」
ほい、と放られたビニール袋を、片手で苦労しながらもキャッチした。中を開くと、銀の細かな残骸が入っている。何だ? とぼくは首を傾げたが、ハリーは何かを理解したようだった。
「アキ、君はここにいて」
「ど……どこに行くの」
ハリーの手首を慌てて掴んだ。ハリーは少し困った顔をして、ぼくに微笑みかける。
「最後の決着は、ぼくにしかつけられない」
するりと手首を振り解かれる。ぼくを見下ろして、ハリーは笑った。
その笑顔は何故か、幣原秋の純粋な微笑みに重なった。
「絶対、生きて戻るから!」
──そんなこと言われたらさぁ。
信用せざるを得なくなるじゃないか!
「誰も手を出さないでくれ」
ハリーは大声を出した。ヴォルデモートにつかつかと歩み寄る。静まり返った中、ハリーのために誰もが道を開けた。
ハリーは滔々と語る。ニワトコの杖の所有権が、どのように移動したのか。自身の母親の守護の血が、ヴォルデモートにどのように作用したのか。
朝日が差し込んだ、瞬間だった。赤と緑の光線が互いにぶつかり合い、そこから黄金の炎が吹き出した。ヴォルデモートは杖を手から取り零す。
離れた杖はくるくると回りながら、ハリーの元に向かってくる。パシンと音を立て、ハリーはニワトコの杖をしっかりと手にした。
跳ね返った呪いを胸に受けたヴォルデモートは、信じられないと言った眼差しで、その場にばったりと倒れ込むと──動かなくなった。
わぁっと一斉に、歓喜に周囲が沸き立った。
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