破綻論理。

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空の記憶

第34話 勿忘草色の決着First posted : 2016.04.19
Last update : 2022.11.03

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「立ち上がれる、アキ?」
「……当然!」

 ハリーの手を借りて、ぼくは立ち上がった。
 身体は軋んで、もう魔力も枯渇し切っている。それでも心は暖かかった。

「私の娘に何をする!」

 ジニーを傷つけられそうになったモリーおばさんが、憤怒の表情でベラトリクスに突進した。ベラトリクスはモリーおばさんを挑発するように指を立てたが、横から割り入った闖入者に目を剥いた。

「シリウス!!」

 隣でハリーが叫ぶ。その声にシリウスは振り返ると、ニカッと若々しい笑みを浮かべた。

「なんだ、その墓の下から這い出した死人を見たような面は。私がハリーを置いて逝く訳がないだろう!」
「逝きかけた君が、何を言う」

 そう嘆息したのはリーマスだ。隣には頬を腫らしたピーターの姿。
 三人の登場にポカンと口を開けていたハリーだったが、突っ込まざるを得なかったのだろう、「ワームテールも……って何その顔緊張感ないから止めてくれよ!」と叫ぶ。ピーターはあわあわと頬に手を当てたが、諦めたように情けない顔をした。

「もっ、文句ならシリウスとリーマスに言ってよね! とんでもない力でぶん殴られたんだから!」
「満月近かったからかな?」

 リーマスが笑顔でとんでもないことを言う。脱力し、思わず笑った。
 三人はそれぞれ協力すると、ベラトリクスを沈めた。ホッとするも、飛んできた呪文に身を強張らせる。
 しかし呪文はどこからともなく貼られた『盾の呪文』にあえなく離散した。

「大丈夫か、おい」
「アリス!」
「「俺らもいるぜ。さぁてどっちがどっちでしょ?」」

 青のローブが一枚、赤のローブが三枚。アリスと双子と、あともう一人はリー・ジョーダンの姿だった。ぼくを庇うように立ち塞がり、油断なく杖を構える。

アキ、本当に見分けが付かないの?」

 リーが呆れたように声を発した。し、仕方ないじゃないか、実際分からないんだから……と思わず頬を引き攣らせる。
 顔も体型も、この二人はわざわざ似させている節があるのだ。むしろ皆よく見分けがつくもんだと問いたい。

「そういやーアキ、いやハリーか? ブレスレットありがとな! おかげで死に損なった!」

 ほい、と放られたビニール袋を、片手で苦労しながらもキャッチした。中を開くと、銀の細かな残骸が入っている。何だ? とぼくは首を傾げたが、ハリーは何かを理解したようだった。

アキ、君はここにいて」
「ど……どこに行くの」

 ハリーの手首を慌てて掴んだ。ハリーは少し困った顔をして、ぼくに微笑みかける。

「最後の決着は、ぼくにしかつけられない」

 するりと手首を振り解かれる。ぼくを見下ろして、ハリーは笑った。
 その笑顔は何故か、幣原の純粋な微笑みに重なった。

「絶対、生きて戻るから!」

 ──そんなこと言われたらさぁ。
 信用せざるを得なくなるじゃないか! 

「誰も手を出さないでくれ」

 ハリーは大声を出した。ヴォルデモートにつかつかと歩み寄る。静まり返った中、ハリーのために誰もが道を開けた。

 ハリーは滔々と語る。ニワトコの杖の所有権が、どのように移動したのか。自身の母親の守護の血が、ヴォルデモートにどのように作用したのか。
 朝日が差し込んだ、瞬間だった。赤と緑の光線が互いにぶつかり合い、そこから黄金の炎が吹き出した。ヴォルデモートは杖を手から取り零す。
 離れた杖はくるくると回りながら、ハリーの元に向かってくる。パシンと音を立て、ハリーはニワトコの杖をしっかりと手にした。

 跳ね返った呪いを胸に受けたヴォルデモートは、信じられないと言った眼差しで、その場にばったりと倒れ込むと──動かなくなった。

 わぁっと一斉に、歓喜に周囲が沸き立った。



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