誰にも顧みられることのないヴォルデモートの遺体に触れる。現在片腕しか動かないため、少し苦心しながらも、胸の真ん中で指を組ませた。乱れた着衣を整え、せめて死者らしい格好をさせる。
倒れ伏す死喰い人にも、ぼくは同じ行為を繰り返した。
それにしても、血が足りない。少しクラクラする。
左腕は、相変わらず痛覚も無ければ、触れられた感覚も何もないし──これはちょっと、早めに聖マンゴに向かうべきだろう。切り落とす、なんて羽目になっても驚かないぞ。それくらいにゾッとする。
よろめきながらも足を進めると、アクアとユークの姿があった。自身の父と母、二人の亡骸の前で膝を付き、静かに涙を零している。
一度立ち竦み、やがて何かに突き動かされるように、彼女らの元へ歩み寄った。
「……アク、ア」
ぼくの声に、アクアは涙に濡れた顔を上げた。その顔はいつにも増して綺麗で、そして、美しかった。
「……後悔は一切していないわ。でも、少し……泣かせて、ちょうだい」
ユークは歯を食い縛り、嗚咽を殺しながら泣いている。
周囲をよく見渡せば、スリザリン生がそれぞれ、家族や親類、またはお世話になった先輩だろう、それぞれに、密やかに縋り付いては、密やかに涙を零していた。
「……もしも」
呟いた言葉を、アクアが聞き咎める。静かに首を振った。
「なんでも、ないよ」
目を伏せた。
逝った魂に、静かに祈る。
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