破綻論理。

非公式二次創作名前変換小説サイト

TOP > 空の記憶 > 死の秘宝編

空の記憶

第36話 灰桜色の悲哀First posted : 2016.04.20
Last update : 2022.11.03

BACK | MAIN | NEXT

 誰にも顧みられることのないヴォルデモートの遺体に触れる。現在片腕しか動かないため、少し苦心しながらも、胸の真ん中で指を組ませた。乱れた着衣を整え、せめて死者らしい格好をさせる。

 倒れ伏す死喰い人にも、ぼくは同じ行為を繰り返した。

 それにしても、血が足りない。少しクラクラする。
 左腕は、相変わらず痛覚も無ければ、触れられた感覚も何もないし──これはちょっと、早めに聖マンゴに向かうべきだろう。切り落とす、なんて羽目になっても驚かないぞ。それくらいにゾッとする。

 よろめきながらも足を進めると、アクアとユークの姿があった。自身の父と母、二人の亡骸の前で膝を付き、静かに涙を零している。
 一度立ち竦み、やがて何かに突き動かされるように、彼女らの元へ歩み寄った。

「……アク、ア」

 ぼくの声に、アクアは涙に濡れた顔を上げた。その顔はいつにも増して綺麗で、そして、美しかった。

「……後悔は一切していないわ。でも、少し……泣かせて、ちょうだい」

 ユークは歯を食い縛り、嗚咽を殺しながら泣いている。
 周囲をよく見渡せば、スリザリン生がそれぞれ、家族や親類、またはお世話になった先輩だろう、それぞれに、密やかに縋り付いては、密やかに涙を零していた。

「……もしも」

 呟いた言葉を、アクアが聞き咎める。静かに首を振った。

「なんでも、ないよ」

 目を伏せた。
 逝った魂に、静かに祈る。



BACK | MAIN | NEXT

いいねを押すと一言あとがきが読めます



settings
Page Top