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気がついて、一瞬呆然とした。
今までの記憶と、新たな記憶。混ざり合い、全てを呑み込むまでには、少し時間が掛かった。
廊下の真ん中で立ち竦んだ自分に対し、生徒は僅かに邪険にするような瞳を向けて行く。
ふと、隣を金色の裏地の少年が通り過ぎて行った。ハッと息を呑み、トム・リドルは後を追う。
待ち侘びた。この日を。彼と再び笑い合う日々を、心の底から。
「──っ、直!」
ピクリと少年の肩が揺れた。不審と警戒心を露わに、少年──幣原直は、振り返る。
真っ直ぐな短い黒髪に、同じ色の瞳。東洋系の薄い顔立ち。一人だけ違う、金色の裏地が縫い込まれた制服。
──嗚呼。
記憶通りの、その姿。
酷く、懐かしかった。
「ファーストネームで呼びつけるなんて、僕はかつての君の友人か何かかい?」
訝しみと荒んだ心が合わさり、直は昏い瞳をリドルに向けて薄く笑った。出てくる言葉は、日本語だ。外国語を面と向かって投げつけられれば、誰もが怯むと知っている目だった。
その視線も意図も、全てを受け止め、リドルは微笑む。
「……あぁ、そうだ」
リドルの口から零れた流暢な日本語に、直は目を見開いた。やがて、驚愕を瞳に宿す。
「……なんで、泣いてんの?」
リドルの頬を一筋伝った涙に、直は狼狽えたようだ。ギクリとたじろぎ、落ち着きなくリドルを見る。
リドルは涙を拭わず、ただ笑った。
「──初めまして」
もう、間違えないよ。
胸の中で、呟いた。
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