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空の追憶

第9話 ホグワーツ魔法魔術学校First posted : 2020.09.05
Last update : 2022.11.11

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 陽がすっかり落ち切った頃、ホグワーツ特急がホグワーツへと到着した。ここから先は、新入生と在校生とで別々の移動となる。

「ヒカルは、いつだって勝手なんだ」

 ヒカルの膝からやっと解放されたスコーピウスは、ぶつぶつと小声で文句を言っていた。
 長い道中のほとんどの時間ぐっすり眠るヒカルの抱き枕にされていたんだもの、その反応は当然とも言える。
 ローズとアルバスは、この人混みで姿を見失ってしまった。外は暗いし、みんな真っ黒の制服を纏っているから、誰が誰かの判別だって覚束なくなる。

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」

 その時聞き覚えのある声がした。ぁ、と目を見開いては、スコーピウスの腕を掴み声がした方へ寄っていく。

「ハグリッド!」

 わたしの呼び声に、ハグリッドが目を向けた。キラキラした瞳が、わたしを見てきゅっと細まる。

「ソラ! ソラじゃねぇか! ホグワーツへようこそ。元気してたか?」
「うん、元気だよ。あのね、アルバスとローズもいたんだけど、ちょっとはぐれちゃったの」
「後で会えるさ、え? そんでこっちは……おっ、マルフォイんとこの小倅じゃねぇか。お前さん、親父さんにそっくりだなぁ」

 にっこりと笑ったハグリッドは、そのまま視線をスコーピウスに移した。スコーピウスの肩がびくっと跳ねる。

「あのね、スコーピウス。この人はね、ホグワーツの森と領地の番人のハグリッドって言うんだよ。ホグワーツのことは、ハグリッドがなんでも知ってるの」
「知ってる……ルビウス・ハグリッド……」

 俯いたスコーピウスは、小さな声で呟いた。

「父は、問題児だったと聞いています」

 その言葉に、ハグリッドの眉が寄る。
 スコーピウスは続けた。

「あなたの出自を嘲った。あなたを停職に陥れた。他にも沢山の酷いことを、父は、あなたに……だから、僕は謝らないといけないと、思って……」
「確かに、お前さんの父親は問題児で厄介もんだった」

 ハグリッドがぴしゃりと言う。スコーピウスは身体を震わせた。

「……だが、そいつぁもう水に流したことだ。きちんと謝罪も受けたしな。たとえ血の繋がった親子だからといって、父親の罪を、子供が背負う必要はねぇ……さぁ、行け! 遅れっちまうぞ」

 そう言って、ハグリッドはスコーピウスの背中を豪快に叩いた。衝撃に、スコーピウスはつんのめる。

 ホグワーツ城までは湖をボートで突っ切るらしい。船首を杖でコンと叩くと、ボートはひとりでにするすると前へ進み始めた。

「……みんな、意味がわからない」

 スコーピウスは立てた膝に顔を埋めている。湖を覗き込んでいたわたしは、その声に振り返った。

「……水に流すなんて、そんなこと、できっこないじゃない……お人好しにも程がある。ドラコ・マルフォイの息子として、僕は……わぁっ!?」

 わたしは湖の水を掬うとスコーピウスにえいやっと掛けた。悲鳴を上げたスコーピウスは、尻餅をついて目を白黒とさせている。

「わたし、さっきまでホグワーツに行くのすっごく怖かったんだけどさ。自分よりもビビってる人を見ると、なんだか落ち着いてくるものだね」
「ビビって……僕、ビビってなんかないやい」
「ビビってるってば」
「うるさいな……それより、どうして君が、ホグワーツを怖がるのさ。だって君は、あのアキ・ポッターの娘だろ? 今のルビウス・ハグリッドだって、アルバス・ポッターやローズ・グレンジャー-ウィーズリーも……いろんな人が君を知っているのに」
「それは、わたしのお父さんの顔が広いから、なんだよ。わたしの力じゃないもの」

 よくわからないと言いたげにスコーピウスはぱちぱちと目を瞬かせた。だからね、とわたしは身を正す。

「これまでのお友達、アルバスやローズやナイトも、そしてスコーピウス、あなたとも、わたしが『アキ・ポッターの娘』だから出会えた人たちばかりなんだよ。……でも、これからは違う。わたしはただの『ソラ・ポッター』として、これからやっていかないといけないの」

 わたしの父も、母も、二人ともが名の知れた人たちだ。
 ホグワーツの副校長にして呪文学教授である我が父と。純血の旧家、ベルフェゴールの直系であり今も闇祓いとして第一線で働く我が母。

 両親が凄い人なのは、娘として誇らしい。
 それでも、だからこそ、けじめは付けなくてはならない。
 両親にいつまでも、おんぶにだっこじゃいられないでしょう?

 スコーピウスはしばらく黙っていた。やがて小さな声で呟く。

「ソラは、恵まれている。そういう考えができるだけ幸せだ。この世界には、自分を自分として見てもらえずに苦しんでる人が沢山いる。家名や生まれ、血筋や育った環境で、他人を判断する人は大勢いるんだ」

 スコーピウスは寂しげだった。その横顔に尋ねかける。

「でも、スコーピウスは違うでしょう?」

 きょとんとスコーピウスは顔を上げた。わたしはそのまま大きく両手を広げてみせる。

「スコーピウスは、わたしのことが好きでしょ? それは、わたしがアキ・ポッターの娘だからとか、アクアマリン・ベルフェゴールの娘だからとか、そんなもの全然関係ないでしょ? わたしもスコーピウスのことが好きだよ。アストリアおばさんが良くなるよう、懸命に努めてる優しいスコーピウスのことが好き。アストリアおばさんのことも大好き。ドラコおじさんも……ちょっと怖いけど、でもいつも優しくて丁寧だから、好きなんだ。……それじゃ、ダメ?」

 スコーピウスは、唖然とした顔でただわたしを見つめている。恥ずかしさに耐え切れなくなって両手を下ろした。

「あの……せめて、何か反応してほしいなって……」
「あっ……ごめん。ド直球すぎて、何を言えばいいのか……なんだろうな、まぁ、ソラらしいというか、何と言うか……」

 呆れたようにスコーピウスは笑う。思わず頬を膨らませた。

「何よ……脳内お花畑だって言いたいの? 自覚はちょっとあるよ」
「あるんだ? てっきり天然かと思ってた」
「そりゃ、当然あるよぉ……」

 この世界は、勧善懲悪ばかりで成り立ってはいない。
 現実は物語ほど上手くは行かない、なんて人は言うけれど。物語だって、全てが丸く収まるものばかりではないのだ。

 事件が起こればどこかに角が立つ。登場人物たちは自分ができる範囲のことしかできない。大局を見ることができるのは読者であるわたし達だけで、物語の登場人物はただ、運命に翻弄され続ける。
 それでも懸命に足掻くのだ。

 スコーピウスは肩を竦めた。

「まぁ、ソラの頭が花畑ってことはともかくとして」

 ……しないでよ。

「そんな花畑が増えてけば、もっといい世界になりそうだとは……僕も思う」

 そっぽを向いたスコーピウスは、そう言って照れたようにはにかんだ。





 湖を渡ると、わたし達新入生は広い部屋へと集められた。階段の先には大きな扉があり、おそらく大広間へと繋がっているのだろう。

 これから起こることへの不安と緊張で、空気はなんだかはち切れそうだ。アルバスとローズの姿を見つけて、わたしは急いで駆け寄った。もちろんスコーピウスも一緒に。
 アルバスとローズはわたしの姿を見て揃ってホッとした顔をした。

「ソラ! 良かったぁ。探してたんだけど見つかんなくって。あなた、ちっちゃいから人に埋もれちゃうのよね」
「心配かけてごめんなさい、ローズ。でも、スコーピウスがいてくれたから。ね?」

 スコーピウスを振り返る。未だぎこちないまでも、スコーピウスはおずおずと笑みを浮かべた。アルバスとローズも、先程のように一線を引こうとはせず、スコーピウスを見返している。

 アルバスが一歩、スコーピウスに進み出た。

「さっきはごめん。その……僕、アルバス・ポッター。えっと……君さえ良ければ、アルバスと……呼んでくれないかな?」

 スコーピウスはホッとした顔をした。アルバスが差し出した手をそっと握る。

「ありがとう……よろしく、アルバス」

 ローズは相変わらず警戒した面持ちだ。そんなローズにスコーピウスが眉を下げた瞬間、背後から声が投げかけられた。

「ポッターの家の子だ」

 はっと思わず息を呑む。振り返るも、誰の声だったかはわからない。
 ただそのざわめきが、波紋のように部屋中へ広がっていく。

「かの英雄、ハリー・ポッターの息子だよ」
「ポッターの子が同級生だ」
「あの人と同じ髪だ。そっくり同じ髪だ」

 ひそひそとした囁き声は、好奇心と興味に満ちていた。
 幾つかの声は、スコーピウスにも向いていて。

「ほら、彼が『例のあの人』の……」
「悪名高いマルフォイ家の御子息様だ」
「親も親なら、子も子よね」

 アルバスとスコーピウスは、そっと視線を交わし合っては目を伏せた。
 何か二人に言おうと口を開いた、瞬間──

「……ぁっ」

 ローズが小さく悲鳴を上げて、わたしの腕をぎゅっと掴んだ。

 ざわめきが、魔法のようにぴたりと止まる。
 よくよく見知った気配に、わたしは慌てて振り返った。

「──はじめまして、新入生諸君」

 穏やかな声に、ブーツの靴音が合わさる。
 漆黒のローブに、群青の裏地が翻った。背中で揺れる長い黒髪に、思わず目が奪われる。

 わたしたち新入生の中を突っ切り、階段の半ばごろで立ち止まった父は──

「私はアキ・ポッター。呪文学の教師であり、そしてここ、ホグワーツ魔法魔術学校の副校長だ」

 ──アキ・ポッターは、わたし達を振り返った。
 温和な顔に深い微笑を浮かべ、高らかに声を響かせる。

「入学おめでとう、諸君。ようこそホグワーツへ。我々は、君達を歓迎しよう!」



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