「ねぇ、どうしてぼくらは日本に住んでるの?」
ぼくの問いかけに、両親は目を瞬かせた。
ホグワーツ魔法魔術学校夏休みの只今、ぼく、幣原秋はイギリスを離れ、住み慣れた母国である日本のマイ・ハウスへと舞い戻っていた。やっぱり自分の家ほど安らげる場所はないし、日本語って素敵だと思うし、ご飯は美味しいし、懐かしの友人達とも久しぶりに会えるし……で、何も不満はない。
ないのだが。
「でも、それでもイギリスに住んでた方が楽なんじゃない? 英国魔法界一の大通りであるダイアゴン横丁だって、唯一の銀行であるグリンゴッツだって、父さんと母さんの母校であるホグワーツだってある。どう考えても、
ぼくの言葉を、父は難しい顔をして聞いている。
と、母はぽつりと呟いた。
「理屈っぽくなったねぇ、秋」
「な!?」
思わずたじろぐ。母の言葉はいつも率直で真っ直ぐで、それが心地よくはあるのだけど、たまに挫けそうになる。
「理由……は、ないことは……ない」
父はどこか言いづらそうに口ごもる。父が言葉を濁すのは珍しい。首を傾げて父をじっと見つめていると、母が助け舟を出した。
「日本は直さんの……秋のお父さんの実家だからね。お母さんも日本に住んでみたかったし、ちょうど良かったんだよ。秋は日本、嫌いかな?」
「……その聞き方はずるくない?」
思わずむぅっと口を曲げた。
好きか嫌いか、という二択で語れる話じゃないだろう。聞かれたくない話だったらそう言ってほしい。まだ事情を話すには幼いと思われているようで、何だかムッとしてしまう。
「へぇ……子供って、一年見ない間にここまで成長するものなんだね。直さん、知ってた?」
「秋は元々、凄く頭が良い子だからね。一年で外国語を習得してしまうなんて、並の子にできることじゃない。流石は僕達の子供だよ」
父は母の肩に手を回した。母は父を振り返る。
一刹那、二人の視線が交錯した。
母は微笑を浮かべぼくに向き直る。今の一瞬など何もなかったような、軽やかな笑顔だった。
「実はね、秋。お母さんとお父さんは、お母さんの実家から絶縁されてるんだ。だから、お母さんの実家がある英国には家を構えることが出来なかったんだよー」
「あれっ、アキナそれ普通言う!? そんなにさらりと言っちゃうの!? 僕にとってはそれ、すっごく重たい過去だったんだけど!!」
「えー? まぁ秋もいずれは知ることなんだし、いいじゃない」
父を尻目に、母は「ねー秋?」とぼくに笑いかける。そんなに無邪気に微笑まれても、反応に困るんだけど。
「……え、というか、え? ……絶縁? なんで?」
確かに両親から祖父母の話を聞いたことはなかったものの、それはもう亡くなっていたからかと思っていた。「んーと、それはねー」と笑顔で話し出そうとする母の口を、父は慌てて抑えた。
「ごめんなーアキナ、恨まないでくれよー……一人息子にこんな黒歴史知られてたまるか……っ、いいか秋、父さんのことを好きでいたいなら聞くなっ、頼 む か ら……!」
父のここまで必死な瞳は初めて見た。思わず引く。どうやら深入りしてはダメな部分のようだ。
「わ……分かった……」
「流石は我が息子!」
父がぐっと親指を立てるのに、ぼくは思わず脱力してため息をついた。
◇ ◆ ◇
プリベット通り四番地の朝は賑やかだ。
何故かって? 今日もまたヘドウィグの鳴き声で叩き起こされてしまった親愛なるバーノンおじさんの雷が、ぼくとハリーの頭上に炸裂するからさ。
「今週に入って三度目だぞ! あのふくろうめを黙らせられないなら、始末してしまえ!」
おじさんの怒鳴り声。うん、もう日常。おじさんの声をBGMにトーストを
「うんざりしてるんだよ。いつも外を飛び回っていたんだもの」
いつも通りのハリーの言い訳。肩を竦めては若干オーバー気味に「夜にちょっとでも外に放してあげられたらいいんだけど……」と付け加えることも忘れない。
「わしがそんな間抜けに見えるか? あのふくろうめを外に出してみろ。どうなるか目に見えておるわ」
おじさんは低い声で唸る。口髭の端が卵の黄身で黄色く染まっているのを指摘してあげた方がいい気もするけど、きっと油を注ぐだけだろうから止めておこう。
「……一体どうなるんだろうね」
ぼくの呟きは、しかしダドリーの長く大きなげっぷに遮られた。
ダドリーはナイフとフォークをカチャカチャさせながら「もっとベーコンが欲しいよ」と催促した。行儀が悪いことこの上ないが、おじさんとおばさんはダドリーを甘やかすばかりで注意もしやしない。ため息をつきながら、ぼくはダドリーの皿にベーコンをついでやる。
全く、ぼくとハリーが食事マナーだけでなく生活に関わるほとんど全ての事柄を
英国随一の魔法学校であり、名門校でもあるホグワーツは、良いところの坊ちゃん嬢ちゃんも少なくない。何でもない所作の端々にも育ちは滲み出るものだ。ドラコもアクアも立ち居振る舞いは優雅だし、アリスだって──アリス?
……そう言えば、ぼくはアリスが育った環境について何一つ知らない。
普通一年も一緒にいれば、いくら無口な奴だってそれなりに知れてくるものだろうに。ぼくがアリスについて知っていることと言えば、ドラコやアクアと幼馴染だということだけだ。
家が嫌いだ──いつだったか、それは聞いた。
では、家の何が嫌いなのだろう?
家族か、家柄か、それとも血筋か──はたまた、そのいずれでもないか。アリスは何も話してくれない。
自分にも他人にも無関心で無頓着なアリスの、ほとんど唯一とも呼ぶべき激しい感情の源。
……他人の秘密を無闇に暴き立てたいわけじゃない。
でも何故か、要求不満にも似た感情が
この気持ちに名前をつけるとすれば、きっとそれは疎外感。そして幾許かの下世話な好奇心。
──我ながらダサいな、ぼく。
アリスが言いたくないのならそれでいい──どうして、そう思えないんだろう。
「お前に言ったはずだな? この家の中で『ま』のつく言葉を言ったらどうなるか!!」
おじさんの雷に、ぼくは驚いて飛び跳ねた。すっかり思考の海に沈んでいたようだ。青褪めたハリーが口ごもる。
「でも、僕……」
「ダドリーを脅すとは、よくもやってくれたもんだ!!」
文脈は分からないものの、どうやらハリーがおじさんを怒らせてしまったらしい。おじさんだけでなく、おばさんもダドリーも険の籠った眼差しでハリーを見ている。ダドリーなんて、何故か椅子から落ちかけているし。
「僕、ただ──」
「言ったはずだぞ! この屋根の下でお前がまともじゃないことを口にするのは、このわしが許さん!!」
「…………」
ハリーはぽつりと呟く。
「わかったよ。わかってるんだ……」
その声に、心の奥がざわりと騒いだ。目を閉じ、小さく息を吐く。
まともじゃない、か。
それは──きっとぼくらが悪いのだろう。
この家庭に異物を持ち込んでしまった、ぼくらが。
「さて、皆も知っての通り、今日は非常に大切な日だ」
気を取り直すようなおじさんの大声に、一体何の話だと目を瞬かせた。
「今日こそ、我が人生で最大の商談が成立するかもしれん」
そうだ。今晩は確かおじさんのお得意様と接待パーティーが開催されるのだった。おじさんの話はそのことか。
合点がいったぼくの隣で、ハリーはがっかりしたように俯く。思えば今日は七月三十一日──ぼくらの誕生日でもあったっけ。諦め切ってしまえば楽なんだけど、ハリーはそれでも期待を捨てられないみたいだ。
「そこで、もう一度皆で手順を復習しようと思う。八時に全員位置に着く。ペチュニア、お前はどの位置だね?」
「応接間に。お客様を丁寧にお迎えするよう待機しています」
「よし、よし。ダドリーは?」
「玄関のドアを開けるために待ってるんだ。──『メイソンさん、奥様、コートをお預かりいたしましょうか?』」
「お客様はダドリーに夢中になるわ!」
……それはそれは。まぁ、何も言うまい。
個人的にはハリーが適任かと思うんだけどね。ハリーに穏やかに微笑まれたら、誰だってホッとするんじゃないかな。贔屓目入ってることは否定しないけど、服装さえきちんと仕立てれば、そこらの子には負けないものを持っているのに。おじさんおばさん達はそこが分かっていないのだ。
……え、ぼく? 女の子みたいに可愛いねとよく言われますが、何か。つまりはイケメンからは程遠いと。……泣いていい?
ぼくがまた脳味噌をつまらない思考に浸していると、突如ぼくとハリーに向き直ったおじさんは、ぎろりとぼくらを
「それで、お前らは?」
「僕らは自分の部屋にいて、物音を立てない。いないふりをする」
感情の籠らない声で答えるハリー。おじさんは間違えた方が良かったと言わんばかりに「その通りだ」と嫌味ったらしい口調で唸った。
「わしが客人を応接間へと案内して、そこでペチュニア、お前を紹介し、客人に飲み物をお注ぎする。八時十五分──」
「私がお食事にいたしましょうと言う」
「そこで、ダドリーの台詞は?」
「奥様、食堂へご案内させていただけますか?」
ダドリーがたっぷりと脂肪のついた腕を差し出す仕草をした。おばさんは感極まって叫ぶ。
「なんて可愛い私の完璧なジェントルマン!」
はは、と思わず苦笑する。今日もおばさんの親バカっぷりはアクセル全開です。
ふとアリスの顔が浮かんだ。あまりの目つきの悪さのせいで失念してしまうけれど、アリスも相当整った顔立ちをしている。あれで髪をきちんと整えて、ピシッとした服を着て、笑顔の一つでも浮かべたら絶対に格好いい。
大体アリスは何事にも無頓着すぎるんだ。あのだらしのない服装を『着崩し』まで引き上げているのは、ひとえに自分の顔のおかげだってことをもう少し自覚してほしい。
「それで、お前らは?」
おじさんがくるりとぼくらを振り返った。
「自分の部屋にいて、物音を立てない。いないふりをする」
「それで良し。さて、夕食の席で気の利いたお世辞の一つも言いたい。ペチュニア、何かあるか?」
「バーノンから聞きましたわ。メイソンさんは素晴らしいゴルファーでいらっしゃるとか……まぁ、奥様、その素敵な御召し物は、一体どこでお求めになりましたの……」
「完璧だ……ダドリー?」
「こんなのどうかな、『学校で尊敬する人物について作文を書くことになって、メイソンさん、ぼく、あなたのことを書きました』」
思わず吹き出しかけた。慌てて口元を覆い、肩を震わせるのみに留める。ハリーなんてテーブルの下に潜り込んで笑い転げているので、ついムカついて一発蹴ってやった。
「それで、小僧、お前は?」
ハリーの姿が見えなかったからか(テーブルの下にいるんだもの、当たり前だ)おじさんは、今度はぼくに質問を振ってきた。小さく肩を竦めて答える。
「ぼくらは自分の部屋にいて、物音を立てない。いないふりをする。でしょ?」
「まったくもって、その通りにしろ」
おじさんが凄んだ。そこでようやっとハリーがテーブルの下から這い出てくる。
「メイソンご夫妻はお前らのことを何もご存知ないし、知らんままでいい。夕食が終わったら、ペチュニアや、お前はメイソン夫人をご案内して応接間に戻り、コーヒーを差し上げる。わしは話題をドリルの方に持っていく。運が良けりゃ『十時のニュース』が始まる前に、商談成立で署名、捺印しておるな。明日の今頃は買い物だ、マジョルカ島の別荘をな」
おじさんは上機嫌だ。
別荘か、確かに少し憧れる響きだな。まぁ別荘があろうとなかろうと、この家でのぼくとハリーの待遇が良くなるワケもないからなぁ。
「よーし、と──わしは街へ行って、わしとダドリーのディナー・ジャケットを取ってくる。それで、お前らは……おばさんの掃除の邪魔をするな」
「はぁい」
おじさんはあくまでも、ぼくらを『いないもの』として扱うつもりらしい。おじさんの瞳には、ぼくらに対する親しみや情は微塵も見当たらない。
仕方ないなと頷いたタイミングで、ハリーが勢いよく立ち上がった。そのまま黙って部屋を出て行ってしまう。
「あの小僧めが」
おじさんはハリーを睨みつけながら嫌味ったらしく舌打ちをした。ハリーを追おうと立ち上がったぼくは、小さく息をついておじさんを振り返る。
「おじさん、やっぱりぼくらのことが怖いかな?」
ぼくの言葉に、おじさんはぎょっとした顔をした。ぐるりと辺りを見回せば、おばさんもダドリーも同じような表情をしている。
「……うん、まぁ、そりゃあそうだよね」
ホグワーツに通い出すまでの十年間、ぼくとハリーの周囲で起きた不可思議な事件は指の数では足りないほどだ。そんな事件を巻き起こすぼくらのことが、一体どれほど怖かったことだろう。どれだけ恐ろしかったことだろう。
「ごめんなさい。ぼくのことはどう扱ってもらってもいいからさ、ハリーのことは、できればそっとしておいてくれないかな」
三人ににこりと笑いかけ、踵を返した。ハリーの後を追いかける。
「ハリー!」
ハリーは庭の片隅で、一人
「ハリーと一緒にいるの、なんだかすごく久しぶりな気がするな」
「……それ、夏休み初日も同じこと言ってたよ」
ふるりと身を震わせて、ハリーがぼくに向き直る。両手を広げたハリーと抱き合うようにして、ぼくらは芝生に寝転がった。
風が青々と茂る芝生を掠める。ハリーの視線を辿ると、眩いばかりの青空が映えた。
──あぁ、夏だ。
「アキがいてくれて、本当に良かった。君がいなかったらと思うとゾッとするよ。ここの生活に耐えられた気がしない」
「さぁてね? ハリーのことだから、それでもなんとか上手くやっていくんじゃない?」
「酷いな、アキは」
ハリーが笑う。どうやら少し落ち着いたようだ。ハリーの笑顔に、つられてぼくも笑った。
あぁ、幸せだと思える。
ハリーが隣にいる、この現実を守るためなら、ぼくは何だってしようじゃないか。
……本当は兄弟ではないのかもしれないと、そう考えたことは何度もあった。
でも、もう、そんなことどうだっていい。
血の繋がりなんて関係ない。誰が何を言おうとも、ぼくらは真の兄弟だ。
「……そうだね、兄弟だもんね。今までもずっと一緒で、これからもずっと一緒にいるんだ。アキがいるから、魔法界というものが夢じゃなく現実だって確信できるよ。惜しむらくは、どうして同じ寮に入ってくれなかったのかってこと」
「なかなかずっと根に持つよね、それ」
「当然だよ。僕は凄く悔やんでるんだからね。もしアキの方が先に組分けされてたら、僕はどんな手段を使ってでもレイブンクローに潜り込んだよ」
どんな手でもって……。でも本当にハリーは文字通り『どんな手でも』使ってきそうで油断ならない。
その時、ハリーが弾かれたように立ち上がった。きょろきょろと辺りを見回すハリーに、ぼくも上半身を起こす。
「どうしたの?」
「なんか今、生垣から誰かの目が見えたような……」
「目?」
ハリーの視線の先を辿った。眉を寄せて注視する。
「何も見えないけど」
「…………」
目を眇めたハリーは、納得いかないと言わんばかりの表情で生垣を睨みつける。
と、芝生の向こうから人を小馬鹿にした歌が聞こえてきた。間もなくダドリーが姿を現す。
「今日が何の日か、知ってるぜ」
節を付け、歌うように口ずさむダドリー。ハリーはちらりとダドリーを見るとため息をついた。
「そりゃ良かった。やっと曜日が分かるようになったってわけだ」
口を開けば、出てくるのは強烈な皮肉。ぼくは小さく肩を竦めると二人を見比べる。しかしダドリーは、ハリーの皮肉をものともせずに(皮肉を皮肉と理解していないだけな気もするが)口を開いた。
「今日はお前らの誕生日だろ? カードが一枚も来ないのか? あのへんてこりんな学校で、お前らは友達もできなかったのかい?」
ダドリーの言葉に、思わずはぁぁとため息をつく。ハリーのことはそっとしておけって言ったのに、こいつ何も聞いてないな。
「僕らの学校のことを口にするなんて、君の母親には聞かれない方がいいだろうな」
案の定、なハリーの冷ややかな返し。
ダドリーはズボンをずり上げながら「なんで生垣なんか見つめてたんだ?」と尋ねた。
「あそこに火を放つにはどんな呪文が一番いいか考えてたのさ」
「ハリー!」
慌ててハリーを
「そ、そんなこと、できるはずない──パパがお前らに、ま、魔法なんて使うなって言ったんだ──パパがこの家から放り出すって──そしたら、お前らなんかどこも行くところがないんだ──お前らを引き取る友達だって一人もいないんだ──」
「デマカセー! ゴマカセー!」
ダドリーの声を遮り、ハリーは激しい声を上げた。
「インチキー、トンチキーッ! ……っ」
ハリーの手を思いっきり引っ張れば、バランスを崩したハリーはそのまま芝生に尻餅をついた。その隙にと、ダドリーはおばさんに助けを求めて喚きながら走って行く。
「馬鹿っ、なんでわざわざ挑発するような真似──」
言いかけたところで、ハリーは黙ってぼくに抱きついてきた。肩を抱く力の強さに、ハリーの心の内を想像する。
ぼくを抱きしめる兄の、ぼくよりも広くて大きい、でもまだまだ華奢で頼りない背中を優しく撫でながら、ぼくは強いて朗らかな声を上げた。
「……大丈夫だよ、ハリー」
「……だって……ロンからもハーマイオニーからも、一通も手紙が来ないんだ……送るって約束してくれたのに……」
「何かきっと手違いがあったんだよ。もしくは家族旅行で海外かも? それに、手紙なんて来なくったって、友達は友達だよ。ロンもハーマイオニーも、実は凄い筆不精だったりしてね。あははっ、アリスがぼくに手紙なんて書くと思う? ないない!」
ハリーの背中に腕を回す。
「友達ってさ、常に側にいなきゃいけないもん? いっつも連絡取り合ってなきゃいけないもん? 違うよね。友達っていうのはさ、たとえ離れていても、長い年月が経っても、ずぅっとお互いを思い合える、そんな存在なんじゃないのかな?」
──そう、その通りだ。
自分の言葉に、納得する。
「……じゃあ、僕には友達がいないんだ」
「馬鹿」
語気を強めた。
「ハリーが友達だと思っていた人達って、そんな人でなし? 違うよね。その言葉は自虐だけじゃなく、ハリーのことを友人だと思ってくれている人に対しても失礼だよ」
小さくハリーが何事かを呟く。ん? とぼくは聞き返した。
「……ありがとう、アキ」
小さな小さな、その声に──
「……どういたしまして」
照れ臭くなって、思わずぼくは身体を離した。
ハリーがダドリーをからかった代償は高かった。
ぼくらはペチュニアおばさんが投げるフライパンを
重要なのは、この次。
豪華な夕食が並ぶ横でみすぼらしい食事をとり、早々に部屋へと追い立てられたぼくらが見たものは──
今年一年の波乱を予感させる、小さな使者の姿だった。
いいねを押すと一言あとがきが読めます