クリスマスと年越しが過ぎ、一月。いよいよ魔法魔術大会の本戦が始まった。
本戦は四年生から七年生までの計八人によるトーナメント戦となる。ぼくとジェームズは山が違うので、当たるとしたら決勝か。
ほぼ全員が上級生。おまけにぼくを除く唯一の四年生は、学年ダントツトップかつ底意地が悪く
本戦最初──準々決勝のぼくの対戦相手は、知り合いと呼べる人がホグワーツにほとんどいないぼくにはとってもとっても珍しいことに、ぼくが知っている人だった。
知っている、というか。
七年生のレイブンクロー監督生、エリス・レインウォーター先輩。後輩のことも気に掛けて親身になってくれる、いい先輩である。かくいうぼくも、何度も寮の前で立ち往生しているところを助けてもらった恩がある。
卒業後は闇祓いを目指して、現在猛勉強中。この大会も息抜き兼力試しということらしいが、それだけで簡単に本戦に勝ち上がってくる辺り、なんというかもう、絶妙だよなぁ。
なお、エリスという女性名だが、どこからどう見ても男性である。少し長めの赤い髪に銀縁眼鏡の、レイブンクロー生としては珍しいくらい明るく快活な人だ。だから監督生なんだろうね。
とまぁ、久しぶりに自分のクジ運の悪さを呪う出来だった。
勝てっこねーよ、こんなの。
「さあさあお待ちかねの魔法魔術大会ぃっ、本戦第一試合目は、因縁の先輩後輩対決! 泣いても笑っても今年で最後の七年生からぁ、レイブンクロー監督生、将来は闇祓いか!? エリートコースを歩まんとする将来有望株、最近はにわかにモテ始めているという噂もありますがそこんとこどうなんですかエリスくん! やっぱり今は安定志向なんですかそうなんですか────エリス・レインウォーター! 対するは同じくレイブンクローの四年生! 新星現る!? 呪文の才能は天才的、小柄な体躯に似合わぬ魔力量を併せ持つ、この大会でも随一の可愛らしさを誇る少年!『こんな可愛い子が女の子な訳がない!』東洋の美少女────幣原秋!」
司会者がテンション高くぼくらを紹介している。どうやら本戦からは、こうして場を盛り上げてくれるような司会者がいるらしい。
それもその筈。予選とは観客の桁からまず違う。
大広間中を埋め尽くさんばかりの人、人、人。その人達全員が、ぼくと先輩の試合を見に来ているのだ。
ちなみに解説役はフリットウィック先生とのこと。いいなぁ、ぼくもフリットウィック先生の解説が聞きたいなぁ。
「緊張してる?」
舞台袖で、レインウォーター先輩はぼくに微笑みかけた。人好きのする柔らかな笑顔がぼくを見下ろしている。
「えぇ、そりゃあまあ」
「はは、素直だね」
「変に意地張っても仕方ないですから」
肩を竦めた。苦笑を零したレインウォーター先輩は「それにしても、凄い人の数だね」と観客席を見下ろし呟く。
「先輩を見に来てるんじゃないですか? 最近モテ始めてるって司会者の方が言ってましたけど」
「あんなのただのジョークだよ。司会者のアレンとは友人でね……あとできっちり絞っておかなくちゃ」
この先輩に絞られるのか。それは……うん、怖そうだ。リーマスと似た雰囲気を持ってるからなぁ、この人。
「しかし……東洋の美少女、とは、ねぇ」
「わ、笑わないでくださいよ……」
何という二つ名だ。間違っても十五歳の少年を呼ぶべき呼称じゃない。
「いやいや、とっても合ってると思……おっと、時間だね」
レインウォーター先輩が表情から笑みを消した。真剣な眼差しで、舞台に上がって来たフリットウィック先生を見つめている。
「それじゃ、舞台でまた会おう。幣原、どっちが勝っても恨みっこなしだよ」
「ぼくなんかが先輩に勝てる訳ないじゃないですか、嫌だなぁ」
「幣原」
レインウォーター先輩は、そこでやけに真面目な顔をした。つられて思わずぼくも居住まいを正す。
「手加減に手加減を重ねていた予選とは違う。本気で私に掛かってこい、幣原秋」
「…………先輩」
「……よし、行こうか」
ぼくの肩をパシンと軽く叩くと、先輩は舞台へと歩みを進めた。
「……本気で、ね……」
ぼくも舞台に足を踏み入れる。途端に眩いスポットライトが目を灼いた。
思わず目を細めつつも、舞台の中央へと真っ直ぐに歩く。
「尊い騎士道精神に基づき、正々堂々闘ってくださいね」
フリットウィック先生がにこやかに言った。
向き合って一礼をしたぼくらは、杖を剣のように前に突き出し構える。
レインウォーター先輩と目が合った。歳下の、それも三つも下の後輩に向けているとは思えない、真剣で深刻で、油断の欠片もない瞳だった。
……本気で。
『本気で私に掛かってこい、幣原秋』
……本気を出しても、いいんですか?
ぞくぞくぞくっと、不思議な感覚が全身を支配した。
嬉しい、楽しい、喜ばしい、心からそう思う。
先輩なら、全力をぶつけてもきっと大丈夫。
これは、今から戦う相手への敵意なんかじゃない。
これが──信頼。
……勝ちたい。
初めて、そう思った。
「行きますよ──いち、に──さん!」
合図と同時に杖を振り上げる。
油断なんてしない。絶対にできない相手だ。最初っからフルスロットルで行く。
失神呪文を無言呪文で、それを同系統の呪文で打ち消された後は、もう魔法の打ち合いだった。
魔法の火花が弾ける音、それだけが広い大広間に響き渡る。集中を切らさぬよう、先輩をしっかと見据えた。先輩も険しい表情をしている。
次は何の魔法で来るだろうか。無言呪文での決闘は、普通の呪文を唱え合うよりも『お互いの手の内を読み合う』という戦略性が高くなる。
レインウォーター先輩が得意なのは変身術。だから先輩の過去の闘いを見ても、変身に関係した魔法がわりかし多い。ぼくは呪文学が得意だから、姿を変えるというよりも、空気だとか何か他の物体に作用する系統の魔法がどうしても多くなる。
また知識量も違う。向こうは七年生だ、ぼくが知らない魔法も当然たくさん知っているし、ぼくに配慮して難しい魔法は使わないなどと手を抜いてくれる筈もない。
……けれど、ぼくだって負けてはいられない。『呪文学の天才児』という不名誉な
呪文にかけては、ぼくは誰にも負けはしない。あのジェームズにも、呪文学だけは今まで一度も負けたことがない。
父に、国を滅ぼすとまで言われた魔力。普段は抑えているこの力は、一生使わないものだと思っていた。
そう──ぼくには、他人の数十倍、数百倍ともある魔力を、この身一つに宿している。
その力のベクトルを合わせるだけで──魔法の威力は、何倍にも膨れ上がる。
(──やっぱり先輩、強い)
魔法の威力自体は、こちらが何倍も上だ。でも、それを受け流し弾き返す先輩の技量が並外れている。魔法が一つもまともに入らない──それを言うなら、向こうの攻撃だってぼくに通っていないのだから、お互い様という気もするが。
一旦呪文の打ち合いを切り上げると、間合いを取り、息をつく。この真冬に汗をかくほど集中したのは初めてだ。
切れた息を整え額の汗を拭う。先輩もぼくの意図を理解したのか、しばし魔法の手を休めた。
しかし互いに、杖は相変わらず向け合っているし、不審な動きを見せた瞬間魔法を掛ける用意もできている。
ぼくは口を開いた。
「……驚きました。やっぱり、先輩は凄い人だ」
「褒めても何にも出ないがね。でもまぁ、君に認めてもらうというのはなかなか気分が良いものではあるね」
「誰かをそんなランク付けするほど、ぼくは偉くも傲慢でもありませんよ……」
「私に言わせれば、幣原、七年生である私と互角に戦えるほどの君こそ、凄い人材だと思うよ。怪我一つも負わずに、さ」
「……凄い、ですか?」
「あぁそうだ。素晴らしい人材、百年に一度の逸材だとも思う。そんな君と手合わせ願うことはきっと、私の生涯ではこれから先一度もないだろうというのが残念なくらいだ」
杖を肩の高さに持ち上げたまま、ぼくは小さく微笑んだ。
「凄いとか、素晴らしいとか、この力をそんな風に言ってくれたのは、もしかしたら先輩が初めてかもしれません」
ぼくは、この力が大嫌いだった。
どうしてぼくにこんな力があるのだと、いつも呪い恨んでいた。
──今でも、たまに悪夢を見る。
一年の時、フィアン・エンクローチェとの、あの事件。
部屋中をひしめく眩いばかりの魔力の火花。耳を塞いでも聞こえる苦悶の声と、肉が弾け飛ぶ痛々しい音とむせ返るような血の匂い。
誰もが倒れ伏している室内に、ぼくだけがただ、無傷で立っている。
夢で見るあの日の情景は、しかしあの日とは違った光景を紡ぐ時がある。倒れ伏す人物がフィアン・エンクローチェ自身である時もあれば、レイブンクロー同室の友人、リィフ・フィスナーである時もあるし、ぼくを仲間に引き入れてくれた悪戯仕掛人の彼らである時もある。また、ぼくが絶対に傷つけたくないと思っていて、ぼくが何よりも大切だと思っていて、ぼくが命よりも大事だと思っている彼と彼女が──あの二人が、倒れ伏している時もある。
その夢を見るたびに、ぼくは自覚せざるを得ない。
ぼくのこの力は、誰かを傷つけるものなんだと。
まだ精製すらしていない、純粋な魔力として持ちうる力だけで、人を殺傷しうるものなんだと。
……でも。
レインウォーター先輩は、ぼくを認めてくれた。この力を素晴らしいとまで言ってくれた。
この力は──今まで重荷だとしか感じられなかったこの力は──誰かの役に立つことだってできるのだろうか。
人を傷つけるのではなく、人を助ける目的で、使うことができるのだろうか。
……ぼくは。
「……ありがとうございます、レインウォーター先輩」
ぼくは、笑顔でお礼を言った。
そして──自然な動作で、杖を持った左手を振り上げる。先輩は何かに気付いたように目を見開いたが、その後の表情の変化は見ることができなかった。
大広間中の照明が一斉に消える。予想もしていなかった事態に、観客がザワザワと騒ぎ出す。
風を操りぼくの足音を消すと同時に、先輩の座標を風で感知した。暗闇の中走り寄ったぼくは、先輩の目の前に杖を突き付ける。
(
無言呪文を放ちかけた、その瞬間のことだった。
ぼくのことなど一切知覚できない筈のレインウォーター先輩は、ぼくの左手首を素早く掴む。痛みに思わず呻いた瞬間、先輩は杖をぼくの鼻先に向けた。
「
途端、目が眩むような光が目の前に広がる。
自分がやろうとしていたことを寸前で止められ、そっくりそのままお返しをされた。そのことに内心歯噛みしつつも、あまりの眩しさに生理的に顔を背ける。
「引っかかると本気で思ったの?
ほぼゼロとなった視界の中、先輩のそんな声が聞こえた。捻られ握力の弱まっていた左手から、杖がするりと抜け落ちる。
ぼくの左手を解放した先輩は、杖を拾うとそのままぼくに突きつけた。左手首を押さえつつ、ぼくは僅かに距離を取る。
「さて幣原、これで君は丸腰だ。残念ながら奇襲作戦は失敗しちゃったみたいだね。さあ……どうする?」
どうやら先輩は、敗北宣言をぼくの口から聞きたいらしい。いい性格してんじゃん。
眉を寄せ、レインウォーター先輩を見上げた。奥歯を強く噛み締める。
「……だんまりかい? 君に魔法を避けるような身体能力はなかったと思うけど、ものは試しにやってみようか」
これでおしまいか、とぼくは小さく下を向き──うっすらと微笑む。
ぼくの表情の変化に、先輩も「何かがおかしい」と勘付いたようだ。魔法を瞬時に止めるとぼくの杖を放り投げ、余裕のない表情で自分の杖を握り直す。
……あぁ、残念だ。その杖で是非とも魔法を掛けて欲しかった。一週間かけて仕込んだのに、勿体無いなぁ。
そう、ぼくが欲しかったのは、その一瞬の心の乱れ。どれだけ気を張っていても、慌てた瞬間は誰もが集中力を欠いてしまう。
例えば──背後でダミーの杖が派手に爆発した音に、思わず顔を向けてしまったり。
レインウォーター先輩の懐に飛び込んだぼくは、袖口から取り出した本物の自分の杖を先輩の喉元に突きつけた。
あと数ミリで、杖先が喉を突く距離。避けられっこない『詰み』の体勢だった。
「……これは、挽回の目はないようだね」
そう言って先輩は両手を上げた。自ら杖を地面に落とす。
「負けたよ、幣原秋。流石は我が寮の後輩だ。このまま優勝して、レイブンクローの誇りになってくれと切に願っているよ」
まぁ、と
「あいつには、流石の君も勝てないだろうがね」
勝者──レイブンクロー寮四年生、幣原秋。
敗者──レイブンクロー寮七年生、エリス・レインウォーター。
魔法魔術大会本戦準々決勝、これにて──閉幕。
◇ ◆ ◇
「へぇ。じゃあルーピン先生と守護霊の呪文の練習をすることになったんだね」
「うん。来学期から、らしいけど」
十二月末。ぼくはハリーと共に、放課後のホグワーツを歩いていた。
段々と寒さが厳しくなり、外は真っ白な雪が積もるようになってきた。寒さに弱いぼくにとっては生きにくい季節だ。
「もう、クィディッチで箒から落ちるなんて無様な真似は絶対にしない……するもんか」
「そう言えば、箒はどうするの? ほら、ニンバス二〇〇〇は、その……壊れちゃったし」
ハリーが箒から落ちたあの日。制御を失ったハリーの箒は、フラフラと暴れ柳に突っ込んだ挙句に見事なまでのホームランを喰らったらしい。粉々になったニンバス二〇〇〇の残骸は、それはもう哀れなものだった。ハリーがどれだけ悲しんだことか……。
「箒……そうだよね、それも考えないといけないんだ……学校にある『流れ星』は競技じゃ使えないほどオンボロだし……」
「ふくろう通信で新しいのを買う?」
「今いろいろと見てはいるんだけど……いいのがなくって」
「……ファイアボルトとか」
「そんな! あんな高そうなもの、買えないよ!」
『ファイアボルト』と名前を出した瞬間すぐさま反応を返した。きっとハリーは、新しい箒としてファイアボルトが欲しいのだ。ダイアゴン横丁では、随分と熱心に見ていたし。
「……流石に、父さんと母さんの金庫を箒一本のために空っぽにすることなんてできないよ……あのお金はぼくとアキのものなんだ、大事に使わないと。おじさんに魔法の教科書を買うからお小遣いちょうだい、なんて言えないしさ」
「……そうだよねぇ」
ため息をつく。うぅん、お金。お金、か……難しいな。
その時、正面から思いも寄らぬ人影が見えた。思わず足を止めたぼくに、ハリーは「あぁ」と何もかもを見透かしたような笑みを浮かべては「じゃあ、僕はこっちだから。じゃあね!」と手を振り、曲がり角を曲がって消えてしまった。
グリフィンドールの談話室に行くには、こっちの道を真っ直ぐ行った方が近い筈だけど? ……全く、下手な気の遣い方。
「……あら、アキ」
「や、やあ。今日は一人?」
えぇ、と彼女──アクアマリン・ベルフェゴールは微笑んだ。
いつも薄着なアリスと違い、アクアはきっちりと制服を着込んでいるものの、彼女の華奢な身体つきも相まって何だか寒そうに見えるなぁとついつい心配してしまう。クリスマスにもこもこの手袋をプレゼントしたら、アクアは使ってくれるだろうか──って、落ち着けぼく。ドラコから釘を刺されたのをもう忘れたのか?
「……久しぶりね。何だか今学期は、あまりあなたとお話できていない気がするの。ねぇ、アキが良ければ、お茶でもどう?」
「い、いいの!?」
「……お茶に誘っただけなのに、どうしてそう驚くの?」
「あう……」
それは、そのぉ……もごもご。
クスクスと笑ったアクアは「……こっち。ちょうどいいテラスを見つけたの。大広間で何か飲み物でももらって行きましょう?」と言い、ぼくを先導して歩き出す。
レイブンクロー塔にはまだまだ手をつけていない宿題やら予習復習やらが大量に残っているものの、アクアに誘われちゃあ仕方ないよね! 断れっこないよね!
「そう、ちょうどマグル学の授業で分からないことがあったから、同じ授業を取っているアクアに話でも聞こうかと思っただけで……」
「……私より、あなたの方がマグルについては詳しいと思うけど?」
……あう。
アクアに従い、黙って階段を下りていく。
……な、何か話した方がいいんだろうか……。
「アクア、誕生日っていつだっけ?」
「……三月十二日よ。忘れたの? 去年プレゼント、くれたじゃない」
しまった、話題のチョイスを間違えた。しかし仕方ない、このまま突き進もう。
「じゃあ血液型!」
「……B型」
「星座は!?」
「……魚座」
「好きな食べ物は?」
「……レモンタルトとアップルパイ……どうしたの? 急に」
「いや、別に……」
失敗を掻き消そうとして、更に失敗の上塗りをしている気がする。
……ダメだ、アクアが相手じゃ頭が働かない。ぼくらしくもない。
「……あ」
と、前を歩くアクアが小さな声を漏らした。
角を曲がって現れたのは、ドラコとその取り巻きであるクラップ、ゴイルの三人組だ。
彼ら──正確にはドラコ一人だが──は、ぼくとアクアの姿を見て足を止めた。
ドラコが、アクアと一緒に歩いているぼくをキッと睨みつける。そんなドラコをぼんやりと見返しながら、あぁそっかー、幸せって長くは続かないのね、なんてことを考えていた。
「……アキ。ちょっと来い」
ぼくを呼ぶ、ドラコの低い声。返事をしようとした時、アクアが一歩前に踏み出した。
「……アキに何の用よ。先にアキと約束していたのは私よ、ドラコ」
ドラコがぼくからアクアに視線を移した。二人黙って睨み合う。
ぼくは肩を竦めると、ドラコの方に歩み寄った。
「ごめん、アクア。実は先にドラコと約束してたんだった。行こ、ドラコ」
「……アキ?」
「ごめんね」
アクアにニコリと笑いかけ、ぼくは踵を返した。クラップとゴイルが困惑するのも構わず「ドラコ、行くよ」とスタスタと歩いていく。
「……っ、何、よ……何よ! ドラコのバカっ! 寮に帰ったら、覚えてなさいっ!」
そんな声が後ろから追いかけてきた。振り返りたい衝動に胸が締め付けられるものの、ぼくは前だけを見て歩き続ける。
「ごめんねドラコ、今度からはもっと気を付けるようにする」
「……アキ、すまない」
「謝る必要はないよ。それよりドラコ、寮に帰ったらアクアに気を付けた方がいいかもね?」
「……明日の薬草学は休むかもしれない」
「大袈裟だなぁ」
「君は、あいつが怒ったら怖いことを知らないから……、……いや」
そこでドラコは言葉を切った。
「僕は……」
「アクアを守ってくれるんだろ、ドラコ?」
「…………」
「なら、ぼくにとってそれ以上の幸せはないよ」
「……あぁ。分かっている、アキ」
俯いたぼくは、ドラコに見えない角度でそっと微笑んだ。
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