破綻論理。

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空の記憶

第30話 その瞳が映すものFirst posted : 2014.08.27
Last update : 2023.03.31

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 誰もがスネイプの登場に驚く中『彼』だけは黙って喧騒を見つめていた。ハリーはルーピンやスネイプの話を聞きつつも、時折『彼』を盗み見た。

 間違いなく『彼』はアキだった。しかし同時に間違いなく『彼』はアキではなかった。
 スネイプがルーピンに杖を振り上げようとしたその瞬間『彼』は初めて動いた。

 果たしてスネイプは『彼』がそこにいたことに気付いていたのだろうか。無言で『彼』が放った呪文は、狙い過たずスネイプに直撃した。驚愕の表情を浮かべたまま、スネイプは床に倒れ臥す。

「……失神呪文を放っただけだ。そんな顔をしないでくれ、リーマス」
「……いや。助かったよ、レイブン」
「久しぶりにその名で呼ばれたな」

 リーマスに笑いかけ、『彼』はそのままロンの方にツカツカと歩いて行った。

「ロン。そのネズミを渡してくれ」
「……お前は、誰だ。アキじゃないよな」
「いいや、ぼくはアキだよ」

 にっこりと『彼』は微笑んでみせる。それは、紛うことなくアキと同じ笑みで──でも、違う。纏う雰囲気が全然違う。ロンもそれを悟っているのだろう、青ざめた顔で後ずさった。

「ペティグリューがネズミに変身できたとしても、ネズミなんてごまんといるじゃないか。どうしてスキャバーズだと思ったんだ?」
「もっともな疑問だ。そうだとも、シリウス。あいつの居場所をどうやって見つけ出したんだい?」

 ロンとルーピンの問いかけに、ブラックはローブの中からくしゃくしゃになった紙の切れ端を取り出した。ロンと家族の写真が載っている『日刊預言者新聞』だ。ブラックはロンの肩に乗っているスキャバーズを指差した。

「一体どうしてこれを?」
「ファッジだ。去年アズカバンの視察に来た時、ファッジがくれた……ピーターがそこにいた。私にはすぐ分かった。こいつが変身するのを何回見たと思う? それに写真の説明──この子がホグワーツに戻ると書いてあった。ハリーのいるホグワーツへと……」

「何たることだ」とルーピンは呻いた。

「……こいつの前脚だ」
「それがどうしたって言うんだい」
「指が一本ない」

『彼』が唇を噛み締めるのが見えた。暗い表情で下を向いて俯いている。

「あいつを追い詰めた時、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。私がジェームズとリリーを裏切ったんだと。それから、私が奴に呪いを掛けるより先に、奴は『武装解除』した私の杖で道路を吹き飛ばし、自分の周り五、六メートル以内にいた人間を皆殺しにした……そして素早く、ネズミがたくさんいる下水道に逃げ込んだ」

 そこでブラックは息をついた。『彼』は沈んだ口調で言う。

「……すまない、シリウス。あそこで、ぼくが……」
「いや、いいんだ。現行犯相手に、普通は開心術なんて使わない。……ところで、君は本当に、私の……俺の知る『幣原』なのか? ……レイブン、なのか?」
「あぁ……その通りだ、パッドフット」
「……死んだと、聞いていた」
「死んではいないさ。偽造しただけだ……その話は後だ、シリウス」

『彼』は再びロンを見て手を差し伸べた。ロンは躊躇いながらも、ポケットからネズミを掴み出すと『彼』に手渡す。ネズミは『彼』に触れられまいと暴れるも、気にせず『彼』はむんずと掴み上げた。

「良かったね、ワームテール。アキが自分から動物を遠ざけておくような奴で。……皆でやるか?」

 ネズミを見つめ『彼』はうっそりとした笑みを浮かべた。ブラックとルーピンは頷くと、杖を構える。

「三つ数えたらだ。いち──に──さん!」

 青白い閃光が、三本の杖から迸る。そして──
 数秒後、そこには一人の男が座り込んでいた。色褪せたまばらな髪はくしゃくしゃで、スキャバーズと同じくてっぺんには大きな禿げがある。ハリー達は呆然とその男を見つめた。
 ルーピンが朗らかに声を掛ける。

「やぁ、ワームテール。しばらくだったね」
「パ、パッドフット……ムーニー……レイブン……」

 周りの全員を見回したペティグリューは、素早く扉に視線を向けた。

「友よ……懐かしの友よ……」
「随分とご挨拶じゃないか。友だというなら、早くぼくらの前に姿を現してくれても良かったんじゃない?」
「こ、こいつが! アズカバンを脱獄して、わた、私を殺そうとしていたから!」

 ペティグリューは喘ぎながらもブラックを指差す。ブラックの杖腕が上がったのをルーピンが窘めた。

「そのために十二年間もネズミの姿に身をやつしていたと? シリウスがアズカバンを脱獄すると分かっていたと言うのか? 未だかつて脱獄した者は誰もいないのに?」
「こいつは私達の誰もが夢の中でしか敵わないような闇の力を持っている! それがなければ、どうやってあそこから出られる? おそらく『名前を言ってはいけないあの人』がこいつに何か術を教え込んだんだ!」

 ブラックは唐突に笑った。虚ろな笑い声が部屋中に響く。

「ヴォルデモートが俺に術を?」

 ブラックが吐き捨てた名前に、ペティグリューはビクリと身を縮めた。

「どうした? 懐かしいご主人様の名前を聞いて怖気づいたか? 無理もねぇな、ピーター。昔の仲間は君の……いや、お前のことをあまり快く思っていないようだ。違うか?」
「シリウス、君が何を言っているのやら……」

 ペティグリューは近くの戸棚を思いっきり蹴っ飛ばした。「ひぇっ」と情けない声を上げ、ペティグリューは小さく縮こまる。

「お前は十二年もの間、俺から逃げていたんじゃない。ヴォルデモートの昔の仲間から逃げ隠れしていたんだ。アズカバンでいろいろ耳にした、ピーター……皆お前が死んだと思ってる。さもなきゃ、お前は皆から落とし前をつけさせられた筈だ。俺は囚人達が寝言でいろいろ叫ぶのをずっと聞いてきた。どうやら皆、裏切り者がまた寝返って自分達を裏切ったと思っているようだった。ヴォルデモートはお前の情報でポッターの家に行った。そこでヴォルデモートが破滅した。ところがヴォルデモートの仲間は一網打尽でアズカバンに入れられた訳ではなかった。そうだな? まだその辺にたくさんいる。時を待っているんだ。悔い改めたフリをして……ピーター、その連中が、もしお前がまだ生きていると風の便りに聞いたら──」
「何のことやら……何を話しているのやら……リーマス、、君達は信じないだろう? こんな脱獄犯の戯言など……」
「ぼくは論理的な方を信じる。昔も今もそれは変わらない。浅ましいね、ピーター」

 吐き捨てるように『彼』は告げた。その声にもまたペティグリューは身を竦ませる。

「ヴォ、ヴォルデモート支持者が私を追っているなら、それは、大物の一人を私がアズカバンに送ったからだ! スパイのシリウス・ブラックだ!」
「よくもそんなことを!」

 ブラックは般若の形相で叫んだ。

「俺がヴォルデモートのスパイだと? 俺がいつ、自分より強く力のある人達にヘコヘコした? しかしお前は……ピーター、お前はいつも、自分の面倒を見てくれる親分にくっついているのが好きだった……自分を守ってくれる、より力のある方を見極めるのが上手かった……かつてはそれが俺とジェームズだった。で、今はヴォルデモートだということか?」
「私が、スパイなんて……正気じゃない、どうして、どうしてそんなことが言えるのか、私にはさっぱりだ……」
「ほう? 理由を聞きたい? なら教えてやろうじゃないか、ピーター・ペティグリュー。ジェームズとリリーの『秘密の守人』はお前だからだ」

 ブラックの言葉に、ハリーは息を呑んだ。
 ルーピンは奥歯を噛み締め『彼』に視線を遣る。

「……シリウスだと、私は……私達はそう聞いていた。そうだよな、?」
「あぁ……。……でも、違ったんだな。ぼくらがスパイだと思っていたのか、シリウス」

「その件については本当にすまない」とブラックは真摯な声で謝罪した。

「だがあの時代は、誰であろうと信用なんてできなかった。昨日までの友人が、今日は敵になるかもしれない。『服従の呪文』のせいだと言ったら、責任転嫁だと君達は怒るだろうか?」
「……いいや。疑っていたのはこちらも一緒だ。怒りに我を忘れて、真実がどうなのかを探ろうとも思わなかった」

 その時、ずっと黙っていたハーマイオニーが「ルーピン先生」と口を開いた。

「あの……聞いてもいいですか?」
「どうぞ、ハーマイオニー」

 ルーピンは丁寧に答える。

「あの──スキャバーズ──いえ、この人、ハリーの寮で三年間同じ寝室にいたんです。『例のあの人』の手先なら、今までハリーを傷つけなかったのはどうしてかしら?」
「そうだ!」

 ペティグリューは我が意を得たりとばかりに声を上げた。

「ありがとう! 聞いたかい? ハリーの髪の毛一本傷付けていない!」
「その理由を教えてやろう」

 唸るようにブラックが言った。

「お前は、自分に得がなければ絶対に何もしない奴だ。ヴォルデモートは十二年も隠れたまま、半死半生の状態だと言われている。ダンブルドアの目と鼻の先で……お前が気が付いてたかは知らんが、幣原もいて……この二人のいる中、力を失った残骸のような魔法使いのために人殺しなんてするか? お前が。そもそも魔法使いの家族に入りこんで飼ってもらってたのは何のためだ? 情報がすぐ手に入る状態にしておきたかったんだろ? ヴォルデモートが力を取り戻し、またその下に戻っても安全だと確信できるまで」

 しん、と部屋の中が静まり返った。ペティグリューは反論の言葉を無くしたように、ただ口をパクパクとさせていた。
 ブラックはハリーに視線を向けた。ハリーも目を逸らさずにブラックを見返した。

「信じてくれ」

 掠れた声だった。

「信じてくれ、ハリー。私は決してジェームズやリリーを裏切ったことはない。友を裏切るくらいなら、私が死ぬ方がマシだ」

 そこで、ようやくハリーはブラックを信じることができた。

 ハリーの頷きに、ブラックは感極まったように身を震わせた。落ち窪んだ眼窩に光と、そして涙さえも浮かべている。
 反対に、ペティグリューはがっくりと膝をついた。祈るように手を握り合わせては這いつくばり、許しを請うように哀れっぽく啜り泣く。

「駄目だ! シリウス──私だ……ピーターだ……君の友達の……まさか君は……」
「私のローブは十分に汚れてしまった。この上お前の手で汚されたくはない」

 ブラックは威嚇するように長い脚を振ってみせる。ペティグリューは情けなく後ずさりした後、ルーピンに救いを求める眼差しを向けた。

「リーマス! 君は信じないだろうね……君は私の、一番最初の友達だった!」
「今ではそれを悔やんでいるくらいだ。君をジェームズとシリウスの二人に紹介しなければ、ジェームズは生きていたしシリウスは十二年間もアズカバンにいなかっただろうに」

 ルーピンは蔑むような目でペティグリューを見下ろす。どこか痛みを覚えたように、顔を歪めたペティグリューはルーピンに伸ばしかけていた手を引っ込めた。

「ロン……私はいい友達、いいペットだったろう? 私を殺させないでくれ、ロン。お願いだ……君は私の味方だろう?」
「自分のベッドにお前を寝かせてたなんて!」
「優しい子だ……情け深いご主人様……殺させないでくれ……私は君のネズミだった、いいペットだった……」
「人間の時よりネズミの方がサマになるなんていうのは、ピーター、あまり自慢にはならないな」

 ブラックが冷たく言い放った。
 ロンは痛みを堪えながらも、折れた脚をピーターの手の届かないところへと捻る。

「優しいお嬢さん……賢いお嬢さん……あなたは、あなたならそんなことをさせないでしょう? 助けて……」

 ハーマイオニーは怯えた顔で壁際まで下がった。
 皆がペティグリューを見下ろす中、次にペティグリューが縋った先は『彼』だった。

「あぁ、…………君なら分かってくれるだろう? 君と私は……君と僕は似ていると、初めて見た時から思っていた……君はジェームズに憧れていた、僕もそうだ……」

 ペティグリューが『彼』の足に縋りつく。『彼』はペティグリューを邪険にも、足蹴にもすることなく、身を屈めてはペティグリューと目線を合わせた。

……生きてたんだな……僕はずっと、君に会いたかった……」
「ぼくもちょっと前までは、君に会いたかったよ」
「そんなことを言わないで……、ねぇ、分かるだろう? 僕は臆病者だ、闇の帝王が怖かった……僕は弱かった……僕は……僕は、ジェームズが羨ましかった……」

 泣きながら、ペティグリューは訴える。

「ジェームズの、あの強いところが羨ましかったんだ……ジェームズといれば、何も怖いことはないって思わせてくれるような、あんな強さが羨ましかったんだ……妬ましかったんだ……何もしなくても勝手に人が集まってくるような、あのカリスマ性が羨ましかったんだ……」
「……だから、殺したのか?」
「殺すつもりなんてなかった……」
「殺すつもりだったんだろ!」
「黙って、シリウス。ぼくは今ピーターの話を聞いてるんだ」

 振り返り、『彼』は強い瞳でブラックを睨みつけた。ブラックはぎくりと怯んで口を閉じる。

「殺すつもりはなかった……本当だ……『あの人』に逆らったら、僕が殺される……僕は臆病者だ、死ぬのが怖かった……でもきっとジェームズは、死ぬのも怖くないと思ったんだ」

 ルーピンとブラックは揃って目を瞠った。

「ジェームズなら、どうして僕が裏切ったのかも分かってくれると思っていた……僕の弱さも全部ひっくるめて、僕を認めてくれたのはジェームズだけだった……『あの人』から今まで三度も生き延びてきたんだ、今度もきっと生き延びるさって思って……」
「ジェームズとリリーを売った。そういうことか?」
! 助けて……助けてくれ。僕は『あの人』が怖い……『あの人』の仲間が怖い……助けて……僕を守ってくれ……」
「……あぁ、助けよう。ぼくは君を、ヴォルデモートからも死喰い人からも守ってあげる」

『彼』の口からそんな言葉が漏れたことに、この場にいる誰もが動揺した。

!? 何を言って……」
「あぁ、はきっとそう言ってくれると思っていた!」
「……助けてあげるよ、ピーター」

『彼』はゆっくりと立ち上がり、ペティグリューに杖を向けた。ペティグリューは『彼』に縋りついたまま、何が何だか分からないといった目で『彼』を見上げる。

「ぼくが君を殺してあげる。そうすれば、ヴォルデモートも死喰い人ももう怖くないだろう?」
「…………い、いや、レイブン、な、何の冗談だよ……」

『彼』は──幣原はニコリと笑った。アキそのままの顔で、柔らかく慈愛に満ち溢れた天使のような完璧な笑顔を浮かべてみせる。

「ワームテール。かつてぼくの友人だった者。あの世で、リリーとジェームズに土下座して謝ってくれ」

 ────ふわり。
 部屋中の魔力が、幣原かれを中心に渦を巻く。
 息を吸えぬほどのプレッシャー。ぱちり、ぱちりと、静電気にも似た火花が散る。
 音もなく──幣原の黒髪が揺れる。

 誰もが息を呑んだまま、幣原とペティグリューを見つめていた──ハリー以外は。

「やめろ!!」

 ハリーは精一杯の声で叫ぶと、今にも杖を振りかぶろうとしたに対し、タックルをかますように全身の体重を掛けて突き飛ばした。二人もつれ合うように床に倒れ込みながら、の手から杖をもぎ取る。

 に跨ったままハリーは肩で息を吐いた。よほど予想外だったのだろう、は呆然とハリーを見上げている。

「やめろ──やめてくれ、アキ。いや……幣原

 の両の手首を押さえつけたまま、ハリーはの目を真っ直ぐ見つめた。

「こいつは城まで連れていこう……吸魂鬼ディメンターに引き渡すんだ。こいつにはアズカバンこそが相応しい……殺しちゃダメだ。シリウスの無罪を晴らすためには、こいつには生きていてもらわないといけない筈だ」
「死んでいようが構わないだろう。十二年前に小指だけを残して死んだピーター・ペティグリューの死体が何故か此処にある、それだけで物的証拠には成り得る」
「いいや、足りないね。『秘密の守人』の真実を知ってるのは、脱獄犯で指名手配中のシリウスだけだ。悠長に話を聞いてもらう前に、シリウスが吸魂鬼ディメンターの餌食になる」

 ハリーの言葉には黙った。

「僕の父さんは、親友が──あんな奴のために、殺人者になるのを望まないと思うし、それに、僕が──アキの姿をした君が、世界で一番大好きで誇らしい弟の姿をした君が、人を殺すのは──見たくないんだ」

 静寂が辺りを包んだ。誰もが、ペティグリューですら、呼吸の音を潜めた。
 その静寂を破ったのは、どこか押し殺したようなの声だった。

「……アキ・ポッターは、君の本当の弟じゃないんだ。ぼくが、後から人工的に作ったもので……君の傍にいて、咄嗟の時にいつでも君を守ることができる人間ばしょが欲しくて──だから、アキ・ポッターは……」
「そんなの関係ないんだ。どうして分からないの? 君はアキの中にずっといたんだろう? アキの中から、僕を見ていてくれたんだろう? 見守っていてくれたんだろう? ならどうして分からないんだよ! ハリー・ポッターはアキ・ポッターが大好きだっていう簡単なことを!」

 の瞳が揺れる。何を言っているのか分からないという表情で、はハリーを見つめていた。

「本当は血が繋がってなかったところで! 実の兄弟じゃなかったってところで! アキが好きだって気持ちは揺らがない。アキの姿で、ぼくが大好きなあいつの姿で人を殺すのは、僕が絶対に認めない」
「…………っ」

 は顔を歪めた。ハリーはの手首を掴み引っ張り起こす。
 ブラックは言った。

「……ハリー、君だけが決める権利を持つ。君がこいつをアズカバンに送るというのなら、私達はそれに従うべきだ……そうだろ、レイブン」
「……分かったよ、パッドフット」

 大きなため息を零したは、頭に手を当て「ごめん、もう限界だ」と膝をついた。が地面に倒れ臥す前に、ハリーは咄嗟に手を伸ばしてを支える。ルーピンもハリーに加勢した。
 はじっと目を閉じている。ハリーは恐る恐る呼びかけた。

「……幣原?」
「気を失ってるだけだ。入れ替わる時は、どうしてもそうなってしまうらしい……本人からも起こすなと言われてる。どれ、私がを支えようじゃないか……」

 差し出されたルーピンの手を、ハリーは拒否した。

「いや、僕がアキを支えたいんだ」

 アキの身体を背負い、ハリーは立ち上がる。自分より二回りほど小柄な身体だ、背負うことも全然苦にならない。
 ルーピンは一瞬物言いたげな目をしたものの、やがて微笑みを浮かべ頷いた。

「そうか……うん、ハリーがそれでいいならいいんだ。さぁピーター、立て。立つんだ。大人しくしてろよ」

 ルーピンの杖の先から細い紐が噴き出る。その紐に縛り上げられたペティグリューは、猿轡さるぐつわまで噛まされて床の上でもがいていた。

「しかし、ピーター。もし変身したら──やはり殺す。いいね、ハリー?」

 ブラックは唸るように言う。ハリーは床に転がる哀れな姿を見下ろし、ペティグリューに見えるように頷いた。



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