破綻論理。

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空の記憶

第12話 守り方First posted : 2015.09.06
Last update : 2022.10.11

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 グリフィンドールとスリザリンが合同の魔法薬学の授業が、セブルス・スネイプは好きにはなれなかった。

 そもそも、とセブルスは思う。
 グリフィンドールとスリザリンの生徒の対立は、何世紀も前から変わらず根深く存在するのだ。先生方もそんなことは分かっているだろうに、どうしてグリフィンドールとスリザリンが合同の授業はこんなにも数多いのか。

 せめてレイブンクローと合同だったら、こんな殺伐とした空気にはならないに違いないのに。
 スリザリンは他の三つの寮と比べて少々特殊で閉鎖的だという自覚はあるが、それでも一番雰囲気として似通っているのは、恐らくレイブンクローだ。
 彼らは、自分たちとは異なる意味で誇り高く、知的好奇心に溢れているため、授業の邪魔をすることはまずもってありえない。共に机を並べるとしたら、スリザリン生は真っ先にレイブンクローを望むだろう。
 計り知れぬ叡智をこそ至上の宝と尊ぶレイブンクロー生は、寮の対立なんていう「どうでもいい」ことに関して一番無頓着で、その無頓着さが、寮のしがらみに疲れたセブルスにとっては心地よかった。最も、スリザリンが共に勉学に励む相手としてレイブンクローを指名したところで、レイブンクローがそれを受け入れるとも限らないのだが。

 レイブンクロー生の考えることは、他寮生から見るとよく分かりづらい。彼らの中では論理が通っているのかもしれないが、その論理がそもそもどこから導き出されたのやら、外側からではさっぱり分からないのだ。
 レイブンクロー生にはいわゆる「変人」と呼ばれる人たちが多い、と言われるのも、そのあたりに起因しているのだろう。

 幣原も、セブルスにとっては何を考えているのかよく分からない人物の一人だ。
 一年の時に出会って、今年で付き合いは五年にもなる。寮が異なるというのに、よく長々と付き合っているものだ。
 幣原を自らの親友と呼ぶことに対して躊躇はないが、しかしその親友の考えていることはよく分からないというのがセブルスの本音だった。
 闇の帝王に賛成するセブルスを正面切って否定しておきながらも、友達であり続ける彼の姿は、どこか物悲しく滑稽だ。

 話を戻そう。グリフィンドールとスリザリン合同である、魔法薬学の授業が終わった後のことだ。
 魔法薬学の担当教師であり、且つ我がスリザリンの寮監であるホラス・スラグホーン教授に、本日の授業の疑問点を尋ねていたら遅くなってしまった。手早く荷物を纏めて次の授業に向かわなければ、授業の開始に間に合わない。
 スラグホーンも、次の授業の準備のために教室を引き払ってしまった。急いだ方がいいだろう。

 しかし、そんなセブルスの気持ちは、あっけなく崩されることになる。

 自分の座っていた机の前に立ちなにやらしている人物が見知った顔、ジェームズとシリウスであるということ、そして彼らが見ているのは、さんざん様々な書き込み済みのセブルスの教科書であるということに気付いて、セブルスは青褪めた。

「おいっ!!」

 大声を上げ、足音も荒く彼らに近付くと、彼らの手から教科書を乱暴に引ったくった。
 二人は──ジェームズとシリウスは一瞬だけセブルスに目を瞠ったが、すぐに普段の余裕めいた笑みを取り戻す。

「なんだスニベリー、お前のだったのか」
「なんだ相棒、分かってなかったのか。余白の文字からスニベリー臭がプンプンしていたじゃないか」

 そう笑い合っていたジェームズの表情が引き締まった。セブルスの手にある教科書を指指し、言葉を紡ぐ。

「お前……なんの呪文を作っている?」

 眼鏡の奥の瞳が、鋭く煌めいた。セブルスに対し、一歩ずつジェームズは近付いていく。距離を詰められるのが嫌で、セブルスも後ろへ下がって行った。後ろ手に教科書を隠す。

「教科書、二百三十一ページ。右上の余白の部分だ。覚えていないとは言わせない」

 ページまで正しい。さすがは腐っても学年主席だ。

「僕の予想が正しければ──それはまさしく闇の魔術だ。悪霊や闇の生物、良からぬものの力を借りて魔力を増幅させ、相手を傷つけるためだけの魔法だ。……そんなものは、触れてはいけない。スネイプ、の友人でありたいのなら、やエバンズの友でい続けたいのならば……手を切るべきだ。あいつらは、それを許さない。だから」
「許さない? やリリーの何を、お前は知ってるというんだ」

 虚勢を張ってせせら笑った。ジェームズの眉間にぎゅっと皺が寄る。

「僕の選んだ道だ、口出ししないでくれたまえ、目立ちたがり屋のポッター君。人の物に手出しをするとは、なんたる育ちの悪さか。……この時代だ、闇の魔術に勝る力など存在しない。自分の身すら守れない奴が、リリーのことを好いているだなんて? 笑わせる。タチの悪い冗談だな、芸人になったがいいんじゃないか?」
「……ディフィンド!」

 我慢のならなくなったらしいシリウスが、ジェームズが止める間もなく杖を抜いた。それに黙っているセブルスではない、「ステューピファイ!」と応戦する。

「レビコーパス!」

 叫んで、セブルスは杖を振り上げた。それは、セブルスが考案した呪文だった。まだ一度も試したことはなかったが──上手く行った。シリウスは踵を見えない手で掴まれたように宙吊りになる。
 その隙をついて、セブルスはカバンを掴むと教室から走り出た。

「スネイプ!!」

 ジェームズの叫び声が聞こえる。無視して、スネイプは唯、走った。

「……セブ?」

 聞き慣れた声に、振り返る。リリーが、びっくりした表情でこちらを見ていた。

「……どうしたの、そんなに慌てて。次の数占い学は確か、休講だったと思うのだけど」

 そうだった、すっかり忘れていた。リリーの前で足を止めると、リリーは懐からハンカチを出し、セブルスの汗を拭う。

「一体どうしたの? セブ」
「いや……何でもない」

 目の前にいる少女を、この仄暗い時代から守りたい。

 ただ、それだけだった。

 

  ◇  ◆  ◇

 

 ムーディ先生の初授業、闇の魔術に対する防衛術を、待ちわびている同級生は多いようだ。上級生や下級生など、他学年から漏れ聞こえる情報に、『今までのどの先生の授業とも違う実践的なもの』という期待が大きく弾んでいる。
 ぼくは、楽しみじゃない、というわけではないけれども、気が進まない、という自分の気分から目を逸らすことは出来なかった。

 どうして気が進まないのだろう。考えても、理由はよく分からなかった。
 いや──理由にならない理由なら、一個だけ、存在する。

 ぼくは──ムーディ先生が怖いのだ。

 この気持ちは、全く論理的なものじゃない。一から十まで直感的なもので、どうしてあの人が怖いのか、まったくもって分からない。
 しかし、現実問題として、あの人が近くにいると寒気がするし、目が合ったら総毛立つ気分になるのだ。

 確かに、恐ろしい容姿ではあると思う。傷だらけの顔に、義眼に義足。
 でも、ぼくが怖いのはその見た目じゃなくって、もっとこう、存在というかなんというか……。

 しかし、いくら先生が怖いと言ったって、ムーディ先生は授業の担当教師なのだ。そんなこと言っても仕方がないだろう。

 ハリーたちは、この授業を心待ちにしているようだった。彼らは最前列の先生の机の真正面に陣取ると、ワクワクした表情でお喋りをしている。
 流石にそこまで近付く気にはなれなくて、ぼくはアリスと共に後ろの端の机を選んだ。

 やがて、ムーディ先生が現れた。席に座る全員を見遣ると、唸るように「教科書なんぞ仕舞ってしまえ。そんな物は必要ない」と言う。ザワザワと皆が教科書を鞄の中に戻した。

 ムーディ先生は出席を取ると、いよいよ話を始めた。

「このクラスについては、ルーピン先生から手紙を貰っている。闇の怪物と対決するための基本をかなり満遍なく学んだようだ──そうだな? しかしお前たちは、遅れている。非常に遅れている。呪いの扱い方についてだ。そこで、わしの役目は、魔法使い同士が互いにどこまで呪い合えるものなのか、お前たちを最低線まで引き上げることにある。わしの持ち時間は一年だ。その間にお前たちに、どうすれば闇の──」
「え? ずっといるんじゃないの?」

 一番前の席に座るロンが、思わず、といった感じで口走った。ムーディ先生は言葉を着ると、ふ、と笑う。

「お前はアーサー・ウィーズリーの息子だな? お前の父親のお陰で、数日前窮地を脱した……あぁ、一年だけだ。ダンブルドアのために特別にな……その後は静かな隠遁生活に戻る」

 ムーディ先生は喉の奥でくつくつと笑うと、話の続きに戻った。

「では──すぐ取り掛かる。呪いだ。呪いは力も形もさまざまだ。さて、魔法省によれば、わしが教えるべきは反対呪文であり、そこまでで終わりだ。違法とされる闇の呪文がどんなものか、六年生になるまでは生徒に見せてはいかんことになっている。お前たちは幼すぎ、呪文を見ることさえ耐えられぬ、というわけだ。
 しかしダンブルドア校長は、お前たちの根性をもっと高く評価しておられる。校長はお前らが耐えられるとお考えだし、わしに言わせれば、戦うべき相手は早く知れば知るほどよい。見たこともないものから、どうやって身を護るというのだ? 
 いましも違法な呪いを掛けようとする魔法使いが、これからこういう呪文をかけますなどと教えてはくれまい。面と向かって、優しく礼儀正しく闇の呪文を掛けてくれたりはせん。お前たちの方に備えがなければならん。緊張し、警戒していなければならんのだ。
 いいか、ミス・ブラウン。わしが話しているときは、そんな物はしまっておかねばならんのだ」

 ラベンダーがびくっとして、慌てて何かを仕舞い込んだ。魔法の目は堅い木も透かして見えるようだ。

「さて……魔法法律により最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」

 何人かがパラパラと手を挙げた。その中で、ムーディ先生はロンを指名した。

「えーと。パパが一つ話してくれたんですけど……『服従の呪文』」
「あぁ、その通り。お前の父親なら、確かにそいつを知っているはずだ。一時期、魔法省をてこずらせたことがある。『服従の呪文』」

 そう言うとムーディ先生は、机の引き出しからガラス瓶を取り出した。黒いクモが三匹、中で這い回っている。
 これから起きることを察して、ぼくは早くも具合が悪かった。

「……アキ? お前、顔色が真っ白だぞ」

 小さく首を振り「大丈夫」と呟くと、ぼくはぎゅっと反対側の袖を握りしめた。
 ムーディ先生は瓶に手を入れると、クモを一匹つかみ出し、手のひらに乗せると、一言呟いた。

「インペリオ!」

 杖先から閃光が零れた瞬間、クモはムーディの手から飛び降りると、様々な曲芸をやってみせた。自分の吐いた糸で空中ブランコをし、後ろ宙返りをし、側転をし──その面白い動きに、ほとんどの生徒が笑った。

「面白いと思うのか? わしがお前たちに同じことをしたら、喜ぶか?」

 笑い声は瞬時に消えた。

「完全な支配だ。わしはこいつを、思いのままに出来る。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、なんだって。……何年も前になるが、多くの魔法使いたちがこの『服従の呪文』に支配された。
 誰が無理に動かされているのか、誰が自らの意思で動いているのか、それを見分けるのが、魔法省にとってひと仕事だった……。
『服従の呪文』と戦うことは出来る。これからそのやり方を教えていこう。しかし、これには個人の持つ真の力が必要で、誰にでも出来るわけではない。できれば呪文を掛けられぬようにする方がよい。油断大敵!」

 そう言ってから、ムーディはクモをつまみ上げるとガラス瓶に戻した。そして改めてクラス中を見渡す。

「他の呪文を知っている者はいるか?」

 そこでムーディ先生が当てたのは、驚くべきことにネビルだった。ネビルがこうして自分から進んで答える姿を、ぼくは初めて見た。

「一つだけ──『磔の呪文』」
「お前はロングボトムという名だな?」

 ネビルは恐る恐る頷いた。ムーディ先生は二匹目のクモを取り出すと「エンゴージオ!」と肥大呪文を掛けた。瞬時に、クモは教科書くらいの大きさまで膨らむ。

 ムーディ先生は再び杖を上げると、呪文を唱えた。

「クルーシオ!」

 ぼくはぎゅっと眉を寄せたが、しっかりと直視した。クモは痙攣し、ひっくり返り、苦しげにピクピク身を捩った。

「やめて!」

 ハーマイオニーの声に、ムーディ先生は杖を離した。

「レデュシオ!」

 ムーディ先生はクモを縮ませると、ガラス瓶の中に戻す。そして言葉を紡いだ。

「苦痛。『磔の呪文』が使えれば、拷問に『親指締め』もナイフも必要ない……これも、かつてさかんに使われた」

 意識して息を吐いた。静かに目を閉じる。

「他の呪文を何か知っている者はいるか?」

 ムーディ先生の声。その後、少し間が空いて、ハーマイオニーが「『アバダ ケダブラ』」と囁いた。

「そうだ。最後にして最悪の呪文。『アバダ ケダブラ』……死の呪いだ」

 ぼくは目を開けると、目前で今から始まることを、しっかり見ようとする。
 しかしその時、ぼくの頭を無理矢理机の方に向かせる手が隣から飛んできた。誰か、なんて聞くまでもない、アリスに決まっている。

「見たくねぇなら、見なくていいんだ」

 ぼくの後頭部を押さえつけながら、静かな声でアリスは言う。
 そんなことない、ぼくは大丈夫だ、しかしここは、アリスの優しさに甘えておくことにする。

「アバダ ケダブラ」

 目を瞑った真っ暗な世界の中でも、ぼくははっきりと緑の閃光を見た。
 ぼくの頭を抑えるアリスの手に、ぐ、と力が篭るのが分かった。

「気持ちのよいものではない。しかも、反対呪文は存在しない。防ぎようがない。これを受けて生き残った者は、ただ一人。その者は、わしの目の前に座っている」

 アリスの手が、ぼくの頭から外れた。ぼくは頭を上げて、ムーディ先生の言葉に耳を傾けた。

「『アバダ ケダブラ』の呪いの裏には、強力な魔力が必要だ──お前たちがこぞって杖を取り出し、わしに向けてこの呪文を唱えたところで、わしに鼻血さえ出させることが出来るものか。
 さて、反対呪文がないなら、なぜお前たちに見せたりするのか? それは、お前たちが知っておかなければならないからだ。最悪の事態がどういうものか、お前たちは味わっておかなければならない。せいぜいそんなものと向き合うような目に遭わぬようにするんだな。油断大敵! 
 さて、この三つの呪文だが、これらは『許されざる呪文』と呼ばれる。同類であるヒトに対してこのうち一つの呪いをかけるだけで、一生アズカバンにぶち込まれる。お前たちが立ち向かうのは、そういうものだ。そういうものに対しての戦い方を、わしはお前たちに教えなければならない。備えが、武装が必要だ。しかし、何よりもまず、常に、絶えず、警戒することの訓練が必要だ。羽根ペンを出せ……これを書き取れ……」

 それから、『許されざる呪文』のそれぞれについてノートを取り、この授業は終わった。
 授業が終わるまで、誰もが黙りこくっていたが、授業が終わり、教室を出た瞬間、ほとんどの生徒が興奮したように喋り始めた。

 ぼくは黙って鞄に教科書を詰めると、立ち上がり歩き出す。アリスはぼくの隣に並ぶと、ぼくの顔色を伺うように覗き込んだ。

「やっぱり顔色悪いぞ、お前」
「自覚はあるよ。だから大丈夫さ」

 アリスは小さく息を吐くと、呆れたと言わんばかりに肩を竦めた。



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