破綻論理。

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空の記憶

第22話 第一の課題First posted : 2015.09.29
Last update : 2022.10.11

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 最近、校内では、人を宙吊りにする呪文が流行っていた。呪文を掛けられた者は、まるで見えない手に踵を掴み上げられたように、空中に宙吊りになってしまうのだ。
 この呪文の一筋縄でいかないところは、「フィニート」一言で終わらないことだ。反対呪文はたった一つ。その呪文も、すぐさま生徒に知れ渡った。

 やんちゃな男子生徒は誰も、隙あらば誰かれ構わずにこの呪文を使うようになっていた。
 女子生徒は、宙吊りにされては堪らないとばかりに、その呪文を使うような、やんちゃでクラスの中心にいるような人物を毛嫌いした。

 女子生徒ばかりではない。気を抜くと宙吊りになるということで、男子生徒だって掛けられたくない気持ちは同じだ。誰だって、宙吊りにされてゲラゲラ笑われたくはない。

 ぼくは、あまりその呪文には無関心な方だった。
 確かに、周囲が騒がしいな、とは思っていたが、前年度の魔法魔術大会で優勝したぼくに対して、そんな魔法を掛けてこようと思う奴はそういない。悪戯仕掛人の筆頭である悪ガキ、ジェームズとシリウスくらいか。ぼくはあの二人にだけ気を付けていればいいのだから、楽なものだ。

 同様に、もう一つの呪文も校内を飛び交っていた。こちらは、宙吊りの呪文よりもっと性質が悪く、また邪悪で、学校側からもすぐさま「使ってはならない」というお達しが出るほどだった。

 その呪文は『セクタムセンプラ』。全身を鋭い刃で切り裂く呪文だ。
 呪文の源は、一体どこからなのだろう。分からないがしかし、これが凶悪な呪文だということは明白だった。

 先日のセブルスを、思い出す。ぼくの大切な親友を、あんな目に合わせた呪文だ。
 あのときのセブルスの惨状を思うと、自然と眉が寄った。許せない、静かにそう思う。

 リィフ・フィスナーは、このような魔法が校内を飛び交っていることについて、いいこととは思っていない、数少ない人物の一人だった。

「あれは、闇の魔術が含まれている呪文だ。……一体誰が」

 こんなことを。
 ぼくは目を伏せ、かぶりを振った。誰なのだろう、と思いを馳せる。

 その呪文の作者が、思いも掛けずに身近にいたことに、ぼくは気付きもしなかったんだ。

 

  ◇  ◆  ◇

 

 ハリーの手助けをしない、というのは、ぼくにとってなかなか難しいことだった。兄の窮地に手助け出来ないというのは歯痒いものだ。

 じりじりと待つだけの日が過ぎて、ようやく第一の試練の日になった。ハリーは一体どのような対策をしただろう。ドラゴンに対する対処法を、ハリーは何かしら手に入れただろうか。

「ハリー!」

 大広間にて、昼食を取りに来たハリーの姿を発見し、思わず駆け寄った。
 ハリーは、どこか心ここにあらず、な表情をしていたが、ひとまずぼくを見て笑顔を浮かべてくれた。顔色が悪い。試練の対策で、ちゃんと眠れていないのか。

アキ

 緊張と不安でいてもたってもいられないはずなのに、こんなときでも、ハリーはぼくの兄らしく、ぼくを優しく気遣ってくれる。そんな優しい兄が、ぼくはとても誇らしい。
 たとえ、血が繋がっていないとしても。

 ハリーの隣にはハーマイオニーがいた。彼女も憔悴した表情をしている。きっとハリーを手伝ってくれたのだろう。本当にありがたい。

「頑張れよ、ハリー。なに、死ななきゃ大丈夫さ」
「はは……相変わらずだね、アキ。死ぬかもしれないんだよ」
「君は死なないよ。ぼくが保証する」

 そう言って、ぼくは懐から一枚の紙を取り出すと、ハリーの手にそれを握らせた。
 杖で紙を叩くと、紙は瞬く間に姿を変え、ハリーの手首にしゅるりと巻きつくと、銀色のブレスレットになる。

「護符をぼくなりにアレンジしたものだ。一度だけ、そう、一度だけ。致死性の攻撃を喰らったとき、こいつが助けてくれる。ぼくの代わりに、君を守ってくれる。だから、安心して、ハリー」

 ハリーの両手を掴むと、掲げた。ぼくの額に当てると、目を閉じ、祈る。

 どうか、ハリーを。ぼくの大切な人を、守ってください。

 ハリーは「……ありがとう」と呟いて、ぼくの頭を優しく撫でてくれた。





 選手四人中、三人の試練が終わった。残るはハリー一人。セドリックもフラーもクラムも、見事に課題をこなしてみせた。

「最後に登場するは──ハリー・ポッター!」

 バグマン氏の言葉に、観客は一斉に拍手をした。どうやらドラゴンの前では、ハリーに対する悪意など吹っ飛んでしまったようだ。

 出てきたハリーは、不安と決意の入り混じった表情をしていた。
 ぼくは胸の前で両手を組むと、祈るように拳を額に当てて目を瞑る。

 大丈夫。魔法式は完璧なはずだ。護符自体にも間違いはない。大丈夫、大丈夫。

 ホイッスルが鳴る。いよいよ開始だ。ホーンテールが、卵をしっかり抱えて伏せっている。四体のドラゴンの中で、確か一番気性が荒いドラゴンのはずだ。
 さすが、引きがいいというか、運が悪いというか。なんにせよ、ハリーらしい。

 ぼくの隣にはハーマイオニーと、そしてロンが座っている。二人ともハリーに見入っていて、ロンなんてハリーとずっと険悪だったはずなのに、とても不安げな眼差しで両手を組み合わせていた。

 ハリーは杖を上げると、叫んだ。

「アクシオ!」

 ぼくは息を呑んだ。なるほど、そういうことか。ハリーの特技、空を飛ぶこと。
 そうか、それならば……。

「お願いします、神様……!」

 ハーマイオニーがぎゅっと目を閉じ呟いている。とてもいい手を思いついたな、ハリーは。
 しかし、この呪文はハリーは確か苦手だったはず。もし、これが失敗すれば、ハリーは無策でドラゴンに挑むことになる。

 ぼくもハーマイオニーの隣で祈った。おそらくロンも、祈っただろう。

 やがて──ファイアボルトが自らの主人の元へ馳せ参じた。ハリーの脇にぴたりと止まり、主が乗るのを今か今かと待っている。

 ハリーが箒に跨り空へと飛び立った瞬間、爆発とも違わんばかりの歓声が響いた。

 箒に乗って飛んでいるハリーは、とても晴れやかな表情をしている。様々なしがらみから吹っ切れたような表情、年相応の顔を。

 ぼくはそんなハリーが、世界で一番大好きなんだ。

 ハリーが急降下する。ホーンテールもハリーの動きを追い、火を吐いたが、それよりもハリーが箒の先を上げ、上に舞い上がる方が早かった。

「いやあ、たまげた。何たる飛びっぷりだ! クラム君、見てるかね?」

 バグマン氏が興奮気味に叫ぶ。そういえばこの人、元プロクィディッチ選手だったっけ。今日も当時のものらしいユニフォームを身に纏っている。

 ハリーはしばらく上空で弧を描いて浮かんでいたが、再び急降下した。しかし今度は尻尾に邪魔される。
 ハリーは颯爽と交わしたが、尻尾の長い棘が肩を掠めたようで、ローブが引き裂かれた。ハーマイオニーが隣で悲鳴を上げる。
 ハリーはしかし、傷はそう深くはなさそうだ。動きにそう変化はない。

 今度はハリーは、ホーンテールが届かないギリギリのところで飛び回り始めた。ホーンテールは首を伸ばせるだけ伸ばし、ハリーの姿を追っている。しかし、なかなか卵から離れない。警戒心がとても強いようだ。

 それならば、とハリーは先ほどより高く飛んだ。ホーンテールが炎を吐く。しかしハリーは身軽にひらりと躱し、再びじりじりと飛び回った。

「もう少し……もう少し……」

 さぁ、ハリーを捕まえに行くんだ。立ち上がれ。

 ホーンテールが後ろ足で立った。翼を広げ、ハリーを排除しに掛かる。

 その瞬間を待ち侘びていたのはハリーだった。逃すはずもない、すぐさま急降下し、ファイアボルトから両手を離し──次の瞬間は、ハリーの両手に金の卵が握られていた。

 一斉に会場中が歓声に包まれる。ぼくだって声が枯れんばかりに叫んでいた。

「やった! やりました! 最年少の代表選手が、最短時間で卵を取りました。これでポッター君の優勝の確率が高くなるでしょう!」

 とその時、ハーマイオニーが感極まったとばかりにぼくに抱きつき、泣きじゃくる。
 良かった! とロンがぼくとハイタッチして、はっと我に返ったらしく、少し気まずげな顔でそっぽを向いた。

「ロン!」

 名前を呼び、ロンの手を引っ張って、ハーマイオニーと二人一緒に抱き合った。

 ロンとハリーは、きっともう大丈夫。そんな予感が胸を満たし、ぼくはにっこりと笑った。



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