破綻論理。

非公式二次創作名前変換小説サイト

TOP > 空の記憶 > 不死鳥の騎士団編

空の記憶

第24話 贖罪First posted : 2015.11.28
Last update : 2022.10.17

BACK | MAIN | NEXT

 日刊預言者新聞は、今日もまた、激化を辿る戦争を報道していた。
 淡々とした筆致にも、随分と疲れが垣間見える。
 一体いつになったら終わるのか、そもそも本当に終わるのか。誰にも、先は見えなかった。

『闇祓い六人殉死 『名前を言ってはいけないあの人』再び現る』

 ぺらり、と新聞を捲る。
 殺された闇祓いが入れられた真っ黒な棺が、白黒の写真で載っていた。

『名前を言ってはいけないあの人』──ヴォルデモート。彼が台頭してから、新聞は暗いニュースばかりだ。
 かつてあった楽しげな魔法界の姿は、今はもうどこにも見受けられない。
 新聞は毎日、絶望的なニュースを流す。人死にや行方不明、奇妙な事故。イギリス全土のみならず、その手の事件は今や、ヨーロッパ中に広がっていた。

 同時に『死喰い人』と呼ばれる、ヴォルデモートの手下たちの蛮行も、ヴォルデモートの凶行と同列の扱われ方をしていた。
 それと戦う闇祓い達は、酷く孤独で、そして、苦戦していた。

 これから先、ぼくが歩もうとしている道は一寸先も見えない闇なのだということを、新聞は、そして世論は、残酷に示していた。

 

  ◇  ◆  ◇

 

 ──意識が遠のく。

 いつだって、そうだ。
 いつだってぼくは、主人公にはなれない。

 操り人形は、主人公にはなれないのだ。

「──せん、ぱい」

 目を開けた瞬間、再び殴られた。狙った訳ではないのだろうが、頬骨の同じ部分に直撃し、嫌な感じに熱を持って痛む。

「──幣原。何をしている」

 怒りの感情が、痛いほどに突き刺さる。

「……どうして、今まで一度も見舞いにすら行ってやらなかった。あいつらは、お前を待っていた。待っていたのに、なんで……」
「……どの顔をして、会いに行けって言うんですか」

 ぼくは微笑んだ。ライ先輩は眉を顰め、口を閉じる。

「どのツラ下げて、何を言えばいいと言うんです。守れなかった、手から取り零した、ひとたちに……っ、なんと声を掛ければいいんですか!」

 拳を、爪が食い込むほどに握り締めた。

「……だから、立ち止まるのか」

 静かに、声が掛けられる。眉を寄せ、ライ先輩を見上げた。

「立ち止まることが許されると、思っているのか」
「……そんなこと、思ってない」
「じゃあなんで立ち止まっている」
「立ち止まってなんか、ない」
「ガキの中で眠るだけが仕事だなんて、さぞかしいいご身分だな」
「あなたに何が分かる!!」

 ライ先輩の背後の窓が、激しい音を立てて吹き飛んだ。
 ライ先輩はピクリとも表情を変えない。じっとぼくを、冷たい眼差しで見つめている。

「人を救い続けたあなたに、ぼくの気持ちは分からない! 何人殺したと、この手で、ぼくは! 気が狂いそうで、自分がマトモなのかそうじゃないのかも分からなくなってくる、そんな経験したことあります!?」

 ライ先輩は目を細めると、大股でぼくに歩み寄った。座り込むぼくと目線を合わせるように、しゃがみ込む。

「じゃあ、替わってくれよ」

 濃い茶色の瞳が、ぼくを射抜いた。思わず、動けなくなる。

「死にたいか? 殺してやるよ。目の前で何人看取ったことか。こんな職業マトモならやっていられない。お前は狂ってる。俺も狂ってる。なぁ、

 ライ先輩は右手を伸ばし、ぼくの首に触れた。頚動脈の辺りを軽く撫でる。

「俺は、お前が羨ましい。枷のないお前が憎らしい。復讐に殉じたお前が、妬ましい。俺だって、家族を滅茶苦茶にしたあいつと戦いたかった。死喰い人を殺してやりたかった。エリスを殺し、フランクとアリスをあんな目に合わせた奴らを、殺してやりたいよ。今だって、いつだって」

 狂気を孕んだ眼差しで、ライ先輩は笑った。

「この真上に俺の両親と妹がいる。あの日のまま、あの日と変わらぬ姿のまま、眠り続けている。三人のちょうどここに」

 ぼくの頚動脈に、ライ先輩は軽く爪を立てた。ピッと鋭く引っ掻く。

「魔法で付けられた印がある。解析すると、まぁ予想通りだったが、あいつが望んだ瞬間、俺の家族の首は吹き飛ぶ、そういう代物だった。……なぁ、

 口調は、存外に優しかった。

「俺はずっと、家族を殺してしまいたいという衝動と戦っている。家族を喪ったお前には、分からない感情だろうが……俺も、分かりたくなかった感情なんだが」

 目を伏せ、ライ先輩は微笑んだようだった。

「いっそのこと、もう目覚めないのなら。この手で逝かせてやった方がいいんじゃないか。こんな……こんな状態で生きるより、死んだ方がマシなのではないかと」

 首元から、ライ先輩の手が離れる。

「なぁ、替わってくれよ。頼むから」

 、と、震える声が空気を揺らした。

「俺が、大好きだった家族を、殺してしまう前に。……もう、手遅れなのかもしれないけれど」

 刺すような、ぼくに対する怒りは、ライ先輩の瞳からは消えていた。

 ぼくは、何も言えなかった。

 ぼくの手首を、ライ先輩はしっかと掴む。見た目に反する強い力だった。

「お前に立ち止まる権利はない、幣原

 歩み続けろ。
 それが、お前の贖罪だ。



BACK | MAIN | NEXT

いいねを押すと一言あとがきが読めます



settings
Page Top