破綻論理。

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空の記憶

第35話 両手いっぱいの幸せをFirst posted : 2015.12.12
Last update : 2022.10.17

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 桜の花びらが、風に舞って散っている。
 薄い水色の空に、淡いピンク色。この色合いに物凄く郷愁を感じるのは、一体どうしてなのだろう。

 イギリスの桜は日本と少し違うが、なぜだかホグワーツには一本だけ、日本によく咲いている種、染井吉野の木があった。東塔の校舎裏にあるそれは、ひっそりと佇んでいて、誰に見られていようが見られていまいが構わない、という矜持があるようで、思わず笑みが零れる。

だ! ー!」

 名前を呼ばれて振り返ると、東塔の二階から、リリーが手を振っていた。微笑んで手を振り返すと、リリーがパッと東塔の中に引っ込んでいく。
 あっという間に、二階から駆け下りてきたリリーが、校舎裏へと姿を現した。

「こんな桜、今まであったかしら?」

 今日は風が少し強いようだ。長く綺麗な赤い髪を手で押さえながら、リリーは首を傾げた。

「ぼくも初めて見つけたんだ。ホグワーツの不思議なところだよね。季節も、本当なら三月や四月に咲くはずなのに」
「ふふっ、そうね」

 リリーは笑みを浮かべたまま、桜を見上げて目を細めた。

「……でもね、この花は、日本じゃちょうど卒業の時期に咲くんだ」

 呟いたぼくの言葉を、リリーは拾った。

「日本で、とっても愛されている花でね……川べりやら、本当に至る所に植えてある。学校にだって。日本の学校の卒業は三月なんだけど、ちょうどその時期に満開になって、桜並木の中をね、歩くんだ」
「……とっても、綺麗なんでしょうね」

 ひらりひらり、風が吹くたびに、花びらが少しずつ散ってゆく。
 リリーの赤い髪に、花びらがついているのに気付いた。手を伸ばそうとして、躊躇う。

「……髪に、花びらついてる」

 結局、口で指摘するだけに留めた。

「えっ、どこ?」
「頭のてっぺん……あぁ、違う、もうちょい左」

 照れたように、リリーは微笑んだ。大人っぽい綺麗な笑みだった。

「不死鳥の騎士団に、入るんだ」
「……えぇ、そうよ」

 リリーから目を逸らして、桜を見上げた。

「……止めて欲しい、って言ったら、どうする?」
「……たとえそれが、の頼みでも、私は聞かないわ。ただでさえ、ジェームズに再三言われているのに。……嫌ね、男の子って。どうして、女の子を守ろうとするのかしら」
「…………」
「女の子だってね、戦いたい時もあるのよ。私にとって、今がその時」

 穏やかな表情だった。迷いのない言葉だった。

「今この世の中で、私に出来ることをしたい。ジェームズはきっと、不死鳥の騎士団で戦いの最前線に飛び込むわ。あなたも、シリウスも、リーマスも、ピーターも。皆が戦っている中、置いていかれたくない。私だって、私に出来ることがしたい。……私が、仲間外れが嫌いだって、ならよく知ってるでしょ?」
「……そう、だったね」

 嘆息した。

「リリーが男だったら良かったのになぁ」
「あら、私だって、が女の子だったら良かったのにって、いっつも思っているわ。覚えてる? 昔、セブを驚かせようとして、私たち入れ替わったの」

 久しぶりにリリーの口から聞いた「セブ」という単語に、思わず表情が強張った。
 悟られないように、強いて平静を保つ。

「覚えてるよ。スカートを履いたのは、あれが生まれて初めてだ」
「あの時、あなたの制服を借りたけど、私男の子の制服、案外似合っていたでしょ? サイズもぴったりで」
「身長の話は止めようか」

 悲しくなってくるから。結局、あんまり伸びなかったし。

「大きくなったわよね、でも。昔は私より小さかったのに」
「今でも、リリーとほんの少ししか違わないけどね」

 それでも、一応はリリーより背が高くはなったから、少しだけホッとする。ぼくの遅く短い成長期も、このときばかりは空気を読んでくれたようだ。

「……卒業、するんだよね。変な感じ」

 リリーはぽつりと呟いた。

「リリーと出会って、もう七年が経つのか。早いね」
と出会ってたった七年だなんて、短いわ」

 むぅ、とリリーはむくれる。
 一体どうしてふくれっ面をするんだ、と、ぼくは笑った。

「……変なこと言ってもいい? 
「……どうしたの、リリー?」

 リリーは、自身の赤いネクタイをぎゅっと握った。グリフィンドールの、赤と金色のネクタイを。

「……なんでもない」
「なんだよ、変なの」
「私は変な子よ、知らないの?」
「よーっく存じております」

 クスクスとぼくらは笑い合った。

「七年と言わず、何年だって。君が結婚しても、ぼくが結婚しても、変わらずに友達でいよう。……だって」

 人生は長いのだから。

 ──なんて、なんたる痛烈な皮肉だろうか。

 

  ◇  ◆  ◇

 

 一番最後の試験は、魔法史だった。
 よく、こんな重たい教科を最後に持ってきたものだ。五年分のノートと教科書を積み上げると、優に一メートルは超えるだろう。

「試験問題を開けて。始めてよろしい」

 マーチバンクス教授の言葉に、一斉に問題用紙を開く音。
 泣こうが笑おうが、これが最後の試験だった。





「殺すなら殺せ」

 目の前でシリウスが言っている。
 血まみれで、苦痛に顔を歪めながらも、誇り高く気高く、そう言い放つ。

「言われずとも最後はそうしてやろう」

 自分の口から、信じられないほど冷たい声が出た。
 そもそも、自分はこんな声をしていただろうか。自分の目線は、こんなに高かっただろうか。

 分からない。何も、分からない。

 自分の口が、言葉を紡ぐ。

「しかし、ブラック、まず俺様のためにそれを取るのだ……これまでの痛みが本当の痛みだと思っているのか? 考え直せ……時間はたっぷりある。誰にも貴様の叫び声は聞こえぬ……」

 杖が、シリウスに向いた。閃光が迸り、シリウスは息も絶え絶えに絶叫する。
 自分はそれを笑って見ている……。

 ──僕は、誰だ。

 違う。これは僕じゃない。
 僕はシリウスをこんな目に合わせたりなんてしない。

 大切な大切な後見人を、こんな惨たらしく痛めつけたりは絶対にしない。

 悲鳴が聞こえた。そう思った。
 それが自分の声だと気付いたのは、少し経ってからだった。

「ハリー、ハリー!!」

 僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
 肩を思い切り揺さぶられ目を開けると、視界に愛しい弟、アキの姿が入ってきた。

「大丈夫、ハリー!?」

 大丈夫、と反射に答えようとした。
 しかし、口から零れたのは、信じられないほど小さく震えた声だった。

「シリウスが、ヴォルデモートに捕まった」

 あまりに小さいその言葉は、アキにしか聞こえなかっただろう。
 アキは大きく目を見開いた。

「ハリー、それ、どういう……」

 アキの声を遮ったのは、マーチバンクス教授だった。
 アキを僕から引き剥がす。同時に、トフティ教授は僕の腕を引いた。

アキ・ポッターくん、君は試験に戻りなさい。トフティ教授、彼を頼んでも?」
「承知しました。さぁ、ポッターくん」

 有無も言わさぬ口調で、トフティ教授は僕を支えると玄関ホールまで連れ出した。
 誰もが一斉に僕を見つめている。

「行きません……医務室に行く必要はありません……行きたくない……」

 大きく咳き込むと、少し震えが治まった。
 トフティ教授は気遣わしげに僕を見ている。

「何でもありません、先生。大丈夫です……眠ってしまって、怖い夢を見て……」

 額の汗を拭った。トフティ教授は好々爺風に笑いながら、僕の肩をトントンと叩く。

「試験のプレッシャーじゃな! さもありなん、お若いの、さもありなん! 試験はもうほとんど終わっておるが、最後の答えの仕上げをしてはどうかな?」
「はい、あ、あの、いいえ、もういいです……出来ることはやったと思いますから……」
「そうか、そうか。ならば、私が君の答案用紙を集めようの。君はゆっくり横になるがよい」
「そうします。ありがとうございました」

 素直に頷いた。

 トフティ教授の姿が大広間に消えた瞬間、僕は駆け出していた。
 階段を駆け上がる。通り道の肖像画が、僕のあまりの速さにブツブツ文句を言うのも知ったことじゃない。

 医務室に駆け込むと、マダム・ポンフリーが驚いて悲鳴を上げた。

「マクゴナガル先生にお会いしたいんです。いますぐ、緊急なんです!!」
「ここにはいませんよ、ポッター。今朝、聖マンゴに移されました」

 マダム・ポンフリーの言葉にショックを受けて、しばらく呆然とした。
 何かマダム・ポンフリーが言っているが、耳を素通りしていってしまう。

「……

 連絡が取れる不死鳥の騎士団のメンバー。ダンブルドアもマクゴナガル先生もハグリッドもいない今、頼れるのは彼だけだ。
 それにさっき、アキに対して呟いた。『シリウスがヴォルデモートに捕まった』と。

 くるりと身を翻して大広間に駆け戻ると、ちょうどロンとハーマイオニーに出会った。

「ハリー!」

 駆け寄ってくるロンとハーマイオニーに「一緒に来て。話したいことがあるんだ」と告げた。



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