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空の記憶

第26話 悲劇の幕よ、開かれんFirst posted : 2016.02.28
Last update : 2022.10.20

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 鐘の音に、思わず振り返った。教会の鐘が、鳴っている。
 そうか、今日は礼拝の日だ。もっとも、ぼくは十一歳まで日本で生まれ育ったため、礼拝に行く習慣はないのだが。

 ぼくは連れ立って、ピーターと歩いていた。
 騎士団の会議前、ジェームズとリリーの家に様子を見に寄ったら、ピーターの姿があったのだ。ジェームズとリリーに手を振って(ジェームズは少し不満そうではあったが。外に出られないことにストレスを感じているのだろう)、ぼくとピーターは連れ立って出掛けた。

 普段からピーターは口数が少ないが、今日は輪を掛けて無口だった。ぼくと二人きり、だからだろうか。
 苦手にされてる、という訳ではないのだろうが、得意とは言えないかもしれない。悪戯仕掛人の他のメンバーと一緒なら、こんな空気を感じることはないのだけれど……ううむ。

は、元気?」

 と、急に話しかけられた。思い掛けなくて目を白黒させるも、慌てて答える。

「げ、元気だよ」
「そう……」
「……ピーターは、元気なさそうだけど」

 意気消沈、というか。元々大人しい奴だったけど、なんだろう、覇気がない。
 伺うように尋ねると、予想もしなかった言葉が飛んできた。

は、誰が『秘密の守人』だと思う?」
「…………」

 躊躇うほどに直球だった。

「……シリウス、だと思ってるけど」

 誰も口にはしなかったけど、ジェームズはシリウスをこそ、自分の秘密を託すに足る人物だと考えているだろうことは違いなかったし──ぼくも疑いもしなかった。
 それは、ピーターも同じだと思っていたし──むしろ、シリウス以外の誰がいるのだとまで思っていた。

 それほどまでに、シリウスは適任だった。

 友情を売るくらいなら、シリウスは死を選ぶだろう。
 それほどまでにあいつは義理堅く、ジェームズのことを大切に思っている。リリーのことも、ハリーのことも。ハリーの後見人となったからか、ハリーのことはまるで息子のように可愛がっていたのだし。

「そう……そうだよね」
「何……? ピーターは違うと思ってるの?」

 今更、とまで思った。
 ピーターは慌てて首を振った。

「そ、そんなことない……シリウス以外にいないって思う、僕も」
「なら、どうしてそんなこと訊いたの?」

 疑問に思って、ぼくは尋ねた。

「……ジェームズたちは、死なないよね?」
「は?」

 思わず強い声が出てしまった。「ご、ごめん!」とピーターは身を縮める。
 謝ろうかとも考えたが、それよりピーターの言葉は聞き捨てならないものだった。

「『忠誠の呪文』は絶対だよ。ぼくとダンブルドアが保証してる。……シリウスだって、そうだ」

 脳裏にリーマスの言葉が浮かぶ。目を瞑って、頭を振った。

「ジェームズもリリーも、ハリーだって。誰一人殺させない。……あの三人にさっき御守りを渡したの、見てたよね?」
「う、うん」

 ピーターが頷く。ぼくは自分の首元を探って、首から下げていた水晶を引っ張り出した。

「こいつの欠片が、あの御守りの中に入ってる。『黒衣の天才』幣原が魔力を籠めたものだ。一度だけ、一度だけ──持ち主を災厄から守ってくれる。彼らの命は、絶対に奪わせやしない。……それに」

 水晶を元通りに仕舞い込み、ぼくはにっこりと笑った。

「ジェームズが、あのジェームズがだよ? 今までヴォルデモートの手から三度も生き延びたジェームズが死ぬなんて、ぼくには想像が付かないよ。あの眼鏡は、殺しても死ななさそうだ、そうでしょ?」

 ぼくの言葉に、ホッとしたようにピーターは笑顔を見せた。

「そうだよね……ジェームズは、死なないよね」

 ──嗚呼、嗚呼、ここだって。

 どこだってぼくは、間違い続けるんだ。

 

  ◇  ◆  ◇

 

 ホグワーツに帰ってくると『依頼』の山が出迎えた。一つ一つに対応していたら、いつの間にやら年が明けていた。
 イギリスは、日本ほどに年明けを祝わない。存外あっさりと新年は過ぎて行った。

「…………」

 手紙の文字に、視線を落とす。はてさて、これは一体どうするべきか。どう、動けばいいのだろう。

 人の悩みが、実に多種多様であるということ。そのことに、随分と今更ながら気付かされる。

 それでも、ぼくは。

 ダンブルドアの筆跡で書かれた手紙を、空中で放り投げた。勝手に火がついた手紙は、ひらひらと舞いながら火の粉と灰を散らし、やがて塵すら残さず掻き消えた。

「──初めまして」

 満面の笑みで窓をノックすると、虚空に視線を留めていた少年の顔がこちらを向き、驚きに大きく目を見開いた。駆け寄り僅かに窓を開けつつも、随分と警戒した瞳で「……誰だ」と低い声で呟く。

 随分と整った顔の少年だった。否、少年と表現するには、少し大人び過ぎている。目つきの悪さも、纏う雰囲気の刺々しさも、アリス以上。黒い瞳は鋭い光を灯し、こちらを射抜かんとする勢いだ。

 彼の願いは、随分と重い。生い立ちに起因し、今も尚、彼の心に深々と根を張り続ける。

「初めまして、ぼくはアキ・ポッター、レイブンクロー寮の六年生さ」

 今から、ぼくは。
 彼の心に、押し入ろう。

 どう足掻いても、傷つかない方法はきっとない。もはやぼくも、無事で済むような願いはない。

 ──それで、いいんだ。

 アリスの家族の問題に首を突っ込んだときから、分かりきっていたことだ。
 何かを得るためには、それ相応の犠牲を払わなければならない。
 それが、他人のものであるのなら、尚更。

 背後に大きな満月を背負ったまま、ぼくは窓枠に左手を掛け、余った右手を彼に差し出した。

「──君に、魔法を掛けに来たんだ」

 ぼくは、君を助けたい。
 ぼく自身の、都合で。



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