九月一日。ホグワーツでの新学期が──様々な意味で『新たな』一年が──始まった。
胸に輝く『主席』のバッジ、そいつを弄りながら、大広間に歩みを進めた。教職員テーブルの影から、様子を伺う。
新一年生の組み分けは、あと数人を残すばかり。大広間の埋まり具合は、例年の八割強。
『意外と来たな』というのが本心だった。あれだけはっきりと『ホグワーツはヴォルデモートの手に堕ちた』と宣言したというのに、よくもまぁこれだけ集まったというか。親もよく許したものだ。
一番人数が少ないのは、こればかりは隠せない、グリフィンドールだった。ハリー、ロン、それにハーマイオニーの姿は見当たらない──それもそうだろう。今は一体どこにいるのだろうか。無事でいてくれたら、それ以上のことは望まないのだが。
組み分けが全てつつがなく完了した後は、校長先生からの一言だ。
立ち上がったセブルス・スネイプに、様々な感情が篭った視線が投げかけられる。憎々しげに、あるいは困惑して。教職員の方々にも、事情は伝えていない。そもそもカロー兄妹がいる最中、余計なことは話さないが吉なのだ。前方の生徒、後方の教師からそれぞれ苦い視線を向けられて、一体どれだけ針の筵な心持ちだろう。
──まぁ、それもそう長くはない。
暗がりから、一気にライトの下へと躍り出た。一瞬だけ目が眩む。
スネイプ教授からマイクを掻っ攫うと、生徒たちを見下ろした。
「セブルス・スネイプ校長から有難い一言を賜る前に、ぼくから先に挨拶をしましょう。きっと、存じてくれているはずだ。あぁ……新入生のためにも、一つ自己紹介。ぼくはアキ・ポッター。かつて『黒衣の天才』幣原秋と名乗り、闇祓いで敵の屍の山を作っていた。今はレイブンクロー寮の七年生として、立派に学生やっているよ。主席にもなったし──」
眼前に何かが煌めいた。物凄い速度で飛んできたそれにたまらず言葉を切ると、魔法で障壁を作る。
掴んだそれは、フォークだった。
ざわめきが空気を揺らす。生徒がやがて、一人の人物を見遣る。
「……よぅ、アキ。久しぶりだな?」
碧の瞳は見開かれ、口元は大きく吊り上がっている。金色の髪に、左耳には雪印と群青の二つのピアス。ちゃんとした格好で黙ってりゃあいいのに、凶悪な面で全てが台無しだ。
と、いうか。
今まで付き合ってきて、見た事ないほどブチ切れたアリス・フィスナーが、そこにいた。
……うん。弱音を吐くことを、少しの間許してもらってもいい?
──超怖い! なにあれ超絶怖い!! あんな顔して笑う人初めて見たよ、そうそういないよあんなちょっとイっちゃった笑顔浮かべる奴!
パン、とアリスは手を打ち鳴らした。狂気の微笑みを浮かべ、ぼくに対し品のないジェスチャーをする。
育ちのいい坊ちゃんがするんじゃないよぉ、そんな仕草。
「降りて来いよオラ、
「……は。まぁ待ってなよ。躾がなってないなぁ。『待て』くらいは出来るでしょ?」
アリスは怖いけれど、全ての感情を腹の底に押し込め、表情を取り繕うのは大得意だ。
「興が削がれたね。まぁいい。ぼくが言いたいことは一つだ。──みんな、よく戻ってきてくれた」
深々と。
悪い微笑みを顔に刻み込み、ぼくは声を張り上げた。
「ようこそホグワーツへ。ぼくらは、君たちを歓迎しよう!」
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