ハリーとロン、ハーマイオニーは『透明マント』を脱ぎ捨て、慌てて秋に駆け寄った。
秋は呆然とその場に立ち竦み、倒れたセブルス・スネイプを見下ろしている。アクアは青ざめた表情で、秋の腕に縋って震えていた。
ハリーはセブルスの前に跪く。セブルスの昏い瞳が、ハリーを見つめた。
「これを……これを、取れ」
銀の霞が、口やら耳やら目やらから溢れ出る。ハーマイオニーがハリーにフラスコを押し付けた。ハリーは震える手で、その銀色を全て汲み入れる。
「僕を……見て……くれ……」
セブルスがハリーに囁いた。そして重たい瞼が閉じられる。
「……っ、許すかよぉ……!!」
悲鳴にも似た声だった。
秋はセブルスに駆け寄ると、なりふり構わず杖を傷口に押し付けた。灼き焦がすような青白い光が、杖先から零れ出る。渦巻く風が、周囲の瓦礫をもカラカラと揺らした。
浄化の魔法、と、ハーマイオニーは震える声で囁いた。
「誰一人失うことは許さない!! アキもそうだ……ぼくだってそうだ!!」
パキリ、と軽い音が響く。音の源は、秋が手に持つ杖だった。パキパキピシリと、杖にヒビが入って行く。
どれだけ膨大な魔力を、こんな細い杖に流し込んでいるのか。額に玉の汗を浮かべながらも、それでも秋は魔法を流し込むことを止めない。
やがて──呆気ない音と共に、杖が砕け散った。破片が血の海へと降り注ぐ。
しかし秋は何一つ構うことなく、そのまま左の人差し指と中指を傷口に当てた。
「生きて、生きて、生きてくれよ!! なぁっ、セブルスッッ!!」
呆然と秋を見下ろしていたハリーの袖が引かれた。アクアだった。静かな決意を秘めた瞳で、ハリーを見つめている。
「……ハリー。あなたは行きなさい」
「……っ、でも」
「行くの!! 彼の思いを無駄にしたくなかったら、早く!!」
アクアが叫ぶ。行きましょう、とハーマイオニーは決然とハリーを促した。
このままセブルス・スネイプとアキを置いておくのは気が引けた。しかし、何一つ自分にはやれることがないということも、理解していた。
そのとき、冷たい声が響き渡った。思わずビクリと周囲を見回す。ヴォルデモートの声だった。
「ハリー・ポッターよ。一時休戦、と行こうではないか。俺様はこれから一時間『禁じられた森』で待つ。もし一時間の後に貴様が俺様の元に来なかったならば、降参して出て来なかったならば、戦いを再開する。そのときは、俺様自身が戦闘に加わるぞ、ハリー・ポッター。そして貴様を見つけ出し、貴様を俺様から隠そうとした奴は、男も女も子供も、最後の一人まで罰してくれよう。──一時間だ」
秋は、それらの声が一切耳に入っていないようだった。ただただ一心に、目の前のセブルス・スネイプを見据えている。
「……っ、アキを頼む」
アクアは頷くと、躊躇いながらも口を開いた。
「……あなたが死ぬことを、アキは望まない。アキのためにも、あなたは生きて……アキを悲しませたくは、ないでしょう」
頷くことは出来なかった。
アクアの視線から逃げるように、ハリーはロンとハーマイオニーを促すと、その場に背を向けた。
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