アキ・ポッターの居場所であれば、ライ・シュレディンガーは大体理解出来る。
普段は、自分の数メートル四方ほどにいる人物の思考しか読めないが、読もうと思えば建物まるまる一つ程度は、ライにとっては余裕だった。
常人では気が狂うほどの情報量と内容。ライが狂っていないのは、単にライが常人離れした精神を持っているからに過ぎない。
だからこそ、ヴォルデモートはたった15の少年に、未だ引き千切れぬ鎖をつけたのだ。
「……お前は偶に、凄いところにいたりするな」
どうして入院患者を、地下のリネン室なんかで見つけなければならないのか。
ため息を吐いたライに、アキは驚いた様子で振り返った。叱られる、と思ったようだ。
叱る気はなかったが、そう思っているのなら応えてやろう。軽く頭を叩いてやる。
「かくれんぼ、か。アリシアとエルにもきつく言ってやらないとだな」
「あの二人は怒らないでやってくれませんか。病院は、子供にとっては退屈なんだって。あ、そうだ。長期入院してる子を集めて、勉強会なんてどうだろう。頭いい子、知識欲旺盛な子が多いから、凄くスルスル飲み込むだろうな……魔力の制御もそこで学ばせれば、魔法疾患の子にも一石二鳥だろうし。となると、それなりの知識持った教師が数名と、場所と、時間が必要か……」
ぶつぶつ新たな案を練り始めた。案外面白い提案なので、そのまま練らせても良かったが、生憎とこちらも暇じゃない。
「いいか」と口を開くと、アキはハッとした表情で「ごめんなさい、用があったんですよね。どうしましたか?」と首を傾げた。
「お前の左腕の話だ。今はただの動かぬ無用の長物だろう」
「はぁ、まぁ。本当魔法使いで良かったって心の底から思いますよ。なのでマグルほど不便はないです」
「その腕、切り落としちゃダメか?」
アキは目を細め、探るような視線をライに送った。
流れ込む思考に、やっと言葉足らずだったことに気がつく。
「邪魔なので切り落とす自体には構いませんが……」
「あぁ、すまない。違うんだ、義手の話からすべきだったな」
どうも己は本当に話の順序が下手くそだ。いい加減改善されてもよくないか、とも思うが、きっとこちらの努力が足りないのだろう。『他人の考えていることが分かる』という能力に頼り切りだからか。
アキはその言葉に、納得の表情をした。
「あぁ……そういうことですね。マッド・アイの義足みたいなものか」
「そう。魔法で動かすから、慣れれば元の腕くらいに器用に動くだろう」
「いいですよ……と、即答したいところですが。もう少し待ってはくれませんか」
どうも珍しいことを言う。「構わないが」と目を瞬かせた。
「資料だけください。あ、別にライ先輩を信頼してないとかじゃありませんよ、ちょっと……ロクでもないことを考えているだけです」
ニッとアキは笑うと、ライを見る。
さっぱり訳が分からずにアキを見返すと、アキは「あ、やっぱり考えてないことは分からないんですね」と若干得意げに言った。
「当たり前だろう。『開心術』とは性質が違うんだから」
「あぁ、なるほど、言われてみれば。え、じゃあライ先輩に『閉心術』って効くんですか?」
「……かつてのエリスも同じことを聞いてきた。レイブンクロー生は変わらんな」
「え、だって未知の能力ですよ? 限界を知りたいって思うの、当然じゃないですかね? ぼくだって魔力のスカウターみたいなものがあれば全力どのくらいかって既に測ってますよ!」
研究者として、その気持ちは分からなくもないが、と肩を竦めた。
「お前は闇祓いよりも教育とか研究に向いてるな」
ぽつりと呟く。
その言葉にアキは目を丸くした後「そうですか?」とにっこり笑った。
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