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空の追憶

第6話 アビスの使者First posted : 2020.07.25
Last update : 2022.11.11

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「……ふぅ」

 僕、ヒカル・ポッターは、アイスクリームパーラーで買ったレモンアイスを舐めながら人心地ついていた。

 作戦は上首尾に終わった。
 フレッドおじさんとジョージおじさん、それにロンおじさんが経営しているWWWウィーズリー・ウィザード・ウィーズにて、アルバスやリリーが楽しそうに悪戯道具を眺めている中、ちょっとアレな魔法薬の材料を入手するというミッションは、何一つ滞りなく成功した。

 そもそも大人が、僕らの父であるアキ・ポッターただ一人であった時点で、この勝ちは既に見えていたとも言える。
 流石に父の目の前で、ちょっと法から半歩くらい浮いてるやつらの受け渡しをするのは気が引けた。というか、間違いなくバレる。他の大人の目は誤魔化せても、父だけは絶対気付く……。

 今年ホグワーツに入学する妹、ソラ。ソラの杖を買うために、父はソラを連れて僕らから離れる必要があった。みんなを万が一にも巻き込んでしまわないように、だ。

 何の因果か父は、他の魔法使いが束になっても敵わないほどの莫大な魔力をその身に宿している。その血を引く僕らもまた、父ほどではないにせよ、それでも他の子の数倍の魔力を持ってこの世界に生まれてきた。

 普通の魔力を持つ子どもでも、杖選びには苦労する。杖から火花が吹き出したり、近くの花瓶が砕けたり。
 これまで何の目的もなくふわふわと漂っていた魔力が、いきなり指向性を持たされたらどうなるか。

 ──しかもそれが、他人の数倍の魔力を持つ僕らなら?

 ポルターガイストが起こすラップ音なんて生温い。だって実害があるんだもの。
 店を壊さなかっただけ僥倖。本当に何かが『いる』と思ったし「もう杖なんていらない!」なんて叫んだことも憶えてる。杖が決まったときはそりゃあもう、父や母と抱き合って喜んださ……。

 ……そんなこんなで、僕らにとっての杖選びは最難関の部類だった。あんな現場、ジェームズはともかくとして(こいつは面白がりそう)、アルバスやリリーを連れて行きたいとは絶対に思わない。

 そんな父に対し「みんなを見張っておく」と言えば、父は一も二もなく頷いてくれる。そんな予想は最初から持ってたし、実際その通りになった。

アキ教授に対して、作戦がトントン拍子に決まった気分はどうだよ、我が相棒?」

 ソーダフロートのストローを口に咥えたまま、ジェームズはニヤッと笑って僕をつつく。
 行儀悪いぞと嗜めて、夏の空を見上げた。

「……悪くはないね」

 そもそも、今回の予想はそう難しいものではなかった。だとしても、それでも父を出し抜けたと、なんだか誇らしくもなる。……誰に誇るわけでもないけれど。

アキ? 二人とも、今アキの話してたの?」

 僕の父の名前を耳聡く聞きつけ、リリーがベリーサンデー片手に駆け寄ってくる。なんでもないよと言いながら、ジェームズは身を屈めると、アイスでべたべたになった妹の口元を拭ってやった。

「ねぇ、アキってばひどいのよ! リリーのこと置いてったもの! きっとあれは『うわき』に違いないわ!」
「はいはい、浮気に違いない違いない」
「もーっ、マジメに聞いてっ!」
「聞いてる聞いてるー」

 リリーは不満をジェームズに訴えかけているようだ。レモンアイスの最後のひとかけを口の中に押し込み、ジェームズとリリーから目を逸らす。
 ぐるりと首を回すと、ふとアルバスの姿が目に止まった。空になったアイスの入れ物を両手で持ったまま、ある一点をじっと見つめている。

「どうしたの、アルバス」

 声をかけると、アルバスはびくりと肩を震わせた。パッと振り返って僕を見ると「あ、ヒカル……」と肩を下ろす。

「何見てたの?」

 濃い緑の瞳は、ハリーおじさんとお揃いだ。その瞳が向いていた方向を辿ると、そこにはひとりの女性が立っていた。

 僅かに青みがかった長く綺麗な銀髪に、抜けるような白い肌。すらりと背が高いから、何処か女優かモデルのようにも見える。
 彼女は、ダイアゴン横丁の案内板を見ながら自分の手帳と睨めっこしているようだ。
 彼女から視線を外すと、アルバスを見る。

「あぁいう人が好み?」
「ちっちが、違うから!」
「ジョークだよ……でもお前の初恋、うちの母さんじゃん」
「あ、アクアおばさんは、だって……って、ヒカルには関係ないだろ!」

 赤くなったり青くなったり、忙しいやつ。でもアルバスはからかうとすぐに拗ねるので、その辺にしておいてやる。
 ジェームズはいつも、このからかいの加減をミスるんだ。だからいつだって兄弟でケンカしては、ジニーおばさんに大目玉を喰らってる。

「だいたいヒカルはズルいよ、人の好きな人はすぐ聞き出すくせに、自分の好きな人は絶対教えてくんないんだから……」
「道にでも迷ってんのかな」
「え? あ、そうみたい……って、ちょっ、ちょっと、ヒカル!」

 彼女に歩み寄る僕の後ろを、慌ててヒカルがついてきた。それでも僕より前には出ずに、僕の腰あたりのシャツをぎゅっと握っている。そんなビビリなところはソラとそっくりだ。

「こんにちは。お姉さん、もしかして迷子なの?」

 背後から声を掛けると、彼女は大きく肩を震わせ振り返った。
 弾みで手に持っていた手帳が落ちる。お金や領収書や手紙も一緒に挟んであったのか、それらも一緒にぶちまけてしまって、辺りは一時騒然となった。

「あぁっ、ごめんなさい!」

 彼女が叫ぶ。
 僕らは慌てて、彼女のお金や領収書、手紙やらを拾い集めた。その時ふと、書きかけの便箋に書かれた末尾が目に留まる。


『 愛を込めて ──デルフィーニ・リドル 』


 ──リドル?

 思い出すのは、日本で出会った彼のこと。あの指輪は今もまだ、ソラの首に掛かっているはずだ。
 あれから何度かリドルさんと会話したものの、どこか掴みどころのない男だという印象は拭えない。ソラは、結構懐いているようだったが。人見知りのソラがあんなにすんなりと懐いたのは、結構珍しい。未だにアリスおじさんやスネイプ教授にはビビるくせに。

 ……いや、いや、いや。

 リドルなんてどこにでもいる苗字だ。首を振って打ち消し、アルバスと共に、拾い集めたものを彼女に手渡した。

「ありがとう! ごめんなさいね、とっても助かっちゃった」

 彼女は僕らに謝りながら、腰を屈めてにっこりと微笑んだ。
 笑うと、これまでのクールで冷たい印象が崩れて、ぐっと親しみやすくなる。大人っぽく見えたけど、思ったよりは年若そう。ひょっとすると十代後半?

「僕らこそ、驚かせちゃってごめん。どこか行きたい場所があるなら、案内するよ」

 ダイアゴン横丁には割としょっちゅう出入りするから、道案内だってお手の物だ。そう告げると、彼女はパァッと表情を明るくさせた。

「本当に? ありがとう、助かるわ! あの、銀行に行きたいんだけど……」
「グリンゴッツ魔法銀行のこと? それならすぐだよ」

「何なに?」と、リリーを肩車したジェームズがこちらに近寄ってくる。彼女を道案内しようと思っている旨を伝えると、リリーが「リリーも行く行く!」と訴えたので、子どもたちみんなで一緒に行くことになってしまった。

「なんか、大人数で悪いね」

 騒がしいんじゃないだろうか。そう言うと彼女はクスクスと笑う。

「大丈夫よ、楽しいわ。こんな経験してこなかったものだから」
「お姉さん、外国の人?」

 と、おずおずとそう尋ねたのはアルバスだ。確かに、と思う。英国に住む魔法使いなら、グリンゴッツは馴染み深い場所だろう。
「えぇ」と彼女は笑顔で肯定した。

「私、ダームストラングに通っていたの。就職でこっちに越してきたのよ。あなたたちは、ホグワーツの学生さん?」
「そう。そこのちっこいのはまだだけど。こいつは次の九月に入学するんだ」

 ぽんとアルバスの肩を叩いた。わぁ、と彼女は親しげに目を細めてアルバスを見る。

「そうなんだ! 楽しい学校生活になるといいわね!」
「あっ……うん、ありがと……」

 消え入りそうな声でアルバスは呟いた。見れば、耳まで真っ赤にさせて俯いている。
 ……ふーん。これは。

「お姉さん! グリンゴッツに着いたよー!」

 とそこで、リリーをおんぶしていたジェームズが叫んだ。ジェームズの声に、彼女の注意がそちらへ向く。

「連れてきてくれてありがとう。助かっちゃった」

 そう言って、彼女は僕らを見るとにっこり笑った。うん、とアルバスは、彼女の顔をまともに見ぬままこっくりと頷く。
 あーあ、これで終わってしまうのかな。そんなことを考えた瞬間、意を決した顔でアルバスは顔を上げた。

「……あのっ! お名前っ、聞いても……いいですか……」

 最後はどうも尻窄みになってしまったものの、それでもアルバスの勇気に、思わず目を見開いた。
 彼女も目を丸くしていたが、やがて緩やかに微笑むと、アルバスと目線を合わせるよう屈み込む。

「……今は、ナイショ。でもね……すぐ、また会えるよ」

 そんな謎めいたことを口にして、彼女はそっと片目を瞑った。
 立ち上がっては、手を振りながら軽やかに駆けていく。その姿がグリンゴッツに消えたのを確認して、僕はアルバスの背中を叩いた。

「あ、ひ、ヒカル……」
「やるじゃん」

 そう言うと、アルバスは頬を染めた。俯いたまま「そうかな……」と小さな声で呟く。

「そうだよ。な、ジェームズ?」

 ジェームズに振ると、アルバスの肩が小さく跳ねる。この弟は、どうも兄貴に普段から翻弄されている分、ちょっと兄の顔色を窺う節がある。
 ジェームズも、至って真面目な顔で頷いた。

「うん、やるもんだよ。しかしまぁ、綺麗な人だったなぁ。ちょっとシリウスおじさんやアクアおばさんに似てるよね」
「は? 似てないけど?」
「えっ? あ、はい……あちらの切り返しが一枚上手だった分、あぁも綺麗に返されると悔しさすらも起きないね」
「……っ、う、うん!」

 アルバスの瞳がぱっと輝く。僕らの会話がちんぷんかんぷんなリリーは、終始首を傾げていた。リリーはまだそのままでいてくれ。
 ジェームズに肩車されていたリリーは、ふと伸び上がると手を振った。

「あっ、アキー! ソラー! おかえりなさーい!!」

 振り返れば、父とソラがリリーに手を振り返しながら、こちらに歩いてきていた。ソラの腕には杖の袋が掛かっている。どうやら無事、杖選びは終わったらしい。

「案外早かったな」

 僕の時はもう少し掛かった気がする。
 そう言うと、ソラはふるふると頭を振った。僕の肘あたりにしがみつくと「怖かった……」と小さな声で呟く。

「あのね、あのね、一回だけ間違えちゃったの……そしたら、窓ガラスが全部吹き飛んでね……? すっごく怖くって、だから、わたし、もう間違えちゃダメだと思って……」
「あー、お前勘良いもんな」

 悪い予感となると尚更だ。予言者の才能があるんじゃないかと僕は密かに思っているのだが、ソラ本人は興味なさそうだ。良くも悪くも、本以外への興味が薄い妹だった。
 父はニコニコ笑っている。

「いやー、でも驚いたよ。あのオリバンダーさんが、ソラに対しては『あなたなら、杖を何本壊しても私が何度だって面倒見ます!』って熱烈に言うもんだからさぁ。私なんて『もう二度とそのツラ拝みたくないものですね』って超辛辣な言葉を浴びせられたばかりなのに」
「わたし杖壊したりなんてしないもん! オリバンダーさんもお父さんも、すっごく怖いことばっか言うの!」
「まぁ、父さんは規格外だからね……」

『名前を呼んではいけないあの人』が全盛期だった闇の時代、闇祓いとして一躍名を馳せた稀代の英雄──幣原
 彼と父が同一人物だというのなら、その規格外も当然だ。

「……………………」

 幣原に纏わる記述がある本は、数少ないながらも実在する。僕も、それらを手に取ったことがある。
 少し読んで、そのまま閉じた。
 自分の父親についての話を、どこの誰かもわからないような奴が聞き齧って綴ったような代物で、仕入れたくはないと思ったし──どうせ聞くなら、父の口から直接教えて欲しかった。

 ──いつまで子ども扱いされるのだろう?
 一人前と認めてもらえるのは、一体いつになるのだろう?

 父は辺りを見渡すと「みんないるね?」と頷いた。ふと、ジェームズは父に問いかける。

「それにしてもアキ教授、よく僕らの居場所がわかったよね。前もって連絡でも寄越してくれればいいのに」
「問題ないよ。ヒカルの靴には発信器が仕込んであるからね。辿ればすぐさ」

 普段通りの笑顔を浮かべながら、父はとんでもないことをのたまった。思わずギョッとして靴裏を確かめた僕に、父は「冗談だよ」と言って笑う。
 ……え、いや、本当に?

「ハリーとアクアの仕事が、そろそろ終わる頃合いらしい。二人と合流した後、せっかくだから何か美味しいものでも食べたいよね」

 父の言葉に、僕以外の全員が歓声を上げた。「ピザがいい!」「小籠包!」「お肉がいい、お肉!」「リリーね、リリーね、ケーキ食べたい!」と、てんでばらばらな要求をする子供達に、父は苦笑を浮かべては「わかったわかった」と頷いてみせる。

 連れ立って帰る道すがら、僕は一度立ち止まった。グリンゴッツを振り返る。

『でもね……すぐ、また会えるよ』

 彼女のあの声の響きは、予想や期待とはまた違った。何かを確信している声だった。
 それは、一体──

「ヒカルー? どうしたんだよ、置いてくぞー?」

 少し先で、ジェームズが僕を呼んでいる。グリンゴッツから目を切ると、僕は頷いて駆け出した。



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