破綻論理。

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空の追憶

第13話 ソラリゼーション・アイズFirst posted : 2020.10.24
Last update : 2022.11.12

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「はーい、そこのスリザリンのチビども、しゅーごー」

 アルバス・ポッターと、そして僕、スコーピウス・マルフォイの二人は、そう言いながら迫ってきたヒカル・ポッターになす術もなく首根っこを掴まれた。

 授業のない土曜は生徒があらゆるところに散っているからか、普段より廊下や大広間が閑散としている。それでも夕方ともなれば、小腹を空かせた生徒で広間の人口が増えてくるものだ。
 僕とアルバスも、そんな生徒のうちの二人だった。

 人気のない談話室は課題がとても捗ったものの、普段以上に頭を使ったせいか空腹感が半端じゃない。夕食前ではあるが、それでも大広間には菓子や果物がいつも置かれている。ちょっと煮詰まっているレポートも場所を変えると何か閃くかもしれない。
 アルバスにそう提案すると、アルバスも目を輝かせて頷いてくれた。さすがは育ち盛りだ。

 そうして僕らは薄暗い地下から、こうして明るい地上へとやってきたのだが──まさかこうして、ヒカルにとっつかまることになるとは思ってもいなかった。

「な、何さ、ヒカル……!」

 思わず小声になるのも無理はない。
 だってここはスリザリンのテーブルだ、グリフィンドール生のヒカルは目立ってしまう。そう告げたものの、僕の言葉をヒカルは鼻で笑い飛ばした。

「今日の僕は私服だぞ? ネクタイもローブも纏っていないんだ、パッと見でグリフィンドール生だとわかる奴なんていやしないさ」

 うぅん、それはどうだろうな?
 さらさらの銀髪に華のある整った顔立ち。遠目からでもわかる人にはわかるんじゃないだろうか。おまけに呪文学教授アキ・ポッターの長男だ、校内でヒカルのことを知らない人の方が少ない。

 本人はそんな名声を鼻に掛ける素振りもなく、まぁこの通りサバサバとしている。
 他人に流されないところも含めて、なんだろう、やっぱりちょっと憧れちゃうよなぁ。スリザリン生の中にも密かにヒカルに憧れてる子は少なくないって噂だし。

 アルバスはふいっと顔を背けると、聞こえよがしに呟いた。

「僕らにチビって言えるほどデカくもないだろ……」
「ん? んー? なんか言ったか我が従兄弟様よ?」

 ニコニコしながらヒカルはアルバスの顔を覗き込んだ。まさしく極上と言ってもいいその笑顔に、アルバスと僕は揃って身を震わせる。

 ヒカルはそのまま身を起こすと下げていたカバンの中をゴソゴソと探り、やがて二つの包みを取り出した。はい、と僕らそれぞれに包みが手渡される。

「今日、ホグズミード休暇だったからな。三年生からはホグズミードに行けるんだよ。で、優しい優しいヒカル様から一年坊どもにお土産だ」
「わ、わ、そんな……っ!」

 渡された包みは重みがあり、持っただけでいろんなものが入っていそうだとわかる。
 お土産をもらった嬉しさ以上に申し訳なさが勝った。アルバスはヒカルの従兄弟だけど、僕はヒカルと何の関係もない。アルバスの隣にいただけの僕にまで気を遣ってくれるなんて。

「……なーんかお前、ややこしいこと考えてる?」

 ふと顔を上げると、ヒカルが目を眇めて僕を見ていた。誤魔化すように首を振り「ありがとう」と呟く。

「うん、素直に受け取っとけ。大したもんじゃないけどね。バタービールにハニーデュークスの菓子……WWWの新商品あたりは、スリザリンじゃ嫌がられるかな?」

 中のものや値段じゃなくって、ヒカルからもらえたことがそもそも嬉しいのだ。

「……ありがとう。大事にする」
「大事にするな。早く食え」

 しかしどうやってお返ししよう? 僕が手に入るようなものは、ヒカルも持っているだろうし。悩ましい。

「……で。これは、お前の兄貴から」

 そう言うとヒカルは、カバンから新たな包みを取り出しアルバスに手渡した。アルバスは驚いたように包みを見つめると「……え?」と目を瞠ってヒカルを見上げる。

「素直じゃないんだよ、あいつも。アルバス、お前もだけどな」
「…………」

 むぅっとアルバスは頬を膨らませた。二つの包みを腕に抱くと、小さな小さな声で「……ありがと、って、伝えておいて」と呟く。

「うん、任せろ」
「……あの、ジェームズ、怒ってない? その……僕がスリザリンに入ったことについて……」
「ジェームズは嫌ってたり怒ってたりする相手にプレゼント用意するような奴じゃないだろ」

 ヒカルの言葉に、アルバスはホッとしたようだ。肩に入っていた力が僅かに抜けている。
 僕とアルバスが広げている勉強道具に気付いたヒカルは、興味を惹かれたように課題のレポートを覗き込んだ。

「魔法薬学か。……あぁ、ここ違うぞ。ここでレタス食い虫<フロバーワーム>の粘液を入れるのは、対象の魔法薬を濃くするためだ。味を整えるためじゃない……」

 ヒカルの指摘を受け、僕らは慌ててレポートを訂正する。
 他にもいくつか指摘された部分を直すと、先程までの煮詰まりが嘘のように、すんなり読めるレポートになった。

「ありがとう、ヒカル……助かっちゃった」

 はにかみながらお礼を言う。
 あぁと流したヒカルは、少しの間黙り込むと「あのさ……」と口を開いた。

「僕で良ければ、勉強見てあげてもいいけど」

 ヒカルの言葉に僕らは思わず黙り込む。願っても無い申し出だった。
 ヒカルに勉強を見てもらうことができたなば、二人でうんうん苦しむことも減る。授業について行けるようになれば、周囲から笑われることもなくなるだろう。

 ……でも、ヒカルはグリフィンドールだ。いくらヒカルが気にしてなくても、スリザリン生と仲良くすることが気に食わないグリフィンドール生はいる。
 僕らのせいで、ヒカルが悲しい目に遭うのは嫌だった。

 黙ったままの僕らを見て、ヒカルは僅かに瞳を揺らす。

「……あー、うん。そっか」

 切なげに伏せられた眼差しに、思わず声を上げそうになった。
 ごめん、そんな顔をさせるつもりはなかったのだと言いたくなる。

 申し出が嬉しかったのは本当だ。
 ただ、僕らに勇気がなかっただけ。

 僕らの沈黙を破ったのは、ひとりの女性の声だった。

「その勉強会、私も参加していいかしら?」

 僕らは揃って振り返る。
 いつの間にか、闇の魔術に対する防衛術教師、デルフィーニ・リドルが、にこやかな笑みを浮かべて僕らの後ろに立っていた。

「デルフィー!」

 アルバスが目を輝かせる。アルバスは彼女を気に入っていた。

「……、教師に僕らが教えられることなんて、そんな」

 目を瞠ったヒカルは言う。
 デルフィーは笑みを崩さない。

「でも、私はずっと外国で暮らしてきたから、こっちの常識とかわからないことも多いの。だから、教え合いというのはどうかしら? それぞれ得意なこと、苦手なことはあると思うんだけど、三人寄れば文殊の知恵とも言うのでしょう? 幸いにも、私たちは四人もいる。怖いものなしじゃないの! そうは思わない?」

 デルフィーはアルバスを覗き込むと、同意を求めるようににっこり笑う。つられたようにアルバスは頷いた。
 教師であるデルフィーがいてくれるなら、グリフィンドールだからとヒカルが悪く言われることもない。そう考えて僕は心が躍ったが、ヒカルの顔からは笑みが消えている。

「ただ、勉強を見るだけですよ。リドル教授の得となるようなことは、ほとんどないと思いますが?」
「損か得かを決めるのは私よ、ヒカル。それに、言ったじゃない、デルフィーって呼んでねって。ヒカルったらちっとも聞いてくれないんだから」
「すみません。教師に気軽な口は叩くなと、父に厳しく言われているので」
「あぁ、アキが……そう。それがあなたのお家の教育方針なら、私もとやかく言わないようにするわ」
「えぇ。お気遣い感謝します」

 ヒカルが『リドル教授』と呼ぶのなら、僕らも気安く『デルフィー』と呼ぶのを控えた方が良いのかな。
 そんなことをちらりと考えた瞬間、ヒカルは見計ったように「お前らは僕に合わせなくていいからな」と僕らに言った。思わずホッとする。

「それにしても、悪いですよ。授業も受け持ってる上に、ハッフルパフの寮監までなさっているでしょう? 父を見てきたから、忙しさは知っているつもりです。おまけにリドル教授は新任だ、そんなにお時間があるんですか?」
「もちろん、暇じゃないわよ。でも忙しいからと言って、自己学習を怠るようなことはあってはならないでしょう?」

 デルフィーの言葉にヒカルは黙り込む。
 そこで、今まで静かだったアルバスが意を決した顔で口を開いた。

「ヒカル……僕、ヒカルとデルフィーに勉強を教えてもらいたい。もう誰にも、スクイブだなんてバカにされたくないんだ」

 アルバスの言葉に根負けしたように、ヒカルは小さくため息をつく。デルフィーは嬉しそうに手を叩いた。

「決まりね! それじゃあ早速、来週から始めましょう!」



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