破綻論理。

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空の追憶

第17話 蠢動First posted : 2022.08.21
Last update : 2022.11.12

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「勉強会?」

 わたし、ソラ・ポッターは、アルバスとスコーピウスから言われた言葉に首を傾げた。

「そう、勉強会。先週から始めたんだ。良かったらソラも、どうかなぁって」

 ニコニコしながらそう言うのはアルバスだ。
 アルバスは最近ちょっと明るくなった気がする。今までのように笑うようになったというか。まだローズとの間に溝はあるみたいだけど、少なくともわたしに対しては、これまで通りの距離感で接してくれるようになった。

「どういうことやってんの?」
「大体は授業の予習復習、それに課題を一緒にやって行く感じかなぁ。僕とスコーピウスに合わせて、基礎的なところから始めてるんだ」
「そんなに難しくないから、途中からでも全然入っていけると思うよ。ま、ソラは元々頭がいいし、全然困ってないかもだけど」

 スコーピウスがアルバスの言葉を引き継ぐ。そんなことないようと首を振った。

「わたしも、攻撃魔法は苦手だし……魔法史はついつい寝ちゃって、いっつも課題のレポートに苦労しちゃうの」

 小説を読む上で、知識というものはいくらあっても困るものではない。ふぅんと素通りしてしまうような描写でも、フックとなる知識が一つでもあるだけで、ガラリと景色が変わって見えたりもする。
 魔法史なんて言うまでもないから、できればちゃんと起きて、きちんと授業を受けたいんだけど……気付いたら夢の世界に漂ってしまうんだよねぇ……。

 だから、アルバスとスコーピウスの申し出は願ってもないというか、良い機会だなと思うのだった。
 わたしの言葉に、アルバスとスコーピウスはパァッと顔を明るくさせた。

「嬉しいな! きっとヒカルも喜ぶよ!」
「えぇっ、わたし達だけじゃないの!?」

 思わずのけ反る。ヒカルがいるのなら話はまた変わってくる。
 ……いや、わたしとしてはヒカルがいようがいまいが構わないんだけどね? ヒカルの方がね……? いつまでも妹にまとわりつかれるのは嫌みたいなんだもの。
 スコーピウスは目を瞬かせた。

「そう? ソラとヒカルは仲良いじゃない」
「別に……フツーだよ、フツー」

 ヒカルは活発で社交的だから大体人の輪の中にいたし、反対にわたしは一人が好きな人見知りだから、いつも本を抱えて隅っこにポツンと座っていた。わたしとヒカルほど正反対な兄妹もいないと思う。
 まぁ確かに、いっつもわたしの手を引っ張ってくれるのはヒカルだったけど……。

「でもヒカルは、よくソラのことを気にしてるよ?」
「それは、わたしが他の人に迷惑かけてないかを確認してるだけだよ……」

 口うるさくて目敏いのだ。いつもわたしに向かって「甘ったれ」とか言ってくるし。それにあんまり優しくもしてくれないし。
 スコーピウスは不思議そうな顔で首を傾げた。

「ふぅん……僕はひとりっ子だからよくわからないんだけど、兄妹というのは不思議なものだね」
「それぞれ違うさ。兄弟と言うなら、ジェームズだって……」

 そう呟いて、そっとアルバスが目を伏せる。
 ちょっと地雷踏んだかと、わたしは慌てて話題を変えた。

「だとしたら勉強会は、ヒカルが先生役って感じなのかな。ヒカルは教えるのも上手だし、いいと思うよ。その分お小言も多いけど……」
「あ、実はね、先生役にはもう一人呼んでいるんだ」

 スコーピウスが両手を振る。
 そこでアルバスが、満面の笑顔で身を近づけてきた。

「デルフィーだよ! 闇の魔術に対する防衛術教授の、デルフィーニ・リドル! 彼女もこの勉強会に参加したいんだって!」

 ──デルフィーニ・リドル。
 その名前を耳にした瞬間、全身の皮膚がぶわりと粟立つ。

 アルバスの声が、急に遠ざかっていって。
 まるで、たった一人深淵に突き落とされたような気分になる。
 黒い泥に手足を取られて、どれだけもがいても、もう二度と地上へ浮いて来られないような──

「……ソラ? ソラ!?」

 肩を揺さぶられて我に返った。気づけばアルバスとスコーピウスが、心配そうな顔でわたしを覗き込んでいる。

「どうした? 顔が真っ青だよ」
「ちょっと疲れてるんじゃない? 最近涼しくなってきたしね、ちゃんと毛布被って寝てる?」
「だ……大丈夫、だよ……」

 ──言えない。
 デルフィーが怖いなんて……そんなこと、この二人の前では口が裂けても言えっこない。

 アルバスの笑顔を曇らせたくない。
 アルバスが信用してる人なのに、そんな人を悪く言うのは良くない。

「あ、あはは……ちょっと面白い本があって、最近つい夜更かししちゃうんだ」
「ソラ、寝不足は身体に良くないよ。夜はきちんと寝なさい」

 アルバスが大人ぶって説教する。わたしは「ごめんなさい」と苦笑いを浮かべた。
 スコーピウスはそっとわたしの額に手を当て「熱はないようだけど、安静にしてね」と軽く眉を寄せる。

「勉強会は、ソラの体調がいいときに参加してくれたらいいからさ。くれぐれも、無理は禁物だよ」

 二人の心配そうな表情に、まるでわたしが二人を騙しているようで、ちくりと胸が痛んだ。それでもこればっかりは誤魔化すしかない。

「……心配してくれて、ありがとう。ちゃんと休むよ」

 そう言うと、アルバスとスコーピウスは安心したように微笑んだ。





アキ・ポッターに関する妙な噂ぁ?」

 思わず語尾が上がるのを抑えられない。いとこのジェームズ・シリウス・ポッターを睨むと、ジェームズは慌てて両手を振った。

「う、うんっ、ちょっと、その、ヒカルは、なんか、知ってる、か、なぁって……」

 ──魔法使いの街、ホグズミード。
 ホグワーツに通う三年生以上の生徒は、数週間に一度週末にこの街へ遊びに行けるようになる。薬問屋や文房具店もあるから学業用品を買い足すこともできるし、カフェやパブなんかも多いからちょっとしたデートにも最適。というか、むしろ校内を除けばデートスポットなんてホグズミードしかない。

 ……まぁそんなホグズミード休暇を、僕は悪戯専門店でジェームズと共に悪戯グッズを物色するのに費やしているわけだけど。いいんだ、これが一番楽しいんだから。

 いや、それはともかくとして。

アキ・ポッターに関する噂話なんて、それこそ掃いて捨てるほどあるだろ。次期魔法大臣に推薦されてるだの、密かに学校中に設置されたカメラの録画映像を夜な夜な眺めるのが趣味だの、ハグリッドの『尻尾爆発スクリュートバージョンX』は呪文学の授業を妨害した生徒が姿を変えられた成れの果てだの。この学校の生徒は噂話が大好きだし、どれもこれも、根も葉もない噂話だ」

 父の噂は数多い。有名なハリー・ポッターの弟だということに加え、本人もまたそんな噂の的になりやすそうな性格をしているし。息子としては困ったものだと思うばかりだ。
 しかも父の噂は『父本人』が流したものも幾つかあって、余計に事態をややこしくしていた。

「いや、まぁ、うん、そうなんだけど……」

 しかしジェームズは歯切れが悪い。
 何か言いにくいことを言いたげだと、はてと首を傾げたところで。

「「アキの話か?」」
「ひぃっ!?」

 突然両サイドからステレオで声を掛けられ、びっくりして飛び上がった。
 慌てて後ろを振り向こうとしたものの、その前に肩をがっしり掴まれ叶わない。かろうじて首を回すと、その声の主に目を向けた。

「フレッド!」
「ジョージまで!」
「ようジャリ共、元気かよ」
「今日もご機嫌麗しゅう♪」

 そうだ、ここはWWWウィーズリー・ウィザード・ウィーズのホグズミード支店。フレッドとジョージの双子はWWWの創設者であり経営者なのだから、支店にだって顔を出すこともあるだろう。

 フレッドもジョージも共にロンおじさんより歳上だけど、二人が『おじさん』抜きで呼べと言うので、みんな従っている形だ。
 いつまでも若々しいからおじさんというより兄ちゃんって感じ。僕とジェームズにとっては、楽しいこといっぱい教えてくれる悪ぅい兄貴分。

「それよりなんだ、アキの話か?」
「俺たちにも聞かせろよ、可愛い弟の話をさ」
「うちの父さんは、フレッドとジョージの義弟おとうとじゃないだろ?」

 呆れて肩を竦める。

「何、義弟ハリーの弟なんだから、俺たちの弟も同然だろ」
「どれだけ時が過ぎようと、あいつはいつまでも俺たちの可愛い可愛い弟分だからな」
「あっそ……」

 弟がゲシュタルト崩壊しそうだ。
 フレッドはニヤリと笑って、ジェームズの首根っこを掴むと揺さぶった。うぎゃあとジェームズがのけ反るのに、双子は揃ってケタケタと笑う。

「……で? ジェームズ、どういう噂だ」

 ジェームズはアホだがバカじゃない。わざわざ僕に伝えたのはそれなりの理由があるはずだ。
 ジェームズはちょっと情けない顔をして僕を見た。

「……おこんなよ?」
「は?」

 怒る? 僕が?

「それは噂次第だろ」
「……だよなぁ」

 苦笑したジェームズは、ちょいちょいと僕らをもっと寄せ集める。店内は混み合っているものの、背の高いフレッドとジョージが壁になってくれた。
 ジェームズは小さな声で囁く。

アキ教授が、その、デルフィーと……いい仲だって……」
「…………、冗談だろ?」
「だ、だよなぁ!?」

 何だ、と思わず嘆息してしまう。噂を流した奴の顔を見てみたいものだ。
 うちの父が? あの、母にベタ惚れなのが駄々漏れの父が? わざわざ規則をいくつか曲げてまで、母に会うために毎晩自宅へ帰るあの父が? 浮気?
 フレッドとジョージは、ジェームズの言葉を聞くなり神妙な表情で顔を見合わせた。

アキ殿下が浮気だと……」
「アクア姫というものがありながら……」
「時と言うのは人を変えるものなのさ……」
「……なぁフレッド。可愛い弟がいつの間にか大人になってることに気付いたとき、お前ならどんな気分になる?」
「何言ってんだ、アキは一応、ロナルド坊やのペットのネズミと同い年なんだぜ?」
「やめろ、それ、思い出すと割と萎えるから」
アキも自称するたび、最近結構落ち込むようになったよな」
「主に前髪の生え際を鏡で見てため息ついちゃうやつだな」
「わっかるー……」

 ……なんか別の話題にすり替わってる気がする。

「冗談だよな! うん! ヒカルにそう断言されて安心した!」

 ジェームズは涙ぐみながら頷いている。
 ジェームズにとってうちの父は叔父に当たるし、そうでなくとも生まれた時からずっと見ている家族がバラバラになるかも? という懸念に思わず不安になってしまったのだろう。
 確かに僕も、ハリーおじさんに浮気の噂が立ったら、それがいくらバカバカしいものだとしてもちょっと確かめずにはいられないかも。

「いやぁ、それがさ? ちょっと信憑性の伴う噂だったから、有り得ないだろって思っていても、そうそう笑い飛ばせなくって……元々デルフィーとアキ教授って仲いいというか、アキ教授は面倒見いいから頼られがちだし、よく一緒にいるところ見かけたりするじゃん。噂を聞いた奴らも『ありえない』って顔してたけど、それでも見れば見るほど半信半疑になってしまって……」
「信憑性?」

 首を傾げる。あぁと頷いたジェームズは、今度は真面目な顔をした。

「二人の写真が出回ってるんだ」



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