破綻論理。

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空の追憶

第32話 クリスマス・イブ-αFirst posted : 2023.04.02
Last update : 2023.04.02

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 翌日、クリスマス・イブ。
 クリスマス・イブの朝は早い。今日一日は明日のクリスマス当日のために、買い出しに行ったり料理を仕込んだりと、様々な準備をしなければならないのだ。

 そんなわけで、朝。
 母とジニーおばさんに起こされたわたし達女子組は、クリスマスカードを書き終えるというタスクをこなした後、父のあとにくっついて買い出しに出かけることになった。勿論、リリーとローズの強い希望あってのことだ。モテモテだね、パパ。
 ヒカル達男子組は、残って母達と一緒に料理の準備や部屋のセッティングをするらしい。わたしは知っているんだ、準備を早く終わらせた後、ロンおじさんやシリウスおじさん達と悪戯道具で遊んでいることを……だからいつも家での手伝いを志願することを……。まぁ、わたし達も買い出しの帰りに、三本の箒で父に美味しいものを奢ってもらうのが目当てではあるから、どっちもどっちかもね。わたしはホットココアが飲みたい。

 ともあれ。
 部屋の中は暖かいが、外は相変わらず雪がうず高く降り積もっていて、風は凍えるほどに寒い。
 わたし達が身を寄せ合って震えていたところ、気付いた父は防寒魔法を掛けてくれた。いいなぁ魔法、どうしてわたしはまだ未成年なんだろう?

 寒さから解放されたわたし達は、まだ除けられていない雪をサクサクと踏み締めながらホグズミード村を歩いていたものの、背後から掛けられた声に振り向いた。

アキ! 君も来ていたのか」
「あぁ、ドラコ。それにスコーピウスも、こんにちは」

 ドラコおじさんとスコーピウスだ。
 スコーピウスは父に対して「こんにちは」と礼儀正しく挨拶した後、わたし達に向かって手を振った。わたしも手を振り返したものの、ローズやリリーは険しい顔で、わたしと父の背中に隠れてしまう。どうしたもんかね。

「……ねぇローズ、スコーピウスは同級生なんだよ? アルバスの親友で、そしてわたしの友達なんだよ?」
「わ、分かってるわよ! でも、そうは言っても……」

 相変わらず、ローズの歯切れは悪い。『寮の壁』ってそんなに分厚いものなのかな。
 ……むぅ、仕方ない。奥の手だ。

「……お父さんは、ローズとスコーピウスが仲良くしてくれると、とっても嬉しいと思うなぁ……」

 見るがいい、これが必殺技『相手の良心に訴えかける』だ。弱みにつけ込むとも言う。あくまでもさりげなく、自然に呟くのがポイントだね。
 狙い通り、ローズは虚を突かれた顔をした。眉尻を下げてはドラコおじさんと話している父を見上げ、おずおずとスコーピウスに一歩歩み寄る。

「あの……こんにちは。入学式の日は、挨拶もせずにごめんなさい」
「あっ……いや、いいんです、ミス・グレンジャー-ウィーズリー」

 スコーピウスも緊張した面持ちだ。そんなスコーピウスに、ローズはちょっと微笑んでみせる。

「……ローズでいいわ。なんだか、長い付き合いになりそうだし……それに、ソラとアルバスのお友達、なんだし」
「…………っ」

 ローズはスコーピウスに手を差し出した。スコーピウスの顔が耳まで真っ赤に染まる。
 パッと口元を押さえたスコーピウスは、感動に打ち震えながら呟いた。

「ろ、ローズ……君はまるで、焼きたてのパンのよう……」
「は?」
「その、つまり、いい匂いだねというか……君、僕の好きな匂いで……」

 ウワ、スコーピウスの悪癖が出た。緊張すると、何故か急に意味不明なことを口走り始めるのだ。
 ローズも秒でドン引きしたのが分かった。だって笑顔が引き攣っているもの……手を引っ込めなかっただけ僥倖だ。
 スコーピウスはローズの手をぎゅっと握った後、ハッと我に返った顔で一歩下がった。我に返るのが一拍遅いよ。
 リリーは首を傾げている。

「ねぇソラ、この人だぁれ?」
「アルバスとわたしのホグワーツの友達だよ」

 ローズを『友達枠』に含めるのはやめておいた。だってまだ心の距離が遠いんだもの。もう少し仲良くなってからがいいよ。
 リリーがわたしの背後に隠れたのは、単に見知らぬ人を警戒していたからか。「ふぅん」と呟いた今は一歩進み出ては、スコーピウスとドラコおじさんの二人をじろじろと、ちょっと不躾な様子で眺めている。リリーから視線を向けられて、ドラコおじさんはなんだか凄く居心地が悪そうだ。
 スコーピウスは小さく肩を竦めた後、わたしに尋ねかけた。

「クリスマスは親戚みんなで祝うんだ、ってアルバスから聞いたよ。今日はアルバスやヒカルとは別行動?」
「あ、うん。アルバス達はおうちでお母さん達のお手伝いしてるの。お料理とか、お掃除とか」
「へぇ、アルバスって料理できるんだ」

 スコーピウスは目を丸くしている。
 ……アルバスの名誉のために、本当のことを言うのはやめておいた。寮じゃ料理なんて無縁だろうし、もしかすると卒業までに上手になるかもしれないし……。

「スコーピウスは、何をしにホグズミードまで来たの?」
「今日は、母上に贈る花を買いに来たんだ。母上は花が好きだから」
「アストリアおばさん! 最近は、前よりちょっと良くなったって聞いたよ」
「うん。おかげさまで、今年のクリスマスは家族揃って祝えそうだよ」

 スコーピウスはにっこり笑った。その笑顔にわたしもホッと胸を撫で下ろす。
 アストリアおばさんの体調が良いというのは良い知らせだ。わたしは今年のクリスマスの贈り物として、アストリアおばさんには絵本と一緒に手作りのサシェを贈ってみた。喜んでくれるといいな。

 その時、少し離れたところから声が掛けられた。その声は柔らかに弾んでいたものの、何故かわたしは背中に雪の塊を流し入れられたような気分になった。

アキ! こんなところで、奇遇ですね!」

 ──デルフィーニ・リドルの声。
 何も知らないローズも、ぴょんと跳ねてデルフィーに向かい手を振っている。

 こちらに駆け寄ってきたデルフィーは、ドラコおじさんに目を留めると柔らかな笑みで「お久しぶりです、ドラコおじさま」と頭を下げた。

「ドラコ、彼女と知り合いだったんだ?」
「あぁ、少しな。どうも、両親が以前目を掛けていたとかで……」
「へぇ、彼女の学生時代とか?」
「そうだ。屋敷で何度か顔を……」

 ──父とドラコおじさんの声も、どこか遠い。
 ぎゅっと拳を握ったところで、上からデルフィーの声が降ってきた。

「こんにちは、スコーピウス、ローズ、ソラ」
「こんにちは!」
「こんにちは」

 ローズのはきはきとした声に、スコーピウスの声が続く。
 わたしは握り締めていた拳を開くと、にっこり笑ってデルフィーを見返した。

「こんにちは、デルフィー。あなたもお買い物に来たの? わたし達もだよ」

 わたしの返事を受け、デルフィーの薄紫の瞳が僅かに面白がるような光を帯びる。綺麗に引かれた口紅が、ほんの数ミリ吊り上がった。

「……えぇ、そうなの。ホグワーツのお使いでね。あと、お世話になった人達へプレゼントを買いに来たの」
「そうなんだ、素敵だね」
「あら、あなたにもプレゼントを贈るつもりよ? だってソラは、私が初めて受け持った生徒の一人なんだもの」
「本当に? 嬉しいな、じゃあわたしも、デルフィーにプレゼントを用意するね」

 にこやかに談笑するわたし達を、どこか案じるような目つきでスコーピウスが見つめている。
 ……どうしてそんな顔をするのだろう。不自然なところは無かったと、思うんだけどな。

 わたし達のやりとりに、ドラコおじさんは目を瞠るとデルフィーに声を掛けた。

「驚いた、君は随分と生徒に親しまれているみたいだな」
「歳が近いから友達感覚で接しがちなんです。アキからは、その、先生がこんな態度をするもんじゃないって怒られちゃうかもしれないんですけど……」
「そんなことないよ。それも君が選んだ一つの戦略だ。……ねぇドラコ、『君は』ってことは、私はあまり親しまれてないってこと?」
「え!? いや違っ、そういう意味で言ったんじゃなくって! アキはそのほらっ、素が素だから……」
「へーえ? ドラコ、それって一体どういう意味なのか、詳しく教えてもらいたいな?」

 父がニコニコ笑いながら、ドラコおじさんを追い詰めている。ドラコおじさんはたじたじだ。
 ……お父さん、そういうところだよ……。





 スコーピウス達と別れた後、無事買い出しを終えて帰宅したわたし達は、その後も大人達のお手伝いに駆り出されることとなった。
 とはいえ大変な部分は魔法を使える大人達がやってくれているし、料理の仕込みは男子組がもう済ませているしで、最後の仕上げを残すのみだ。花を生けた花瓶を飾ったり、焼いたケーキに生クリームを絞ったり果物をトッピングしたりするのはなかなか楽しい。

 そうこうしているうちに夕食の時間が来た。人数がべらぼうに多いものだから、今日も夕食はホールだ。そこに、ホグワーツの大広間のような長テーブルを配置している。
 昼にスコーピウスに会ったことをアルバスに話すと、アルバスは驚いた後に「いいなぁ」と羨ましげな目をわたしに向けた。

「ついこの前まで、寮で会ってたんでしょ?」
「そうだけど、でもいざ離れてみると会いたくなるってもんじゃん」

 言わんとすることはわからなくもないけど、それにしたって仲良しだなぁ。出会ってまだ数ヶ月だとは思えない。
 ……いや、出会ってまだ数ヶ月だからこそ、なのかな? 新婚さんのアツアツさというか。アルバスとスコーピウスは新婚さんではないけれど、まぁ意味合いとしては大体合ってるでしょ。

 アルバスの言葉を受け、ローズはこれみよがしに呟いた。

「へーぇ、『いざ離れてみると会いたくなる』ねぇ? それにしてはアルバス、私達のこと全然恋しがってる様子はなかったけど?」
「ちょっと、ローズってば……」

 煽るのはやめなよと思ったものの、アルバスはケロッとした顔だ。

「ソラのことはちょっと心配してたけど、ローズとは離れられてせいせいしたよ。小言を言われなくて済むからね」
「まぁ、なんですって!? もう一回言ってみなさい、アルバス!」
「アハハ! 言葉の通りだよ、ローズ」

 アルバスの快活な笑顔は久しぶりに見た気がする。なんだか少しホッとした。ローズとの言い合いも、なんというか『元に戻った』って感じだ。ローズもぷりぷり怒りながらも、どこか安心した表情を浮かべていた。

「……ねぇアルバス、わたしのことが心配だったってどういう意味?」
「え? そりゃ……行きのホグワーツ特急で号泣してるんだ、心配にならないはずないじゃん? いざ入学してみたら結構へっちゃらそうだったけど」

 うぅっ。でもあの時は、本当に心細かったんだもの。初めての集団生活に不安でいっぱいだったんだもの。
 同室にニーナ・ディゴリーがいなかったら、わたしももっと早くに滅入っていたかもしれない。そう思うと、お友達って大事だよね。アルバスがスコーピウスを大切に思うのもわかるってものよ。

 ローズがボソッと呟いた「でもあの人、ちょっとヘンな人ね……」という言葉は聞かなかったことにした。スコーピウス、がんばれ。いっぺん付いた印象を覆すのは大変だと思うけど、それでもやっぱがんばれ。

「あとね、アルバス。私達、ホグズミードでびっくりする人に会ったのよ。誰だと思う? デルフィーだったの!」
「え!? いいなぁ!」

 アルバスが羨ましそうな声を零す。
 腹の底で覚悟をしていたから、ローズが続けてデルフィーの話をし始めた時も表情には出さなかった。
 アルバスが興味深げに耳を傾けてくれたことに、ローズはなんだか嬉しそうだ。そんな二人に水を差すほどわたしも空気が読めないわけじゃない。

 二人の話に積極的には割り込まないものの、それでも話を振られたら喋るくらいの距離感で、わたしは二人の話を聞いていた。唯一わたしがデルフィーのことを苦手にしていると知っているヒカルは、ジェームズと話をしつつもちらりとわたしの顔を見た。心配してくれてるっぽいけど、わたしは大丈夫だよ。

「ソラとデルフィーは、クリスマスにプレゼントを贈るのですって。私も、デルフィーにクリスマスプレゼントを贈ったらデルフィーからお返しがもらえるかしら?」
「デルフィーはソラがいるハッフルパフの寮監だしね。だったらローズはネビル教授にプレゼントを贈るべきなんじゃない? グリフィンドールの寮監だよ」
「ならアルバスは、スリザリンの寮監であるデイビス教授にプレゼントを贈らないとね? ……あの先生は何をもらったら喜ぶのかしら……。ソラは、デルフィーに何を贈る予定なの?」

 わたし? わたしはいつも通り、本を贈るよ。こういう時は悩まなくてラッキーなのだ。推し作家の本も布教できるしね。
 今回のチョイスは詩集だ。デルフィーが木陰で詩集を手繰っているだけで絵になると思う。わたしはデルフィーに対して底知れない怖さを感じているものの、人間としては嫌いじゃないのだ。

 ……そう言えばすっかり忘れていたけど、リドルさんへのプレゼントはどうしよう? 本って贈ることができるのだろうか。そもそも霊体のリドルさんだ、物理的に本を手に取れるとは思えないし……データで受け渡すの? 電子書籍デビューを考えようかな?

(明日、隙を見て聞いてみようっと)

 ────しかし、そんな隙が見つかることは、ついぞなかったのだった。



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