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空の追憶

第43話 クリスマス・イブ-γFirst posted : 2023.07.10
Last update : 2023.07.10

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 翌朝。僕は、朝日と共に目覚めたヒューゴに襲撃されて目を覚ますこととなった。
 昨夜ぐっすり眠った分、今日のヒューゴはばっちり元気でご機嫌だ。僕は眠い……ヒューゴが僕を起こしたのは、僕がいつもこのくらいの時間に起きてくることを知っての上ではあるのだろうけど、昨日いろいろあって夜更かしした分、睡眠時間が足りない……。

「ヒカル、ホラ見て! 雪ヤバい! 雪合戦しよ!」
「うん……朝ごはん食べてからな……」

 窓辺から見える一面の雪景色にテンションMAXなヒューゴをあしらいつつ、二人で爆発スナップなどしてジェームズとアルバスが起き出す時間まで待った後、朝食のために男子組全員で階下のホールに向かう。
 先にヒューゴと二人で朝食をとりに向かってもよかったものの、部屋に残されたジェームズとアルバスが万一ケンカを始めたらと思うと……面倒が勝った。何にせよ、朝っぱらから誰かと誰かがいがみ合う姿は好んで見たいものではない。胃がもたれる。

 起きたジェームズとアルバスは、二人仏頂面で黙りこくっていた。朝食の最中も口をきく様子がないものだから、女子組と共に降りてきたソラはギョッとした顔をした。

「ねぇ、どうしたの? 何かあった?」
「夜、ちょっと部屋でな……」

 そろそろと尋ねてくるソラに肩を竦める。ソラはジェームズとアルバスを見て「あぁ……」と小さく声を漏らした。
 ジェームズとアルバスの間に漂う空気は最悪だったものの、何も知らないリリーが二人の間に座って朝食を取り始めたことで、張り詰めていた空気は少しだけ緩んだ。

 一足早くに朝食を終えたヒューゴは、待ちきれないとばかりに駆け寄ってきた。
 
「ねぇヒカル、早く行こう! 雪が溶けちゃう!」
「そう簡単には溶けないから。ヒューゴ、ちょっと待って……」

 紅茶を流し込みながらもごもごと答える。
 僕らのやり取りが耳に入ったか、ソラの隣にいたローズが「どうしたの?」と身を乗り出し尋ねてきた。ヒューゴが雪合戦を楽しみにしていることを告げると、ローズは目を輝かせて手を打ち鳴らす。

「それじゃあ朝ごはんを食べた後、皆で雪合戦でもやりましょうよ!」





 雪合戦といっても、単に雪玉を相手に投げつけるだけの遊びではない。
 何せここは魔法界だ。未成年魔法使いは学校の外で魔法を使うことが許されていないとは言え、魔法道具や悪戯道具はその限りではない。爆発スナップを雪玉の中に仕込んだり、ゴブストーン入り雪玉で相手の嗅覚を攻撃したりと、戦術は様々だ。おまけにロンおじさんやシリウスおじさんがたびたび参戦したり野次を飛ばしたりしてくるものだから、思わず戦いにも熱が入る。

 一通り遊んで、ふぅと僕はベンチにもたれた。
 ジェームズとアルバス、ヒューゴとリリーはまだキャッキャと雪玉を投げ合い遊んでいる。身体を動かすことで、ジェームズとアルバスの間に漂っていた空気もほぐれてきたようだ。先程よりも笑顔が気安いものに変わってきた。

「ソラは寒そうにしてたから、部屋の中まで送ってきたわよ。このまま外にいたら風邪引きそうだったし」
「あぁ、ありがとう、ローズ」

 再び庭へと戻ってきたローズは、そう言いながら僕の隣に腰を下ろす。

「ヒカルの言う通りね。ソラ、何か変だわ。何か悩み事でもあるのかしら?」
「あのお気楽娘が悩み、ねぇ……」

 あんなに普段のほほんとしている妹が、一体何を悩んでいるというのだろう。謎だ。
 ローズはぱちぱちと目を瞬かせた。

「恋でもしたんじゃない? あ、兄としては複雑だったり?」
「別に……というか、そういう恋バナこそ女子会で話題になるやつだろ。何も聞いてないのかよ」
「そう言われると、無かったわ」

 そうですか。
 まだ遊んでいる面々を眺めつつ、ローズは「アルバスとジェームズの様子も気になるし……」と小さくため息をついた。

「昨夜は、結構派手にぶつかった感じ?」
「まぁ、まぁ……分かりやすいくらいには荒れてた?」
「二人がというよりは、ヒューゴがね。……あの子、周りの空気が良くないと感じ取ると、目に見えて甘えたり構ってほしそうに纏わりついたりしてくるのよ」
「なるほど、そういうことか……」

 ……しかし、困ったな。
 昼からは買い出しと家の準備と、子供側も二手に分かれるのが常なのだ。いつもは男子組が家の準備、女子組が買い出しに行くものの、今はなんとなく、ソラからもアルバスからも目を離したくはない。
 かと言って僕一人で、ジェームズとアルバスが言い合うのを止めるのも限界だし……うーん。

 僕の呟きをあらあらと聞いていたローズは、突如ニコッと微笑み身を寄せた。

「ねぇヒカル、私がジェームズとヒューゴを引き受けましょうか」
「え?」
「今年は特別、よ。ソラやジェームズと交渉してあげるわ。さっきやんわりとソラに聞いたら、ソラは買い出しに行きたいって言ったの。私がジェームズとリリーとヒューゴと一緒に家仕事をするから、ヒカルはソラとアルバスを連れて、アキ教授と買い出しに行ったらどうかしら」
「……そりゃありがたいけど、何が狙いだ?」

 なんだか、やけにローズの愛想がいい。少し警戒しつつ尋ねると、ローズはにんまりと笑った。

「ソラの好きな人より、今はヒカルの好きな人が気になるわ」
「は?」
「誤魔化しなさんな。ねぇ、一体誰なの? ヒカルの好きな人の情報と引き換えなら、今日の苦労を引き受けてあげる。アキ教授と一緒にお出かけできる権利を放棄してるんだから、そのくらいの見返りはないとね」
「はっ? えっ、ちょっと、え?」

 どうしていきなりそんな話に? というか、えっ? 一体どこからそんな話が出てきた?
 混乱する僕に構わず、ローズはぐいぐいと僕に身を乗り出してくる。ちょっと、やめなさい。おい、異性の膝の上に跨ろうとするな、はしたない。

「待て、ローズ、やめろ……離れろって! 人が気付く!」
「ヒカルが教えてくれるってんなら、引いてあげるわ」
「く……分かった、分かったから! だから引いてくれ!」

 にっこりと微笑み、ローズはやっと僕の上から引いてくれた。……あぁ、もう、心臓に悪い……。

「……ローズ、他の奴にもこんな距離感を許しちゃダメだぞ。すげぇ心配になる」
「あら、いとこ同士なんだからいいじゃない」
「いや、僕とローズはいとこ同士じゃないだろ……」

 ローズはロンおじさんとハーマイオニーおばさんの子だ。ジェームズやアルバス達とはともかく、僕やソラとはどこをどう辿っても血は繋がっていない。
 そう言うと、ローズは「そうだったっけ。ま、対して変わりないでしょ」としゃあしゃあと言ってのけた。全く……。

「それよりも、ヒカルの好きな人よ。ほらほら、あなたはまさか一度発した言葉を違えはしないわよね?」
「……まぁ……、ハァ……」

 一体どうしてこうなった。
 眉間に寄る皺を押さえつけながら、目をキラキラと輝かせているローズに小さな声で耳打ちする。僕の言葉を聞いたローズは、大きく目を見開いては口元を押さえた。

「えっ、えっえっ!! そうなの、ヒカル、そうなの!? 嘘じゃないわよね! こんなしょうもない嘘をつく人じゃないものね!」
「声が大きい……ローズ、いいか、絶対に人に言うなよ。絶対に。じゃないと呪うからな」

 きゃあきゃあと一人ではしゃいでいるローズに釘をココンと刺す。ローズはこくこくと頷いたが、口元はずっとにやけていた。頭が痛い……。

「ね、ね、ね、他に誰が知ってるの? ジェームズは?」
「ジェームズは知ってる、つーか、その、何か気付かれて……他の奴は多分、知らないと思うんだけど」
「ほぉぉ〜、さすがジェームズ……いやー、ヒカル、そうなんだなぁ……そういうことなんだぁ……」
「…………」

 いつまでもからかう視線を向けてくるローズの額を、一発べしんと叩いて立ち上がる。「いったぁ!?」とローズは大袈裟に悲鳴を上げて額を押さえた。

「やかましい。僕はちゃんと教えたんだからな。交渉の話、忘れんなよ」

 じろりと睨む。ローズは額を押さえたまま「任せといて!」ともう片方の親指を立てた。




 
 ローズが任せといてと言うだけあって、アルバス達には既に水面下で話が回っていたようだ。昼過ぎには揃ってソラとアルバスと共に、ホグズミードへと出発することになった。
 ソラは戸惑った顔で「いつもと違う……」と呟いていた。そりゃそうだ。

「ローズも何か企んでるようだったし、ねぇヒカル、何かあった?」
「いや別に。たまにはいつもの組み合わせを変えてみたいと思っただけ」

 やたらと尋ねてくるソラにきっぱりと言う。
 ……嘘は言っていないからな。

 ソラは「そう……」と言っては何か考え込んでいたものの、積もった雪に足を取られてすっ転んだ。「ひゃあっ」と情けない声を上げて雪に突っ込んだソラを見て、アルバスが慌てて助け起こす。
 何やってんだとため息をついたその時、少し離れた場所から弾んだ声が聞こえてきた。

「アルバス? アルバスじゃないか! こんなところで会えるなんて……、……ソラ、どうしたの? 大丈夫?」
 
 通りの向こうから駆け寄ってきたスコーピウスは、アルバスに引っ張り起こされているソラを見て戸惑ったような苦笑いを浮かべた。やっとこさ立ち上がったソラに歩み寄っては、鼻先についた雪を払ってやっている。

「待ちなさいスコーピウス、どうし……た……」
 
 スコーピウスを追いかけて、後からすぐにドラコおじさんが走り寄ってきた。ドラコおじさんは、アルバスと親しげに話しているスコーピウスに目を剥いた後、僕らと一緒にいる父を見つけては狼狽した顔をした。
 やがて我に返ったドラコおじさんは、バツが悪そうに頬を掻きつつ父に笑いかける。

「……やぁ、アキ。会えて嬉しいよ……いや何、その、本当にスコーピウスとアルバスは仲が良いのだなと驚いてしまって……」
「やぁドラコ。ふふ、見られてよかったね。今日は買い出しに?」
「あぁ。アストリアへ贈る花を買いに、な。彼女は花が好きだから。お前はアクアに花を贈らないのか?」
「花かい? それは贈ったことないなぁ。だってアクア、あまり花に興味なさげだから」
「確かに、あいつは花を愛でる趣味は持っていないが、以前スミレだけは好きだと言っていたぞ」
「……は? なんでドラコがそんなこと知ってんの?」
「お、幼馴染だからだ! 他意はないから本気マジ顔でにじり寄ってくるな!」

 ……父とドラコおじさんも、なんつーか、いつも通りって感じだなぁ……。
 
 ソラとアルバス、スコーピウスは、三人で和気藹々と笑い合っている。ほのぼのとした空気を感じ、僕はそっと息を吐いた。
 ……気にしすぎ、だったのだろうか。
 いつもと様子が違うソラを深読みしすぎた。こんなんじゃシスコンのそしりは免れまい。相も変わらず『仲良し兄妹ね♡』のような目を向けられ続けるのは不本意なのだ。

(……、でも──)

 その時、ソラの肩がびくりと大きく跳ねた。そのままソラが勢いよくこちらを振り返ったので、僕は思わずびっくりしてしまう。
 ……いや、僕じゃない。怯えすら滲むその瞳は、僕を透かした、その背後を────

 
「──あら、アキ。こんなところで、奇遇ですね」


 艶のある、それでいて気品ある声。人の心をするりと掴む、万人に好かれそうな聞き取りやすいその声に──
 しかし、僕の妹は、冷たい雪玉を背筋に流し込まれたかのように身震いをした。

「デルフィー!」

 アルバスが、熱の籠った弾んだ声を上げる。スコーピウスはソラを見て、どこか気遣わしげな顔をした。
 その人物──デルフィーニ・リドルに対し、父は朗らかに挨拶をした。

「デルフィー、こんにちは。買い出しかな? 学校の様子はどう?」
「特に変わりなく、順調ですよ。悪戯っ子達がいない分、普段よりずっと楽ちんです」
「そう。それは良かった」

 言いながら、父がどこか面白がるような視線を僕に向けてくる。違うでしょ父さん、その目はジェームズに向けるべきだよ。僕はどこをとっても品行方正な優等生なんだから。
 にっこり笑ったデルフィーは、ドラコおじさんを見て軽く頭を下げた。

「それに、ドラコおじさまもお久しぶりです。お元気そうで何よりですわ」
「あぁ、私も君の活躍は聞いてるよ。大変な中よく頑張ってるそうじゃないか」
「ドラコ、彼女と知り合いだったんだ?」
「あぁ、少しな。どうも、両親が以前目を掛けていたとかで」
「へぇ……」

 何故かは分からないものの、父の声音がほんの僅かに変わったのが分かった。顔を向けず、耳に意識を集中させる。
 
「なら、彼女の学生時代とかも会ったことがあるんだ? 知らなかったなぁ」
「そうだ。屋敷で何度か顔を合わせたことがある」
「そういや昔、ドラコはダームストラングに転校したいって言ってたっけ。あちらに縁者がいたりするのかな?」
「そんな昔のことをよく憶えているものだな……あれは、その、当時の気の迷いというか、私もまだガキだったんだ。蒸し返すんじゃない。でもそうだな、あちらには……」

 その時、デルフィーが子供達を見下ろした。目線を近付けるように腰を屈め「こんにちは、アルバス、スコーピウス、ヒカル、ソラ」と微笑みを浮かべるのに、思わず注意もそちらに向かう。
 ハキハキと挨拶を返した皆に合わせ、ソラは握っていた拳を開くと微笑んだ。

「こんにちは、デルフィー。こんなところで会えるなんて、なんか嬉しいな」

 その声は実に自然で、僕は軽く目を瞠った。同じく一瞬驚いた顔をしたデルフィーは、すぐさま艶やかな笑みをソラへと返す。
 
「あら、ソラにそう言ってもらえるなんて、私も嬉しいわ。実は今日、クリスマスプレゼントを用意しに来たの」

「えっ、ソラにだけ?」と零したアルバスに「アルバスにも、みんなにも、ちゃんと用意してるわよ」とデルフィーは優しく微笑んだ。

「君、まさか受け持った生徒全員にこうしてプレゼントをしているのか?」
「えぇ、ドラコおじさま。だって、私が初めて受け持った生徒達ですもの。何かしたいんです」
「はぁ……よくやるな。頭が下がるよ」
 
 ドラコおじさんは苦笑する。
 そこで、ソラは笑みを浮かべたまま、デルフィーに一歩近付いた。

「ねぇ、デルフィー。あの日記帳は、一体何だったの?」

 日記帳? と、僕はきょとんと目を瞬かせた。
 ソラは一体、何の話をしているのだろう。
 デルフィーも一瞬、面食らったように息を呑んだ。

「……言ったでしょう? あなたとは、仲良くなりたいの」

 美しく引かれた口紅が、彼女の口元で弧を描く。
 目を細めてソラを見たデルフィーは、なんとも妖しげに微笑んだ。

「私からのメッセージ、どうか受け取ってもらえると嬉しいわ」



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