破綻論理。

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金曜日のパラドクス

第5話 青色の林檎First posted : 2018.12.01
Last update : 2023.02.23


「こんなクソさみー日には、やっぱり鍋だろ、鍋」

 そんな太刀川さんの鶴の一声で、我が鷹月隊と太刀川隊は、急遽合同で鍋パーティーをすることになった。
 買い出し班は俺と出水。他の面々は……なんだろうなぁ。何やってんだろうなぁ。体良く面倒で大変な役目を押し付けられたような気がしなくもない。

「そんなことを言いながら、一番しんどい役目をボクに押し付けてるのはあなた方ですからね!?」

 太刀川隊所属の唯我が喚く。おぉそうだ、唯我のことを忘れていた。

「唯我、お疲れさん。どーだ、買えたか?」

 土曜夕方のスーパー、豚こまが百グラム四十円の超特価激安タイムセールという名の戦場からヘロヘロで戻ってきた唯我は、文句を言いながらもドヤ顔で、腕に抱えた肉のパックたちを見せつける。やるじゃんとついつい甘やかせば、唯我は『ボクをあの地獄に突き落としたのはあなた達なんですからね』というポーズを崩さずにはいたものの、それでも嬉しそうに照れ照れと頰を緩めていた。なんだよお前可愛いかよ。
 隣では出水が、買い物かごの中身を検分しては、あと何が足りないかをチェックしていた。どれどれと俺も覗き込む。

「白菜、しいたけ、糸こんにゃく、しらたき、豆腐、ねぎ、肉団子、に、唯我が取ってきた肉。あとなんかいるっけ?」
「もち巾着?」
「あ、それ」

 さっすがは弟弟子、と出水が茶化した。お前にとっても隊長だろーと言いながら、もち巾着の売り場まで引き返す。

「締めは雑炊?」
「ラーメンじゃね」
「うどんでしょ」

 各々意見が分かれたので、それぞれ適当に食べたいものをかごに入れた。みんな育ち盛りの若い奴らだ、買い過ぎて余るなんてことはない。あとは、これまた各人が好きなお菓子にジュース。お会計は、太刀川さんからなんと一万円を既に預かっている。

「こーゆーときは」
「頼りになりますっ大学生ー!」

 偶像の太刀川神を拝む俺と出水を、唯我ははぁとよくわかっていなさそうな顔をして見つめていた。御曹司だからなぁ、今までものを買うときも、値札とかじっくり見たことなかったんだろう。さっきもタイムセールに群がるおばちゃんたちに恐れおののいていたし。社会科見学だと言って背中を押したのは俺たちだけども。
 買うだけ買って袋に詰めると、八人前の鍋の材料ということで中々のものになった。ふむ、と腕を組んでは、ちらりと出水と目を合わせる。

「「やだ、おもーいっ☆ 唯我くん、持ってぇ~☆」」
「ボクより体力あるお二人が何を!」
「うるせぇ先輩命令だぞ」

 まぁ冗談だ。後輩をいじめたりなんてするわけがないだろ。

「むしろ鷹月はいじめられる方だからな」
「太刀川さんとかに?」
「女子中学生とかに」
「ヤメロ」

 否定し切れないあたりがめちゃくちゃしんどい。

「……え? つか出水から見た俺って、女子中学生にいじめられてるみたいに見えてんの? マジで?」
「唯我、その持ち方だとネギが飛び出す」
「おい、答えろよ出水!」

 冗談だよね? 冗談だよね出水クン!





鷹月センパイ帰ってくるの遅くないですか? もっと早く帰って来れたんじゃないですか? 私たち、もうだいぶ待ったんですけど……お腹ぺこぺこのペコちゃんなんですけどぉ……」

 ……女子中学生にいじめられてるのもあながち冗談じゃないかもしれないと、我が鷹月隊のオペレーター雨雫澪(14歳、現役バリバリの女子中学生)に物凄い顔で出迎えられた俺は、心のうちでそう呟いた。
 じっとりとした迫力に「ごめん……」と思わず唾を飲んでは一歩下がる。「まぁまぁまぁ」と取りなすように俺と澪の間に入った出水は、「太刀川さんはもういる?」と鷹月隊の作戦室を覗き込んだ。

「あ、はい、いますよ……唯くんと柚宇センパイとゲームしてらっしゃるので、お部屋のお片付けもセッティングも私がひとりでしたんですから……」

 分厚い前髪の奥で、大きな目がきゅっと寄る。恨みがましい口調の澪を労るよう、出水が「大変だったな」と声を掛けた。

「いえ……別にいいですけどぉ……私たちのお部屋なので太刀川さんや柚宇センパイにお手伝い頂くわけにもいきませんし……唯くんに触らせたら、唯くん独自のルールで片付けられちゃいますし……」
「まぁな……あれ? 律は、手伝ってくんなかったの?」

 我が鷹月隊、もうひとりの隊員の行方について尋ねると、澪は更に物言いたげな目でこちらを睨んできた。なんだなんだと身構えたその時、何故か部屋の中からではなく、外の廊下の方から聞き慣れた声が聞こえてくる。

「うはははーー!! たっいちょーー! おっかえりなさーーーーい!!」

 両手に買い物袋を持っていたので、飛び退くのが一歩遅れた。あと下手に避けたら眼前の澪を巻き込むという思いもあった。
 背中に容赦なく飛び膝蹴りが叩き込まれる。背骨なのか内臓なのか、とにかく身体のどっかからゴキッと鈍い音がした。そのまま部屋の中に転がり込んではしばし呻く。

「隊長おかえり! 鍋パでしょ? 今日は鍋パでしょ? 鍋パってことはパーティーだ!! パーティーだよ隊長! ほら早く、いつまでも床とあっつい抱擁交わしてないで! 何をぼさっとしてんの、きゃっほう鍋だー!」

 俺の背中に乗ったまま、我が鷹月隊の攻撃手アタッカー綾崎律(14歳、こちらも女子中学生)はひとり上機嫌だ。かろうじて「……律」と呻く。

「ん? どーした隊長?」
「重い。どけ」
「おお、それは失礼したぞ」

 男前な返事と共に、背中の重石が引いて行った。普段はトリオン体だから割と平気だけど、生身で食らうと流石にしんどい。具体的に言うと、なんか背中側から内臓に響く鈍痛がある。
 鮮やかな赤い髪をくるんと後ろで巻いた律は、見た目だけならキリッとしたかっこいい女子なのだが……なんだろう。俺の隊員キャラ濃くって俺は割と疲れちゃうな……俺しかまともなやついないもんな……。

「律、お前、澪ほっぽいて何してたの?」
「んっ? あぁ、学校に忘れ物をしちゃったんだよ」
「しちゃったのか」
「うん。定期券を忘れたんだ。ここに着いてから気が付いた」
「ここまで来て!? お前の学校からここまで結構距離あるよな!? まさか歩いてきたのか!?」
「はは! 女子校の位置をよくご存知と見える。流石は隊長!」
「褒めてねぇだろその言い草!」

 俺、本当に女子中学生にいじめられてるのかもしれない。
 一応補足をしておくと、律と澪の通っている女子中は、俺の幼馴染である那須玲の母校だから知っているというだけだ。決して、変な意味ではない。
 その時、今度は部屋の中から悲鳴……もとい、泣き声が聞こえた。

「わぁぁぁぁっ! 唯くんのバカっ、バカバカバカぁ!!」
 そう叫びながらコタツの上にコントローラをぶん投げたのは、太刀川隊のオペレーターである国近柚宇先輩だ。
 バカと言われた我が隊の狙撃手スナイパー、宮瀬唯(13歳、不登校児)は、憮然とした顔で言い返す。

「バカじゃないもん」
「それじゃあ卑怯だ! 卑怯だよ!! フェアプレー精神というものがないのかねきみぃ!!」
「フェアプレー? はっ、そんなの鷹月隊にいて養われるわけないでしょ?」

 やめろ唯、どさくさに紛れて俺の隊を貶すな。……お前、本当はそんな風に思ってたの……?
 国近先輩と唯が言い争いを始めて、場は更に混沌とした様を呈している。俺に目を留めた太刀川さんが「!」と俺を手招きした。

「国近が投げたからひとり足んねーんだわ。ほれ」
「やりません」
「えぇっ、なんでよ」
「やんねーって言ってんだろ」
「どうして?」

 あいててと背中をさすりながら起き上がった。全員を見渡して、俺は宣言する。

「今から! 鍋を! します!」





 鍋の準備は、それまでの大騒ぎが嘘のようにつつがなく終わった。みんな有能だし器用だし、本気を出せばホラこの通り。切った具材を出汁と共に鍋にぶち込んでは、蓋を閉めて卓上コンロでぐつぐつ煮込む。なんだかんだでみんなお腹は空いていたから、食べて、煮込んで、食べて、煮込んで、また食べて。ひとしきりお腹が満たされるまでは、みんなおとなしいものだった。
 ──でも、おとなしいままで終わるわけがないのが、悲しいかな我が鷹月隊の面々である。……いや……チーム戦ではほんと、頼りになる隊員たちなんだけどね? なんでだろうね? たまに殺意が湧くんだ……。

「じゃあ、次は闇鍋ですねぇ」

 のほほんと澪が言った言葉に、ついつい思考が止まった。今、なんて?

「そうだね、そろそろだと思ってたんだ」

 律が無邪気に同意する。何そのナチュラルな空気感? え、俺がおかしいの?
 そんな楽しそうなことを、黙って聞いている太刀川さんではない。目を輝かせた太刀川さんが「なんだそれ楽しそうだな」と参戦してくるのは避けられなかった。そして太刀川さんがこういう悪巧みに加わると、話の速度が一気に増すんだ……誰にも止められないんだ……。

「し、締めは何にしましょう!? 雑炊? ラーメン? それともうどんっ?」
鷹月隊長空気読んで」

 ばっさり!! お前らに言われたくねぇよ!!

「闇鍋とは?」

 唯我が興味津々な顔で尋ねる。

「唯我先輩、闇鍋知らないんですか? 常識ですよ?」
「そ、そうなのか?」
「庶民の常識です。知っておくいい機会かと」

 澪テメェ適当なことしたり顔で言ってんじゃねぇぞ。唯我が信じちゃうだろ。

「常識なの?」
「そうっすよ柚宇さん」
「そうなのかー」

 出水も適当なこと言いやがって! 唯はまさか乗らないよなと期待を持って隣に目をやると、唯はいつも通りちゃっちゃと食べては、興味なさげにゲーム機を開いていた。自分と同じ側がいたぞと喜んだものの、唯はなんにもしないので実質ひとりなのは変わらない。
 乗り気でない俺をさておいて、俺と唯以外の面々は興味津々のようだった。言い出しっぺの澪が、闇鍋のルールについて説明をしている。

「闇鍋って言うのは、各々持ち込んだ材料を暗闇の中で鍋に入れて煮込んだ後、暗闇の中で食べるという催しです」
「? 暗いだけで普通の鍋とやってることはそう変わらないのでは?」
「そうですね、唯我センパイにとってもそうなれば良いですねぇ」

 澪の言葉は不穏さが漂っている。唯我もそれは感じ取ったのか、慄いた表情で僅かに身を引いた。太刀川さんが口を挟む。

「まぁ、入れるものに制限は設けさせてもらうがな。みんなトリオン体だから、多少の無茶は利くと思うけど。それでもちゃんと『食えるものを入れる』こと。あと『取ったものはちゃんと食う』こと」

 あまりにもざっくりしすぎて不安にはなるけど、流石は最年長だ。しっかりしてる。『取ったものはちゃんと食う』ってことで、流石に皆、自分が絶対口に入れたくないものは入れないだろう。

 鍋の中身を新しいものに取り替える間、闇鍋に入れるものを探しに各々が散って行った。ひとり部屋に残された俺は、ううんと考えた後『のど飴(りんご味)』と『バナナ』をチョイスする。なんだかんだで、選んでいる時が一番楽しい。後は、さっきの鍋で余った具材を適当に入れてしまおう。
 みんなが何かしらを後ろ手に隠したまま戻ってくる。再びみんながコタツに入ったのを確認して、唯は天井に目を向けた。

「Al〇xa、電気消して」

 唯の言葉に、ふっと部屋の電気が消える。

「えっそんなことできんの!? 俺初めて知ったんだけど!? いつの間に導入を!?」
「僕の自作。見様見真似のエセだけどね」

 知らなかったよ俺の隊なのに! 俺が一番長くこの部屋で生活してんのに!

「でも名前パクってんじゃん」
「じゃあ隊長が良さげなの考えてよ」

 ともかく暗くなった部屋で、各々がそれぞれ持ち寄ったものを鍋に入れては卓上コンロをスイッチオンする。しばらくはみんなテンション高めにワイワイしていたけれど、徐々に酸っぱくもあり甘くもありスパイシーそうでもありな、なんとも言えない香りが漂ってきて、思わずみんな無口になった。

「……開け、るか……」

 そう言ってはみたものの、これはパンドラの匣なのではないだろうか。開けたら最後、誰も幸せになれないんじゃないか。そう思いながらも、しかし始めた手前ここで引き返すわけにはいかない。

「この辺りで、いっつも毎回後悔するんですよね……」

 澪が呟く。ならやるなよ。
 鍋の蓋を開けると、途端にぶわりと蒸気が広がった。「うっ……」と思わず何人かが声を漏らす。

「よし……じゃあ、行くぞ……!」

 誰もが心なしか怯えを見せる中、やっぱり真っ先に突っ込んで行くのは太刀川さんだ。今は暗闇の中だから表情は伺えないが、きっとキリッと覚悟を決めた男の目をしていることだろう。
 太刀川さんが先陣を切ったのを見て、各々我先に、というよりは渋々、鍋の物体Xを自分の皿に取り分けた。箸に持ち変えると、摘んだものを恐る恐る口に入れる。

「うっ……」

 奥歯で噛むと、何だかジャリっと音がした。せんべいか何かだろうか、闇鍋の汁を吸ったそれはもはや食べ物というより劇物で、喉の奥に甘さと辛さが絡みついては思わず咳き込む。

「うげぇ……」
「これは……」

 周りから湧く声も何とも言えない。一言で言えば、めちゃくちゃ不味い。不味いくせに食えるは食えるからタチが悪い。おまけにトリオン体だから、何食っても腹は壊さないであろうところが福利厚生手厚くてムカつく。
 なんとか飲み込んでは一息をついた。喉を滑り落ちていく感覚もヤバい。

「人間不信に陥りそうな味がする……」
「食べ物に対する冒涜だ……」
「農家の人や作った人に謝れ……」
「「「「ごめんなさい……」」」」

 これぞ闇鍋感。「誰だよグミ入れたの」だの「ぼんち揚げクソ不味い」「ミカンは割といける」「マジで?」「皮ごと入ってたから剥けばぬるいだけのミカン」だの諸々が聞こえる中(ぼんち揚げ入れたの誰だよ)、勇気を出してもう一度箸を伸ばした。恐る恐る口の中に入れる。瞬間ゴフッと咳き込んだ。

「……っ、誰だよ闇鍋に最中入れたの!!」
「おっ、が当たったか」
「マジで太刀川さんアンタ許さねぇからな!!」

 最中ヤバい。そもそも外側の最中が地獄の汁を吸うのはやっぱりまずい。溶けてどろっとした皮と、中の餡の組み合わせが、出会っちゃいけない運命だった。決して混ざり合わぬハーモニー。

「あれ? お、おい唯我、お前、やけに静かだけど、大丈夫か?」

 みんなが好き勝手に声を漏らして呻いている中、唯我の声だけが全く聞こえてこないので、思わず不安になって声を掛けた。すると少し経ってから「うっ……うっ……」と嗚咽が聞こえてくる。……って、泣いてる!?

「ちょっ、唯我! Ale〇a、電気つけて!」

 しかし電気は消えたままだ。あれなんで!?

「あ、隊長、僕の声じゃないとAl〇xaは言うこと聞いてくれないよ」
「なんでそんなことするかなぁ!?」

 唯の「A〇exa、電気つけて」という指示で、やっとこさ部屋の灯りがついた。えげつない色をした鍋を見て見ぬ振りしながら、えぐえぐと心の底から悲しそうな顔で泣く唯我を宥める。

「うっ……こんな……こんな美味しくないご飯が、あっていいはずがない……ひっく……」
「わかった、わかった! おーい中止! 中止ったら中止!」

 その後、仕切り直しとばかりに極々普通の鍋で極々普通に雑炊を作ったのだが、極々普通に美味しくって、その普通さに全員が涙した。
 あぁ、やっぱり、普通って最高だよな。





 後日談。
 今回の闇鍋のことを玲に話したら、なんと玲は那須隊で闇鍋パーティーを開いたらしい。確かに、やけに情感持って聞いていたなというか、しげしげと興味を示していたなとは思っていたのだが、実際やるとは予想外だった。あいつの好奇心は底なしかよ。

「はは、は……楽しそうで、何より」

 送られてきたのは、死屍累々の隊員たちと共に、ひとり生き生きとした顔でこっちにピースを向ける玲の自撮りと『闇鍋パなう☆』という一言。俺はしばらく悩んだあと『イイネ!』とだけ返した。

 後日「鷹月!! 玲に闇鍋をそそのかしたのアンタでしょ!!」と熊谷に斬りかかられるのは、まぁ、言うまでもないお話。



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